「潔は、ずっと俺のことが好きか?」
そう聞いたことがある。
潔は目を見開いて、「当たり前じゃん」と笑った。
「本当?」
「ほんとほんと!凛がサッカー辞めても、しわくちゃのおじいちゃんになっても、記憶喪失になって俺の事忘れても!」
「何それ」
笑顔を浮かべる潔に、こちらもほんの少しだけ口角をあげた。潔がキョトンとして⋯その後興奮したように「凛が笑った!!?」と話し出したが、無視する。
俺が笑ったのは、潔が嬉しそうだったからだけじゃない。潔が、俺を愛してくれてるのを実感出来たからだ。
俺も、お前のことがずっと好き。だなんて、死んでも言ってやんない。
頭を冷やしたくて、潔の声を無視して走った。しばらく走っていると海が視界に入ってくる。ばしゃんと海水を頭から被ると、暑かった頭が冷えていった。
ポタポタと髪先から水滴が雫を作って落ちるのを、ボーっと眺める。
(アイツ、馬鹿だ。記憶喪失になっても俺の事好きって言っときながら、恋人だってこと隠してた。)
鼻の奥が痛くなって、目頭が熱くなる。
(馬鹿。馬鹿ばかばか。潔のばか!)
でも、きっと。
1番馬鹿なのは、
記憶喪失になった、自分だ。
潔が好きだったことも、恋人だったことも忘れて。潔が俺との関係を『友達』だと説明した時、どんな気持ちだっただろうか。俺が、記憶喪失になった理由を聞いた時、嘘を吐いた潔は何を考えていたのだろうか。
俺の涙が、水滴と混じって砂浜に落ちる。染みを作ったそれは、もう涙とは分からない。
「──⋯っ、凛!!」
潔が、俺を呼ぶ声がした。
潔の方へ振り返る。夕方になってきているから、辺りはオレンジ色に染まり始めていた。
「潔。テメェ、よく俺とお前が友達だって嘘つけたな」
潔の大きな目が、更に大きく見開かれる。ポツリと、「記憶、戻った、?」と聞かれたが、無視して続けた。
「俺が記憶喪失になってお前を忘れても、ずっと好きとか言ってたくせに」
「いや⋯だって、苦しむ凛を見たくなかったし」
「俺は隠されたほうが嫌だ」
でも⋯とまだ何か言いたげな潔に近づいて、ぎゅうとほっぺたを抓る。潔が「痛!」と声を荒げるが、構わず抓り続けた。
「馬鹿」
「は!?いや、馬鹿じゃねぇし!」
「じゃあ何だよ。レイプされて不良品になった俺は要らないって言うのか」
「なんでそうなんだよ!!」
潔が俺の手を優しく振りほどいて、背伸びをして俺の目をじっと見つめる。
何、と聞こうとする俺の言葉は、潔の大声によって掻き消された。
「言わせてもらうけどさぁ!お前顔良いんだよ!イケメンなんだよ!自覚しろ!!」
「急にどうした」
「イケメンだから狙われるに決まってるだろ!もうちょい防犯対策しろ!防犯ブザー持ち歩け!!」
マシンガントークを始めた潔には何も言えない。それは、ここ数年で理解している。
とりあえず、大人しく聞いておくことにした。
「俺がどんだけ心配したか分かるか!?大好きな恋人が、泣きながら電話してくるんだぞ!心臓に悪い!!」
潔がそう叫ぶと、顔に唾がかかった。汚いな。
「俺は!!お前のことが大好きで大事にしたいの!だから過呼吸起こすとこなんて見たくなかった!」
「俺は過呼吸なってでもいいから、お前と恋人だったって事実を知りたかったんだよ!」
「はぁ!?俺はやだ!!」
そう子供のように拗ねる潔。
「俺は、お前がレイプされても、好きだ。不良品なんかじゃない。」
「⋯⋯、」
「ずっとお前が好き。今までも、この先も。ずっと」
だから、と潔が続けた。ポケットを探って、四角い箱を取り出す。
「俺と結婚して下さい」
ぱかりと潔が箱を開けると、そこには銀色に光るリングが。
⋯⋯はぁ?
「いや、マジで意味わかんねぇ!何でこのタイミングで告白すんだよ」
「だって!凛がレイプされる前からずっとしようと思ってて、でもひよって出来なかったんだよ!」
「あほか」
潔が髪の毛を触って、にこりと笑った。
「俺は、お前が取られるのが嫌だ。だから、結婚してほしい。俺の凛になってほしい」
⋯⋯クソ潔。
遅いんだよ。
「俺も、
───────────。」
くしゃりと、潔が顔を歪めて笑った。
お姫様の手を取る王子みたいに、潔がうやうやしく俺の手を取る。薬指に指輪を付けられると、太陽の光で反射してキラキラと光っていた。
多分、俺の視界が歪んでいるのは気のせいだ。きっと。
潔が俺の頬を掴んで、唇を重ねる。
温かい感触と、リップ音が俺の体を包んだ。
epilogue
「何してんだ、凛!ほんと、心配した⋯」
「ごめんって、兄ちゃん」
俺の胸に顔を埋めた兄ちゃん。こんな兄を見るのは初めてで、心配して泣いているところ申し訳ないが、面白いと思ってしまった。こんな俺を許してくれ。
『えー⋯記憶は完全に戻っているようですし、PTSDなどの後遺症もありませんね。もう少し入院して、それでも異常が無かったら退院にしましょう』
『はい』
頷くと、医者に『お大事に』と言われた。
潔は俺の横にぴったりとくっついているし、兄ちゃんは俺から離れないし。正直めっちゃ暑い。
でも、これでいいんだ。
潔の薬指に視線を向けると、俺と同じ銀色に光り輝く指輪。
きっとこれが、幸せの象徴だから。
『記憶喪失の君へ』END
完結いたしました〜!
駄作でしたが、楽しんでいただけていたなら幸いです🙇🙇
ここまで読んでくださった方、ハートを押してくれた方、コメントをくれた方、ありがとうございました! 皆様のおかげで完結まで持っていけました!
またどこかでお会いしましょう! 素敵な潔凛ライフを!
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