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「……山田一郎くん?」
雨が降る夜中、仕事帰りに信号待ちをしている時に、奥の交差点にどこかで見たようなシルエットが見えた。
「……入間、さん」
一郎は近づいてきた銃兎に気づくと、ずぶ濡れの顔を上げ、どろりとした赤色と緑色の目で見つめた。
「風邪、引きますよ」
銃兎は一郎に呼びかけると、手招きをする。
「……分かってるっす、けど……」
一郎は近づくと、車の窓から身を乗り出した銃兎の肩口に顔を埋める。
「……急にどうしました? 」
銃兎は肩口から一郎の顔を上げさせ、じっと見つめる。
前見た時は、明るく光っていた赤と緑の目が、今はどろりとした色になってこちらを見つめている。
「とりあえず、家まで送ります。乗ってください」
銃兎は一郎から手を離すと、車のドアを開ける。
「……や、いい」
「え?」
一郎から否定が聞こえ、銃兎は顔を顰める。
「俺、入間さんち行きたい」
一郎から言われた言葉に、銃兎は思考が上手く回らなかった。
「……はぁ、仕方がないですね。お風呂に入ったら、お家に送り届けます。
乗ってください」
銃兎は後部座席のドアを開けると、入るように促す。
しかし、一郎は後部座席に座らず助手席に回って窓を叩いた。
「……はぁ」
銃兎は自由な行動をする一郎にこれみよがしに溜息をつき、助手席のドアを開ける。
「……ありがと、ございます」
一郎はシートベルトをしめながら感謝を述べる。
「では行きますか」
銃兎はハンドルを握り、アクセルを踏む。
「……はい」
一郎はずぶ濡れの身体を背もたれに押し付け、銃兎に溜息をつきさせた。