テラーノベル
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MV撮影は終始のんびりながら滞りなく進み、合間にはSNS用の動画を撮ったりもして、あっという間に1日が過ぎていった。
みんなで花火できたのも楽しかったな。久しぶりに大好きな夏を満喫できて大満足のおれは、心地よい車の揺れに瞼が重くなるのを感じながら帰路についた。
しばらくの時間が過ぎ、おれと若井は元貴から呼び出された。MVが完成したんだって!
事務所の一室で元貴がノートPCを開き、動画を再生する。
蝉と風鈴の音で始まったそれは、ノスタルジックな風景の切り取りと歌う元貴、それにおれ達のお散歩シーンなんかが散りばめられている。
いつもよりメイクの薄い元貴が少し幼くて可愛い。楽しかったあの日を思い出しながら、座ったソファから身を乗り出すようにしてモニタを眺めた。
おれの隣で同じようにモニタを観ていた若井がフッと笑う。
「なんかさ、時々差し込まれる少年3人組!俺らが子供の頃って感じしない? みてこれ、ちょっと遅れて走ってんの誰だろ、元貴か?」
ワイワイと囃し立てる若井の言葉に、なんだか胸がじんわりする。 おれ達が子供の頃に出会っていたら、こんな風に一緒に遊んだのかな?
ありもしない3人で夏を過ごした思い出が瞼の裏に鮮やかに描かれ、元貴の歌声を伴って記憶のアルバムにすっと差し込まれたような感覚を覚える。
ちら、と隣に座った元貴を見ると、優しく目を細めた彼もおれの方を見ていた。
若井からアンコールの声が起こってもう一度動画を再生し、MVのお披露目は終了した。
ソロの仕事があると先に部屋を出る若井を見送る。
パタン、と扉が閉まると同時に元貴が隣から抱きついてきた。おれも体を彼の方に向けて、腕を背中に回す。
「MVどだった?」
「すごく素敵だった。楽曲のイメージを膨らませてくれるし、観ていて幸せな気分になったよ。それに元貴がきれいで見惚れちゃった」
「そうでしょ」
満足げに、すこし照れたように笑う。
「若井が言ってたあの…子供たち。元貴が考えてくれたの?」
「俺がイメージを伝えて、監督が膨らませてくれたよ。あの走ってるシーンが繋がるの、良かったでしょ」
「うん………なんかすごい妄想で恥ずかしいんだけどさ、おれも元貴と若井と幼馴染だったような気がして嬉しかった。変だよね」
へへ、と笑って言うと、 俺を抱きしめる元貴の腕に力がこもる。
「変じゃないよ。そう思っててよ。これから”懐かしい夏の思い出”を思い返す時はこのMV思い出して」
「なぁ〜にそれ、記憶のかいざん!」
冗談めかして言うと、思いのほか真面目な顔をした元貴に両手で頬を挟まれる。
「りょうちゃんが俺の思い出に若井しかいないのが嫌って思ってくれたみたいにさ。 …俺だってりょうちゃんの記憶にいたいよ。いつでも。過去も未来も、貴方のすべての記憶に俺がいたらいいのにって思ってる」
「………よくばり〜」
胸がぎゅうっとなって、嬉しくて。でも言葉通りに受け取って喜ぶのはなんだか気恥ずかしくて。茶化してしまうおれに、ふっと微笑んで元貴が優しくキスをしてくれた。
「ほんとにさ、どんどん欲張りになってる。こんなにりょうちゃんが好きなのにずーっと隠して来れた俺、ヤバくない?すごすぎない?」
突然のおふざけ元貴にふは、と笑う。
「やばいし、すごいし、おれも大好き。」
あぁ、顔がゆるんじゃう。すごくだらしない顔で笑ってるんだろうなぁおれって思いながら、素直な気持ちを伝える。
元貴がちょっと目を見開いて、もう、と呟く。
「そんな顔、俺以外に見せちゃダメだよ」
唇が重なる前に低い声で囁かれる。
やっぱだらしなさすぎた……?と思いながら、押し入ってくる元貴の舌と体重を受け止めた。
これにて「夏の影」にまつわるお話は一旦完結となります。
思ったより長くなってしまいましたが、こんな拙い文章をお読みいただき、いいねやコメントまで、すっごく嬉しかったです😭本当にありがとうございました!!
少し前のミセロで「大森さんから言われてグサッときた話」をされている時、大森さんが「俺りょうちゃんには優しいことしか言わないからなぁ!」って仰ったのがやけに心に残って書き始めたお話でした。
続いて大森さんのお誕生日のお話をかけたらなと思っていますので、よければまたお付き合いいただけますと幸いです!
本当にありがとうございました☺️
コメント
5件
はじめまして。完結おめでとうございます! 切なくて胸が締めつけられる場面がたくさんあり、何度も泣きそうになりました。でも最後にはちゃんとハッピーエンドを迎え、報われた気持ちになりました 苦しさも幸せも全てが愛おしくて読み終わった今も余韻が残っています。素敵な物語をありがとうございました。
完結、ありがとうございます🙌✨ 💛ちゃんが♥️くんの思い出の中にも入れたМVで、本当に良かったです😊 また次のお話、楽しみにしてます❣️