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暗く、辺りが柔らかな、温かい色のライトで照らされている
シルフィーランド二大ジェットコースターのもう片方、スプロッシュファウンテンに並んだ。
「キャー!」という悲鳴と共にザザーンというのか、バシャーンというのか、水飛沫を上げる音が聞こえる。
やはりシルフィーランド、二大ジェットコースターというだけあって
待ち時間はなんと100分。1時間40分である。とんでもない。木造の納屋のような部分を進む。
水車を回すための歯車があったり、土壁が剥き出しの壁があったり。
木の匂い、水の匂いに混ざって本当に少し土の匂いもした。
水に関するジェットコースターだからか、少し涼しい気もした。木が張り巡らされている通路を進んでいく。
次第に木も無くなり、洞窟のような、坑道のような、石を積み上げてできている今にも崩れそうな柱
坑道にあるような少しチラチラするランタンのような
蛾なんかが群がっていそうな灯りが吊り下げられている。
さらに進んでいくと小さな家が現れる。その逆サイドには悪そうなウサギのキャラクターの飾りが。
さらに進むと凹みの部分に喋るおじいさんフクロウが。
木造だが懐かしい水を出し、飲む機械、青春時代僕たちはウォータークーラーと呼んでいた
機械が子ども用と大人用のように背の低いものと背の高いものが並んで設置されていた。
「懐かしっ!」
鹿島もそう思ったらしい。言った側から鹿島は水を出し飲んでいた。
「わかる。めっちゃ懐かしい」
「鹿島はイメージだとふつーの水道のほうがお世話になってそう」
「あぁ~…あぁ!うん!うん?まあ、それ部活のイメージだよね?」
「そうそう。あのサッカー部のイメージ。匠わかるっしょ?サッカー部のアニメとかのイメージよ」
「あぁ~はいはい。あの、あれね?あの校庭の傍にあるあのぉ~なんてーのあれ。
手洗い場?水飲み場?あのコンクリで作られてる蛇口が何個もついてるやつね?」
「そそ。あそこで頭洗ってるイメージ」
「はいはいはい。やってたやってた」
「やっぱやってたんだ?」
「友達とか先輩、後輩もやってたよ。なんなら女子に見せつけるように」
「チャラいなぁ~」
「チャラいね」
「うちの代のサッカー部は強くてカッコいいが格言だったから」
「強かったん?」
「いや?そんなに」
「なんやねん」
「いや、弱くはなかったよ?決して。でも強くはなかったね。あんなに汗かいて練習したのに」
「でもその汗もカッコいいんでしょ?」
「そのとーり。その汗を練習着で拭うときの」
と言いながら鹿島がその場でやってみせる。Tシャツの裾口を持って口を拭う仕草をする。
そのときにそんなにバキバキではないが割れて引き締まった腹筋がチラリと見える。
「ここね。このチラリズム。このためだけに腹筋割ってたからね」
「カッコよさに賭けすぎだろ」
「でもへそピはしなかったんだ?」
「しようかとも思ったんだけどね。先輩にもそれ話したら「千切れるで」って言われたからやめた」
「怖っ。千切れるって」
「案外手使って体触りつつマークするときあるからさ、そのとき運悪かったら千切れるって。
先輩の先輩?かなんかが練習中に、千切れたときは気づかなかったらしいんだけど
後々腹から血出てんの気づいて「あ、千切れた」ってなったらしい」
「想像もしたくねぇ」
「でも匠ちゃんよくへそピしたね。高校からしてたんでしょ?」
「してたよー」
「体育のときとかバスケあったでしょ。バスケなんてサッカーより激しいじゃん。体のぶつかり合いというか」
「まあぶつかり合いはないわけないよね」
「だよね。オレも体育でバスケやったからわかるわさすがに。
サッカーはディフェンス…まあオフェンスでもマークから逃れるときに
まあまあ手使ったりするけど、バスケは基本ボール奪うのは手じゃん?大丈夫だったの?」
「うん。バスケって大抵中腰だから。ドリブルのときもお腹の前ではしないから
ボール取られるときも手がお腹周りにあたったことないから」
「あぁ、ゴリラディフェンスってやつね」
「まあ、そうかな?怜夢」
「あ、そっか。怜ちゃん元バスケ部だもんね」
「まあ、1年?だけですが。まあそうね。ゴリラ、ね。あったなぁ~。懐かしい」
そんな懐かしトークをしながら周りの作り込みを見ながら進む。
石化した木に小さな窓がついていたり、入り組んでいて下のほうにも上のほうにも人が並んでいるのが見え
「マジ?」
「ガチ?」
などみんなで顔を見合わせて驚いたりしていた。ついにアトラクションの乗り物の乗る乗り場が見えた。
下り坂になっている曲がり角を下りながら曲がるとやっと乗り場がすぐそこに迫った。
乗り場周辺に来るとさすがに水の音がはっきりくっきりと聞こえる。前の組が乗り込み、いよいよ僕たちの番。
あらかじめじゃんけんで前のほうに座るか、真ん中か後ろかを決めていた。
2人4列なのでそれぞれのカップルで隣同士で座った。妃馬と僕は1番前。
丸太のような乗り物が僕たちの前に着き、キャストの方の案内で乗り込む。
安全バーを下してもらい、いざ出発。
スプロッシュファウンテンは、子どもの頃に乗って、めちゃくちゃ怖かった記憶があった。
中学か高校の友達と行ったときも乗った気がするが、なぜか子どもの頃の記憶のほうが強い。
なので正直並んでいるときから心臓がバクバクして
乗り物に乗る寸前では心臓が口から出そうなほど激しく動いていた。
「怖い?」
隣の妃馬に聞かれる。
「正直怖いーな。子どもの頃の記憶が強すぎて」
「じゃあ手握っててあげる」
安全バーを掴む僕の手を妃馬の小さな手が包む。
妃馬に手を握られた嬉しさ、アトラクションの怖さで心臓が悲鳴をあげていた。
「ありがと?」
「どういたしまして?」
乗り物が動き始め、ゆっくりと、でも速度を感じるスピードでコーナーを曲がる。
するといきなり上り坂が見える。上り坂の手前には蛙の釣り人のようなおじさんがひたすら喋っている。
「え、待って。こんな早かった?」
「違う違う。これメインじゃないから」
と余裕そうな妃馬もやはり少し怖いのだろう。僕の手を覆う手に力が入っているのがわかる。
昼と違ってぽっかり見える外の空が青黒いというのか紺色というのか、夜の空で
高さも感じられず、逆に少し怖さを増している気がした。上り坂を上り切ったところで
あっ、落ちる…
と身構えていると目の前に広がったのは地上。パーク内を歩く人の高さと同じ。
なるほど。入り組んでいたが、乗り物の乗り場は半地下のようなところで上ったと思ったが
地上の高さに戻っただけだったのだ。一安心したところで少しだけザバンッっと下ってびっくりする。
「おぉ~…」
「これからこれから」
自分もちょっと怖かったくせに
と心の中でニヤける。ゆっくりとコーナーを曲がると家が見える。
しかしそれよりなにより目を惹くのが僕たちの乗った乗り物が向かおうとしている先。
真っ暗な穴がぽっかりと口を開けて待ち構えている。その先は下り坂なのか上り坂なのか、はたまた平坦なのか
それすら教えてもらえない恐怖に突き進む。見えた。がっつり上り坂。また少し身構える。
妃馬の手にも力が入るのを感じる。陽気な弦楽器の音色が聞こえてくる。
するとまたなだらかに、でもスッっと浮くような感覚もある。少しだけザバンッっと下る。
「またか…」
「私もここは覚えてなかった」
「ちょっと濡れたし」
「たしかに」
「妃馬、顔に飛んでる」
「うん。わかってる」
妃馬の顔についた水滴を取る。
「あ、ありがと」
相変わらず陽気なメロディーと水を切り進む水の音の中どんどん進んでいく。
綺麗な夜空を見ていると気づく。先程より高い。パーク内を歩いている人が小さく見える。
相変わらず流れている陽気なメロディーの狭間でひゃー!という悲鳴が聞こえる。
僕の背筋も冷える。するとまた暗い洞窟へと入っていく。
今度は下るのか、上るのか、はたまた平行にそのまま進むのか。乗り物が傾く。前に。
嫌な予感しかしなかった。すぐにふわっと浮かぶような浮遊感と風を切るような疾走感。
つい首をすくめてしまう。妃馬の手にも力が入っているのを感じ
ひゃー!という楽しさからくるものなのか、怖さからくるものなのか悲鳴を出していた。
後ろの音成だったり森本さんだったり鹿島だったりの悲鳴も響く。
上から葉っぱがぶら下がっている洞窟というのか、明るいところへ来た。
どうやらそこは動物たちの秘密の広場のようになっているようだった。
喋る熊、喋るうさぎ、喋る鳥、喋る動物たちが楽しそうに陽気なメロディーに乗って歌っていたりする。
棘が目立つ太い蔓の張り巡ったところを進むとボートに乗ったハットを被った犬が。
手にはウクレレのような弦楽器を持っている。
どうやらこの陽気なメロディーを奏でていた張本”人“?のようだ。
その犬の側にはハーモニカを吹く穴熊や太鼓を叩くビーバーなんかもいた。
玄関前を掃除するうさぎ、魚の跳ねる池の上の木では釣竿を垂らすワニとそのワニの上で寛ぐカエルがいた。
「カエル食べられないのかな」
「たしかに」
妃馬が隣で笑う。
「それくらい仲良いってことじゃない?」
「なるほどね?」
という話をしている中、別に怖いところでもないのに
妃馬の手に力が入って僕の手を包む妃馬にドキッっとした。
歯も鋭く目つきも良くないキツネが熊をロープで縛り上げ
どんな腕力なのか、そのキツネの数倍もあるであろう熊をロープを木に通して吊り上げていた。
そこを通り過ぎると今度はアヒルの漁場に出た。
漁場といってもそのアヒルたちが持っているのは木の枝で作られた釣竿に
なにが掬えるんだ?というほど網目が大きく、破けた網。釣竿の先には仲間の帽子が。
なに釣ってんだよ
心の中で笑う。石橋を潜ると陽気に楽しそうに跳ねるうさぎ。
その先に行くとカラフルなライティングでカラフルな歌声も聞こえてきた。
ワニ、亀、ワシが仲良く話している。
「こんなんだったっけ?」
「ちょっと変わったらしいよ?」
「あ、やっぱり?ま、ぶっちゃけあの最後の落ちるとこ以外あんま記憶にないんだけどね」
「まあわかる」
大きなお尻がつっかえていて、こっち側に出したいのか、向こう側へ押し込みたいのか
その大きなお尻をキツネがどうにかしようと頑張っていた。
反対側ではその出来事を笑うようにうさぎが木の穴から顔を覗かせ、様子を伺っていた。
暗い洞窟の中へと進んでいく。のどかで朗らかな雰囲気にすっかり油断していた。
暗い中グッっと前に傾き、風を切るように落ちていく。
「うっ…」
つい声が漏れる。首をすくめ、安全バーを握る手にも力が入る。僕の手を包んでいる妃馬の手にも力が入る。
「やっば。油断してた」
「私も。ビビったぁ~」
後ろの森本さんと鹿島も油断していたらしい。
青く照らされた洞窟に入るとはちみつの匂いがしてきそうな蜂の巣が複数あり
いくつかの蜂の巣の周りには蜂がブンブン飛び回っていた。
蜂の飛び回る音がまるでメロディーのようなっており
いかにも毒キノコのようなキノコを通り過ぎる。今度は予想できた。
暗い中に見えた光が少し下に見えた。あ、これは落ちる。
案の定風を切るように少しだけ落ちていった。予想できたとはいえ、やはり少しは怖い。
安全バーを持つ手には力が入り、その僕の手を包む妃馬の手にも力が入っているのがわかる。
下ったその先にはまるで黄色い可愛らしいキャラクターのようにはちみつを食べたい熊が
蜂の巣を鼻に突っ込んだらしく、その蜂の巣が鼻から抜けなくて困っているようだった。
その様子を側から見ているうさぎは指を指しながら大爆笑。
今度は優しいパステルカラーのような鍾乳洞のような洞窟へ。
噴水のように噴き出した水に乗る亀。全員で歌うカエルたち。
カワウソたちはまるでモグラ叩きのように凹みからひょこひょこ顔を出して遊んでいた。
さらに先へ進むとキツネがうさぎを捕まえ、ロープでぐるぐる巻きにして怒っている様子だった。
「これは…どっちが悪いの?」
「どっちだろう」
妃馬が笑う。ついさっきまで楽しい、賑やかな、のどかな雰囲気だったのに
急に霧が立ち込め、青みがかったライトで照らされ、怪しげな雰囲気になった。
上の方ではハゲタカが僕たちを可哀想な目というか、ニタニタした顔というか、そんな表情で見下していた。
そんなことを思っていると乗り物が傾く。ドクンッ。心臓が大きく跳ねる。
上っている。それも今までのとは比べものにならないほど長い。
「ヤバい。来る?」
「どうでしょー?」
「いや来るでしょこれは」
「私もちょっと怖いかも」
まだ火はついていないが火とつけるための枝の上で
先程捕えられていたうさぎが魔女の火炙りのようにされていた。
「あ、来ます。ここ覚えてるもん」
「わかる。私もここ印象強い」
怖い思いをする直前とは思えない綺麗な夜空が顔を出す。
夜のパーク、様々な明かりで綺麗なパークが眼下に見える。
あぁ、落ちます落ちます
「来る?来る?」
「ヤバい?来る?」
なんて言っていると乗り物が前に傾く。
「ヤバいヤバいヤバい!」
「ひゃー!」
今までの下り坂とは比べものにならない
風を切る感じ。絶叫も今までとは比べものにならない楽しさと恐怖が折混じったもの。
ザバァ~ン!最前列。水がかかる。顔から水滴が滴る妃馬の笑顔。僕も自然と笑顔になる。
「めっちゃ濡れた」
「ほんとだ。めっちゃ濡れてる」
「妃馬もね?」
「ね。めっちゃ濡れた」
「ヤバい。めっちゃ楽しかった」
「子どもの頃の記憶塗り変わった?」
隣に妃馬がいたお陰で、隣の妃馬の笑顔のお陰で塗り変わった。
「塗り変わった。今度来るときは2回乗る」
「めっちゃハマってる」
ウエスタンな曲が流れ、木製の端の下を潜る。正直ここで思い出は終了していたがその続きもあった。
どうやらキツネが悪いことをしていたらしく、まあ、うさぎが悪いことをしていたとしても
火炙り寸前はやり過ぎだから怒られるのは当然か。とも思った。
そのキツネが尻尾をワニに噛まれて、引きずり込まれそうなのを蔓を掴んで必死に耐えていた。
側面に水車のようなものがついている外輪船と呼ばれる船に華やかな鳥たちが乗っていて
タンバリン片手にミュージカルのように楽しげに歌っていた。
そのすぐ側でもワニやカエルたちがアコーディオン、ギターなどを奏で
陽気に、楽しそうに歌っていた。その先に進むと
まるで何事もなかったかのような、反省ゼロのような表情に態度のうさぎがいた。
「あ、この曲ってここのなんだ?」
「ね!私も知らなかった!」
めちゃくちゃ聴いたことあるし、パーク内でもよく聴いてたし
なんなら口ずさめるほどの曲だがどこの曲か全く知らなかった。
前の丸太型の乗り物が止まり、終わりを感じる。よく見ると人が並んでいるところが見えた。
前の乗り物に僕たちの乗り物が近づく。水飛沫が上がる。
「うおっ」
「また顔に跳ねた」
「ほんとだ。ここにもついてる」
「ありがと」
ニコッっと笑う妃馬。キャストの方が手を振りながら出迎えてくれて乗り物から降りる。
並んでいる人を尻目に坑道のような木枠で支えられた道を歩いていく。
「待って待って写真写真」
音成が写真に駆け寄る。
「鹿島。ひゃっほー!って感じだな」
「なっさんもひゃっほーじゃん」
「サキちゃん楽しそう」
「もっさんもめっちゃ楽しそうな顔してる」
「フィンちゃん意外とミーハーよね」
「小野田さんも楽しそう」
「おっけ!次行こ!次!時間ないから!」
「マジ?お!マジじゃん!急ご急ご!」
ということで急いで次のアトラクションへ向かった。