目覚ましが耳を突き刺した。重たい体をベッドから引き剥がす。窓の外は灰色だった。
「はぁ…」
溜息が癖になっていた。上司の怒声と同僚の無関心、数字に追われる日々。夢も希望も、いつの間にか見失っていた。
結婚はしていない。恋人もいない。親しい友人すら、もう誰も連絡をくれなくなって久しい。
会社に着くと、単調な仕事。報告書、会議、叱責。12時間が過ぎる頃には、もう何も感じなくなっていた。
帰り道、ビールを買った。近くの公園に寄り、ベンチに座る。夜は冷たいが、かえって心地よかった。一口飲むと、涙が溢れた。
「もう…疲れたな…」
スマホを取り出し、誰に送るでもないメッセージを書きかける。だが、消した。見上げた空には、月がぼんやりと滲んでいた。
次の日、会社を休んだ。理由はない。どうでもよかった。昼過ぎまで寝て、夕方に起きる。書類を見ていると、無意味に思えた。
夜、屋上に出る。風が髪を乱し、コートを揺らした。街の灯は、あまりに遠く、届かない希望のようだった。
フェンスに手をかけ、そっと目を閉じる。
「ごめんな…」
誰に向けた言葉か、自分でもわからなかった。
しかし、その瞬間、スマホが震えた。画面には、昔の友人からの短いメッセージがあった。
『久しぶり。元気か?飲みに行かないか?』
しばらく動けなかった。そして、震える指で返信を打つ。
『…ああ、行こうか。』
フェンスからそっと手を離し、屋上を後にした。街の灯は、さっきより少しだけ、近く感じられた。
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いるか!!!!!