「あ、いや、何でもないの。ごめんね、気にしないで」
いっその事全て話してしまおうかとも考えたけれど、正直彼を疑っている自分もいて安易に話すのは危険な気がしたから「何でもない」とはぐらかす。
「そう? ならいいけど……」
だけど、私の返答を聞いても内心腑に落ちないのか、言葉とは裏腹に詳しく話を聞きたそうな表情を浮かべていた。
勿論、彼がストーカーだなんて思いたくはないけど、今の私が疑わずに信じられる異性は小谷くんだけ。
付け狙われるようになって以来、バイト先のお客さんは勿論共に働く仲間ですら、異性というだけで、どこか疑ってかかるようになってしまっていたりする。
とにかく今は誰も信用出来なくて、二人きりになるのはちょっとだけ不安になるから困ったものだ。
暫くして、注文したものが運ばれて来た事で場の空気は少しだけ変わり、世間話を始めた私たち。
会話を交わしているうちに私の心も落ち着いてきたようで、徐々に彼への疑いは薄れて会話も盛り上がっていく。
そして気付けば小谷くんのバイトが終わる少し前の時間になっていた。
「何か、だいぶ長居しちゃったね」
「そうだね」
「時間、大丈夫? 待ち合わせしてるんでしょ?」
「あ、うん。今はまだバイト中で、もう少ししたら終わるはずだから」
「へぇ、そうなんだ…………あのさ、葉月ちゃん、その待ち合わせの相手って――」
そう浦部くんが何かを言いかけた、その時、バイトが終わったらしい小谷くんから電話が掛かってきた事で「ごめんね、ちょっと電話に出るね」と一言断って電話に出た。
そして、お腹が空いたからファミレスでご飯を食べて行きたいという彼の希望によってカフェから歩いて数分のファミレスで待ち合わせをする事になった。
「ごめんね。それで、さっき何か言いかけてたよね?」
電話を終えて再び浦部くんに向き直った私は先程中断してしまった話を聞こうとしたのだけど、
「ああ、ごめん、大した事じゃないから気にしないで。それより待ち合わせしてるんでしょ? 早く行かないと。店、出よう?」
「あ、う、うん」
大した話じゃないからと言われてしまい、待ち合わせしている事を気にかけてくれた浦部くんは伝票を持って先にレジへと歩いて行ってしまった。
会計を終えた私たちはまた今度みんなでどこか出かけようと約束をして店の前で別れ、私はそのまま小谷くんとの待ち合わせのファミレスへ入っていった。
ファミレスに入り、店員さんが声を掛けてきたタイミングで先に来て席に着いていた小谷くんの姿を見つけた私は『待ち合わせです』と告げて彼の元へ。
「ごめんね、待った?」
「いや、俺も今来たとこ。つーか一緒に居た男、誰?」
「え?」
「カフェから出て来たとこ見たけど、男と一緒だったろ?」
「見てたの?」
「ここに向かって来たとこだったからな」
「そっか。彼は杏子の紹介で知り合った浦部くんだよ」
「ああ、例の。で、何でそいつとカフェに居た訳?」
「小谷くんに電話したすぐ後で偶然会って、お茶しないかって誘われて……一人で待つよりは安心かなって」
「ふーん……まあ、確かに一人よりは安心……かもしれねぇけど、そいつ、本当に信頼出来る奴なの?」
「そ、それは……」
「俺に電話したって、後尾けられてるって言ってた時だろ? こんな事言いたきゃねぇけど、そいつが後尾けてた奴かもしれねぇじゃん?」
「そう、言われると否定は出来ない……けど」
小谷くんに指摘されて、私は口ごもる。
確かに、私だって少しはそうかもしれない、なんて疑っていたけど、やっぱり浦部くんがそんな事をするとは思えない。
「……ま、疑いたく無い気持ちは分かるけどさ、そいつ、タイミングが良過ぎじゃねぇの?」
「…………」
「とにかく、また暫くは警戒した方がいいな。ま、それについては家で話し合うとして……とりあえず、何か食おうぜ」
「そ、そうだね」
メニュー表を手にした小谷くんは早速どれにするか選び始めた。
小谷くんの言う事は最もだ。
相手が誰だか分からない以上は例え仲の良い人だとしても、疑わなければいけないのだ。
(……ただでさえ小谷くんには迷惑かけてるんだし、私ももっと気をつけなきゃね)
これ以上周りの人を怪しみたくもない私は、ほとぼりが冷めるまでは軽率な行動は控えようと心に決めて、彼同様メニューを見ながら品定めをしていた。
だけど、
これ以降ストーカーの行動はさらにエスカレートしていき、私の行動は制限される事になってしまうのだった。