小谷くんとルームシェアをしている事を周りに隠したまま生活し始めてから数週間、居酒屋のバイトを辞めた私は本屋でのバイトとファミレスでのバイトに精を出していた。
引越しをして以来付け狙われる事もなくなり、すっかり安心しきっていた私だったけれど、ある日のファミレスでのバイトを終えて帰宅しようとしている時、ふと何処からか視線を感じて慌てて振り返るも怪しい人影は見当たらない。
「由井さん、どうかした?」
「いえ、何でもないです」
「そう? それじゃあお疲れ様」
「はい、お疲れ様です」
日曜日の夕方で人通りもあるし、まだ明るさもあるので、視線は気になったけれど気のせいだと思うようにした私は、バイト先の先輩と別れて一人歩いて行く。
(今日の夕飯は何にしよう……。確か冷凍した挽肉があったよね……)
なんて呑気に夕食の献立を考えながら歩いて行くと、またしても視線のようなものを感じた私は慌てて振り返るけれど、やはり誰も見当たらない。
気のせいなのかもとは思うけれど、やっぱりどこか腑に落ちない。
それに、もし万が一また付け狙われているとしたら、このまま自宅に帰る訳にはいかない。
(どうしよう……小谷くんはこれからバイトで暫く帰らないし……どこかで時間潰すしかない……かな)
時刻は午後五時四十五分。小谷くんのバイト開始は午後六時からなので、連絡を取るなら今しかない。そう思った私はすぐに彼に電話を掛けた。
『もしもし』
「あ、小谷くん、今大丈夫?」
『ああ。それで、何?』
「あのね、実は――」
二回目のコールで電話に出た小谷くんは何だか若干不機嫌な様子だったけれど、その事には触れずすぐに本題に入る。
「――という訳なんだけど……」
『分かった。とりあえず、俺のバイト先の近くにカフェとかファミレスあるし、終わるまでそこで時間潰してて。九時には上がるから』
「うん、それじゃあ、待ってるね」
結局小谷くんとも話し合い、このまま一人で帰るのは危険だからと彼の今日のバイト先であるコンビニ近くのカフェかファミレスに向かう事に。
数歩歩いたその時、またしても視線を感じた私が勢い良く振り返ると、
「あれ? 葉月ちゃん?」
「あ……浦部くん」
「奇遇だね。バイト終わりかな?」
そこには浦部くんの姿があった。
「あ、うん、浦部くんも、出掛けた帰りなのかな?」
「そだよ。今日は従姉妹の誕生日でさ、久々に顔出してきたんだ」
「そうなんだね」
「……葉月ちゃん、少し時間ある?」
「え……あ、うん。夜に待ち合わせをしてるから、それまでは暇かな」
「そうなんだ? 良かったら少しお茶でもしない?」
「……うん、いいよ。駅前のカフェかファミレスでもいいかな? 待ち合わせ、そっちの方だから」
「いいよ。それじゃあ行こうか」
一人で時間を潰すよりも誰かが居た方が退屈もしないし、何よりも安心出来る。
そう思った私は浦部くんとお茶をする事になったのだけど、良く考えてみると、先程までの視線と浦部くんが居合わせたのは果たして偶然だったのか、少しだけ怪しんでいる自分がいた。
カフェへとやって来た私たちは案内された窓際の席へ着くと、私はカフェラテとチーズケーキを、浦部くんはコーヒーとシフォンケーキをそれぞれ注文した。
窓際の席とあって、どこかから誰かに見られているのではないかと気になり、ついつい辺りに視線を向けてしまう。
そんな私の行動を不思議に思ったのか、
「……葉月ちゃん、どうかしたの? 何だか随分外を気にしてるみたいだけど……」
浦部くんが問い掛けてきた。