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#この作品は完全にフィクションです。
わあ〜!
54
#オリジナルストーリー
海月🪼🩵‐Mizuki
228
九尾(ぬし)
156
ユナ @ショタ化関係者再募集中
141
第百話 ここから、また始まる
2026年12月28日。
湊は、
パソコンの画面に並んだ写真を、
一枚ずつ見返していた。
桜の下を歩く人。
夕暮れの商店街。
地域の展示企画で出会った人たち。
誰かの話を聞いて、思わず笑ってしまった瞬間。
一年間で撮影した写真は、数えきれないほどあった。
けれど、湊が手を止めたのは、
特別な賞をもらった写真でも、
誰かに褒められた写真でもなかった。
卒業して初めて、紬と一緒に撮った写真だった。
二人が並んで笑っている。
今より少し幼い表情。
まだ知らない未来を、疑うことなく話していた頃。
あの日の自分は、どんなことを考えていたのだろう。
写真を撮り続けたい。
自分の撮った写真で、誰かの心に何かを残したい。
その気持ちは、今も変わらない。
ただ、あの頃と違うのは、
写真を撮ることの意味が、
少しずつ変わってきたことだった。
以前は、
目の前の景色をどうすれば
きれいに残せるかを考えていた。
光の向き、構図、色合い。
納得できる一枚を撮ることが、何より大切だった。
でも、地域の展示企画で
人と向き合うようになってから、
写真の見方が変わった。
カメラを向ける前に話を聞く。
その人が何を大切にしているのか、
どんな思いでその場所に立っているのかを知る。
すると、何気ない表情にも、
今まで見えていなかった意味が生まれた。
毎日同じ場所で店を開けること。
誰かのために、いつもの仕事を続けること。
うまくいかない日にも、もう一度前を向くこと。
どれも、写真だけでは伝えきれない。
それでも、写真があれば、
その人について考えるきっかけを残せる。
湊は、画面の写真を見つめた。
自分が撮りたいのは、ただ美しい景色ではない。
その景色の中にいる人の存在を、
誰かが想像したくなるような写真だ。
そう思えるようになったのは、
写真を撮る技術だけを磨いてきたからではなかった。
人と話し、その人の考えを聞き、
自分とは違うものの見方に触れてきたからだ。
そして、そのことを考えると、
自然と思い浮かぶ人がいた。
紬だった。
紬は、写真を撮る湊とは違う方法で、
人と人をつなごうとしている。
異なる文化や背景を持つ人たちが、
互いを知るきっかけをつくる。
そのために学び、考え、
何度も企画を練り直している。
二人が目指している場所は違う。
けれど、相手を知ろうとすることの大切さを、
二人はそれぞれの場所で学んできた。
湊は、机の端に置かれたカメラを手に取った。
今日は、紬と一年の終わりの写真を
撮る約束をしていた。
同じ場所で、毎年一枚ずつ。
始めたときには、
こんなふうに写真を見返す日が来ることを、
深く考えていなかった。
ただ、来年も一緒に撮れたらいい。
そのくらいの気持ちだった。
でも今は、その一枚一枚が、
二人の歩いてきた時間を残しているのだと分かる。
湊はスマートフォンを手に取った。
紬からメッセージが届いていた。
『今日、少し早く着けそう!』
湊は返信した。
『俺も。いつもの場所で待ってる』
送信して、カメラを鞄にしまう。
一年を振り返る時間は、まだ終わっていなかった。
紬もまた、今年一年の記録を見返していた。
机の上には、
大学で取り組んできた
交流企画の資料が広がっている。
写真をきっかけに、
異なる文化や背景を持つ人たちが会話を始める。
そんな場をつくりたいと思い、準備を重ねてきた。
最初は、文化の違いを知ることが、
理解への第一歩だと考えていた。
食べ物や言葉、習慣、考え方。
知らなかったことを知れば、相手への理解が深まる。
それは、今でも大切なことだと思っている。
けれど、実際に交流の場をつくってみると、
それだけでは足りないことにも気づいた。
同じ文化の中で育っても、
一人ひとりの考え方は違う。
反対に、育った場所も使う言葉も違うのに、
似たようなことで悩み、同じことで笑う人もいる。
文化を知ることは、相手を知るための入口なのだ。
その先にいる一人の人間を知ろうとすること。
紬が本当に届けたかったのは、そこだった。
企画に参加した人から、
こんな感想をもらったことがある。
『最初は、違う国の文化を知りたくて参加しました。でも、話しているうちに、その人自身のことをもっと知りたいと思いました』
紬は、その言葉を今も覚えている。
自分が用意した場で、
誰かの中に新しい気持ちが生まれた。
それは、資料の完成度や参加人数だけでは測れない、確かな手応えだった。
一方で、うまくいかなかったこともあった。
自分では分かりやすく伝えたつもりでも、
相手には違う意味で受け取られることがあった。
よかれと思って考えた方法が、
すべての人に合うわけでもなかった。
そのたびに、紬は考え直した。
伝えることは、
自分の考えを一方的に届けることではない。
相手の声を聞き、必要なら自分の考えも変えながら、伝わる方法を探していくことなのだと。
紬は資料を閉じた。
自分の夢は、まだ始まったばかりだ。
これからも学び続けなければならない。
今は想像もできない問題に
向き合うこともあるだろう。
それでも、人と人が互いを知ろうとする
きっかけをつくりたいという思いは、
変わらなかった。
ふと、湊のことを思い出す。
湊もまた、写真を撮る中で、
相手の話を聞くことを
大切にするようになったと話していた。
二人の夢は、同じではない。
それでも、相手を知ろうとすることを
大切にしたいという思いは、
どこかでつながっている。
紬は鞄を持ち、玄関へ向かった。
スマートフォンには、湊からの返信が届いている。
『俺も。いつもの場所で待ってる』
紬は小さく笑った。
今日は、一年の終わりの写真を撮る日だ。
そして、今年最後に、
湊とゆっくり話せる日でもあった。
待ち合わせ場所に着くと、
湊はすでにカメラを持って立っていた。
「お待たせ!」
「おかえり」
何気ない一言だった。
けれど、紬は一瞬、足を止めた。
「……ただいま」
二人は顔を見合わせ、笑った。
以前から、交わしてきた言葉だった。
どちらかが待ち合わせ場所に着けば、
「おかえり」と言う。
迎えられたほうは、「ただいま」と返す。
特別な意味を込めて始めたわけではない。
それでも、いつの間にか二人にとって、
自然なやり取りになっていた。
どこにいても、何をしていても、
二人がそれぞれの時間を過ごしたあと、
また顔を合わせる。
そのときに交わす言葉だった。
「今年も、もう終わるね」
紬が言った。
「早かったな」
「いろいろあったね」
「うん。ほんとに」
二人は、少しの間、今年のことを話した。
うまくいったこと。
思いどおりにならなかったこと。
頑張っても、すぐには結果につながらなかったこと。
そして、そんなときに、相手の言葉に救われたこと。
以前の二人なら、
楽しかったことや、うれしかったことを
中心に話していたかもしれない。
でも今は、うまくいかなかったことも、
自然に話せるようになっていた。
相手に心配をかけたくないからと、
何も言わずに抱え込む必要はない。
相手の夢を応援しているからといって、
自分の寂しさまで隠さなくていい。
六月の終わりに、二人はそんなことを話した。
それから、すべてが簡単になったわけではない。
不安になる日もあったし、
相手の知らないところで悩むこともあった。
それでも、気持ちを伝え合うことをやめなかった。
その積み重ねが、今の二人につながっていた。
「湊は、今年どんな一年だった?」
紬が尋ねた。
湊は、少し考えてから答えた。
「自分が撮りたい写真が、前より分かってきた一年だったと思う」
「どんな写真?」
「見た人が、写ってる人のことを知りたくなるような写真」
湊は、カメラを見下ろした。
「写真を見て、きれいだなって思ってもらえるのもうれしい。でも、その人がどんなことを考えて、どんな毎日を過ごしてるのか。そういうことまで想像してもらえたらいいなって」
紬はうなずいた。
「湊らしいね」
「そうかな」
「うん。湊の写真って、景色だけじゃなくて、その向こうにいる人のことも気になるから」
湊は、少し照れたように笑った。
「紬は?」
「私は、人と人が互いを知ろうとするきっかけをつくりたい」
紬は、ゆっくりと続けた。
「文化が違うから分からないって、そこで終わるんじゃなくて。違うからこそ、もっと知りたいって思えるような場所をつくりたいんだ」
「うん」
「もちろん、相手のことを全部理解するのは難しいと思う。どれだけ話しても、分からないことはあるだろうし」
紬は湊を見た。
「それでも、分からないからって、知ろうとすることまで諦めたくない」
湊は、静かにうなずいた。
「俺も、そういう写真を撮りたい」
二人は、しばらく互いの顔を見つめていた。
夢の形は違う。
湊は写真を通して、
人の存在や、その人が生きてきた時間を
残そうとしている。
紬は人と人が出会い、
互いを知るきっかけをつくろうとしている。
同じ仕事をするわけではない。
同じ場所で、同じ経験を重ねていくわけでもない。
それでも、二人はそれぞれの道で、
同じような問いに向き合っていた。
自分とは違う誰かを、
どうすれば知ることができるのか。
分からない相手と、
どうすれば関わり続けられるのか。
その問いに、簡単な答えはない。
だからこそ、二人は自分の方法で考え続けていく。
「ねえ、湊」
「ん?」
「私たちって、同じ未来を目指しているわけじゃないんだよね」
「うん。違うと思う」
湊は、迷わず答えた。
「でも、それって悪いことじゃないよね」
紬は、少しだけ不安そうに笑った。
湊は、その表情を見てから言った。
「俺は、紬が自分の夢を追いかけてるところが好きだよ」
紬は顔を上げた。
「俺の知らない景色を見つけて、いろんなことを考えてるところも。だから、これからも、紬が見たものを聞きたい」
湊は、一度言葉を切った。
「俺と同じものを見てほしいんじゃなくて、紬が見つけたものを教えてほしいんだ」
紬は、すぐには答えなかった。
その言葉が、胸の中にゆっくりと広がっていく。
同じ未来を目指していなくてもいい。
相手の夢を、自分の夢と同じ形に変えなくてもいい。
それでも、相手が何を見て、
何を大切にしているのかを知りたいと思える。
それは、今の紬が大切にしたいと
思っていることと、同じだった。
「私も、湊の写真を見ていたい」
紬は笑った。
「湊が何を残そうとしてるのか、これからも知りたい。うまくいったときだけじゃなくて、悩んでるときも」
「そのときは、ちゃんと話すよ」
「うん。私も、迷ったら話すね」
二人は、ゆっくりとうなずいた。
未来のことを、今ここで全部決めることはできない。
これから先、会えない時間が増えるかもしれない。
それぞれの夢が、
今よりもっと違う方向へ進むかもしれない。
それでも、
相手の気持ちを想像するだけで終わらせない。
分からないことがあれば、聞く。
寂しいときは、寂しいと伝える。
大切に思っているからこそ、言葉にする。
二人は、それをこれからも
続けていこうと思っていた。
「そろそろ、撮ろうか」
湊がカメラを構えた。
紬は、いつもの場所に立った。
「今年も、ここだね」
「うん」
「来年も撮ろうね」
「撮ろう」
「その次も?」
湊は、少し笑った。
「そのときも、一緒に撮ろうって言えたらいいな」
紬は、うれしそうにうなずいた。
「うん。私もそう思う」
それは、未来のすべてを保証する約束ではなかった。
来年も、同じ場所で
同じように笑っていられるかは分からない。
二人の生活も、考え方も、
少しずつ変わっていくだろう。
それでも、そのときの自分たちで、
また一緒に写真を撮りたい。
湊はファインダーをのぞいた。
画面の中には、紬がいた。
初めて一緒に写真を撮ったときと、同じ場所。
けれど、あの日とは違う表情。
迷いながらも、それぞれの道を選んできた二人が、
今ここに立っていた。
湊はシャッターを切った。
小さな音が響いた。
今年最後の一枚が、残った。
「見せて!」
紬が隣から画面をのぞき込んだ。
写真の中の二人は、自然に笑っていた。
「いい写真だね」
「うん」
湊は、その写真をしばらく見つめた。
写真は、過去を変えることはできない。
あの日に戻ることも、
言えなかった言葉を言い直すこともできない。
それでも、写真があるからこそ、
もう一度考えられることがある。
あのときの自分は、何を大切にしていたのだろう。
何に悩み、何を信じていたのだろう。
そして、今の自分は、
あの日の自分から何を受け取ったのだろう。
同じ写真でも、時間がたてば、見えるものが変わる。
撮ったときには
気づかなかった表情に気づくこともある。
何気なく交わした言葉の意味を、
何年もあとになって理解することもある。
今日の写真も、いつか、
今とは違う意味を持つのだろう。
「何年かあとに、この写真を見たら、どんなことを思い出すのかな」
紬が尋ねた。
「今日のことも、今日とは違う気持ちも、思い出すんじゃないかな」
「違う気持ち?」
「うん。今は分からないことも、何年かあとなら分かるかもしれないから」
紬は、写真をもう一度見た。
「じゃあ、何年かあとに、また一緒に見よう」
「うん。そのとき、どんなことを話すのか楽しみだな」
二人は笑った。
これから先、二人が見る景色は、
少しずつ変わっていく。
湊は、写真を通して、
まだ出会ったことのない人たちの時間を残していく。
紬は、さまざまな人と出会い、
互いを知るためのきっかけをつくっていく。
どちらの夢も、まだ途中だ。
うまくいく日ばかりではないだろう。
今の自分には分からない問題に、
何度も向き合うことになるかもしれない。
それでも、二人は、
自分が大切にしたいものを少しずつ見つけてきた。
そして、互いが見つけたものを、
これからも伝え合っていきたいと思っている。
帰り道、紬がふと足を止めた。
「湊」
「なに?」
「今日、会えてよかった」
湊は、少し驚いたあと、笑った。
「俺も」
それだけで、十分だった。
今日一緒にいられたこと。
今年も、二人で写真を撮れたこと。
互いの夢について、もう一度話せたこと。
どれも、特別な出来事ではないのかもしれない。
けれど、何気ない時間を重ねていくことが、
二人にとって大切なものになっていた。
「じゃあ、またね」
紬が言った。
「うん。またね」
二人は、それぞれの帰り道へ歩き始めた。
同じ方向へ帰る日もあれば、
別々の場所へ向かう日もある。
今日見た景色も、
明日見る景色も、きっと同じではない。
それでも、二人は知っている。
違う場所にいるからこそ、伝えられることがある。
同じ景色を見ていなくても、
相手の見た景色を知ろうとすることはできる。
そして、分からないことがあっても、
そこから関係を続けていくことはできる。
湊は、帰り道でカメラを鞄から取り出した。
今日撮った写真を、もう一度だけ確認する。
そこには、未来の答えは写っていなかった。
夢をかなえた二人も、
すべての不安を乗り越えた二人も、写っていない。
ただ、それぞれの夢を持ち、
まだ知らない未来へ向かおうとしている二人がいた。
湊は、その写真にタイトルをつけた。
「2026 まだ、夢の途中」
その言葉を見て、
六月の終わりに紬と話したことを思い出した。
あのとき、二人は、
違う未来を歩くことを怖がっていた。
相手を大切に思っているのに、
同じ道を選べるとは限らない。
応援したいのに、寂しい気持ちもある。
そんな矛盾した思いを、
どうすれば伝えられるのか分からなかった。
でも、二人は話した。
自分の気持ちを伝え、相手の気持ちを聞いた。
すべての不安がなくなったわけではない。
それでも、相手の未来を、
自分の望む形に
変えようとしなくていいのだと知った。
湊は、写真を保存した。
百枚目の写真。
これまでの時間を振り返るための一枚であり、
これからの時間へ持っていく一枚でもある。
物語は、ここで終わる。
けれど、二人の人生は、ここで終わるわけではない。
湊が次にどんな写真を撮るのか。
紬が次にどんな人と出会うのか。
二人がどんなことで悩み、
どんな言葉を交わしていくのか。
それは、今の二人にも分からない。
だからこそ、これからも歩いていく。
それぞれの場所で、自分の夢を追いかけながら。
そして、いつかまた、
互いの見つけた景色を持ち寄りながら。
いつか今日の写真を見返したとき、
二人は思うかもしれない。
あの頃は、まだ分からないことばかりだった。
それでも、自分たちなりに考え、迷い、
相手と向き合おうとしていた。
あの日の自分たちがいたから、
今の自分たちがいるのだと。
百枚の写真に、百の答えが残るわけではない。
けれど、一枚一枚に、
そのときの二人が生きた時間が残っている。
そして、百枚目の写真にも、まだ答えはない。
ただ、今の二人がいる。
それぞれの夢を持ち、相手の夢も大切にしながら、
これからの景色を見ようとしている二人がいる。
湊は、写真の下に短い言葉を添えた。
「ここから、また始まる。」
それは、終わりを否定する言葉ではなかった。
ここまで歩いてきた二人の時間を、
確かにここで一つの物語にするための言葉だった。
そして同時に、その先にある未来を、
まだ知らないまま迎えにいくための言葉だった。
同じものを見ていても、目指す場所は違う。
だからこそ、見た景色を伝え合いたい。
分からないことがあっても、
知ろうとすることをやめたくない。
まだ、夢の途中。
だからこそ、これからも。
📷 Photo.100「2026 まだ、夢の途中」
撮影日:2026年12月28日
「ここから、また始まる。」
――完――
コメント
1件
うわああああ最終話、読み終わったよ〜〜〜😭💕💕💕 「ここから、また始まる」ってタイトル、めっちゃ沁みる……! 湊と紬、それぞれ違う道で“知ろうとする”ことを大事にしてて、でもちゃんとお互いを想い合ってるのが伝わってきたよ。 「おかえり」「ただいま」の日常が、こんなに尊いなんて知らなかった……! 100枚目の写真に託した未来、これからもずっと見ていたいなあ。 クラリスさん、本当に素敵な物語をありがとうございました🌸📸✨