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夏目莉央
1,537
131
くま🐻☁️
12
※
結婚式を終えた、その夜。
鳳凰富士ホテルの最上階にあるペントハウス。
一級の骨董品に囲まれた、豪華な特別室。
僕はフランス製のガラスシェードランプだけを灯し、部屋の電気を消していた。
テラスに続く窓を開け放ち、外を眺める。
僕の視線の先には、満月に照らされる富士が、夜の空に絵画のごとく浮かび上がっていた。
瞳子さんと僕を引き合わせた、神聖なる御山──。
本日、瞳子さんと僕の結婚式が無事に終わった。
八年越しの念願の夢が叶った日。
幸せを感じると同時に、今までの人生を振り返り、感傷に浸っていた。
部屋の入り口の扉が閉まる音と同時に、愛しい瞳子さんが入ってきた。
僕はゆっくりと立ち上がって出迎える。
「李人くんと積もる話は楽しめましたか?」
「ええ。李人は大人になったわ。まるで別人みたいよ」
「まさに、可愛い子には旅をさせよ、ですね。瞳子さんが李人くんの背中を押してあげたから、彼も成長できたのでしょう」
「私、そんな大それたことしてないわ」
瞳子さんは嬉しそうに照れていた。
僕はそんな瞳子さんの手を引き、窓辺へ誘った。
「すごい……なんて幻想的な富士……」
「ええ。瞳子さんの次に美しいですね」
瞳子さんの背後から、彼女を抱きしめる。
抱きしめる僕の腕に、瞳子さんの温かな手が触れる。
「あなたはいつだって私に優しいのね」
「当然です」
「……ねえ。本当はずっと前から、私のこと知っていたんでしょう?」
もやしっ子がバレた??
心臓が跳ね上がってしまう。
ここまできて、動揺してバレることは避けたい。
いつも通り、冷静に答えた。
「どうしてですか?」
「祐二が口座を作りに持ってきたあの名刺、私が新人の時に限定で使っていたものなの」
「ああ、確か富士山のかわいいイラストが入ってましたね」
「そうよ。なぜ、八年も前の名刺を持っていたの?」
(八年前……)
あの日、富士山の山頂で僕に名刺を差し出す瞳子さんを思い出す。
「……内緒です」
僕は小さく笑みをこぼす。
「もう……写真といい、祐二は私に秘密が多いわね」
瞳子さんは少し拗ねたような声で訴える。
それが可愛くって、たまらない。
彼女を半回転させ、正面から抱きしめた。
「瞳子さんには、かっこいい僕だけを見てほしいので」
「祐二には惚れてしまうわよ。でも、祐二が七つも年上の私に惚れた理由、知りたいわ」
「僕には七つもハンデがあったから、頑張ってこれたんです」
僕だって本当のことを伝えたい。
しかし、あの情けない泣き虫の姿は見せたくない。
ただでさえ七つも年下なのだから。
「瞳子さんの前では、立派な紳士でいさせてください」
瞳子さんが欲しくて待ちきれない僕は、彼女のシフォンのブラウスのボタンを一つずつ外してゆく。
彼女は俯いて恥じらいながらも、幸せにあふれ、今にも泣き出しそうな笑みを浮かべていた。
彼女のブラウスが、音もなくふわりと床に落ちる。
「……祐二、愛している」
瞳子さんが潤んだ瞳で呟く。
「僕は出会った頃からずっと愛しています」
「もう、祐二は大袈裟なんだから……」
半身が露わになった瞳子さんを、強く抱きしめた。
「僕は永遠に、瞳子さんのトリコです」
彼女の頬は涙に濡れている。
声は出さずに、ただ僕の胸の中で頷く。
そして、そのまま二人でベッドに沈んでいった。
僕が瞳子さんのトリコになった件。
真相は、僕の心の中で永遠に生き続ける。
▷ FIN ◁
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