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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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「実家に帰るか?」

少しの沈黙の後、陸翔兄さまの問いに、私は考え込んだ。実家に帰れば、いろいろなことを聞かれるだろうし、心配をかけてしまうのは容易に想像がつく。

もう少し一人で色々と考えたかった。

私が小さく首を振ると、陸翔兄さまも「わかった」と答えて、運転を再開した。数十分走って到着したのは、「The Celestia Tokyo」。神崎グループのホテル部門が経営するこのホテルは、VIPを招待する場でもある。家を出る前は、よくここで両親と食事をしたことを思い出す。

外観はガラス張りのモダンなデザインで、夜のライトアップがラグジュアリーな雰囲気を漂わせている。

「この格好で入れるかな」

その雰囲気に、私は思わず言葉を漏らした。

すぐにベルボーイがやってきて、私のドアを開けようとしたが、陸翔兄さまが軽く手を上げてそれを制し、先に自分で降りて助手席のドアを開けてくれた。


「ありがとうございます」

そう言って彼の差し出した手に触れるのを一瞬ためらったが、ただのエスコートだと自分に言い聞かせ手を重ねた。

車内の温かさに慣れていたせいか、外のひんやりとした空気が頬を撫でた。

その時、突然肩に温もりを感じた。陸翔兄さまが着るはずだったのだろう、ブラックのロングコートを羽織らされたのだとわかった。


「陸翔兄さま?」

「外は寒い。着ておけ」

「ありがとう」

お礼を言いながら、コートの胸元をキュッと握りしめると、少し甘い香水の香りが漂い、ドキッとしてしまう。こんな時に何を考えているのかと、自分を戒めた。足元のサンダルは隠せなかったものの、コートのおかげで服装は隠れ、それだけで少し安心できた。


「陸翔兄さま、あとは自分で部屋を取ります」

このホテルに、一緒に入れば、彼ほどの人ならばスキャンダルになる可能性もある。それに、私の素性を知る人だっているかもしれない。奥様にだって申し訳が立たない。


そう思って頭を下げた私だったが、あろうことが陸翔兄さまは私を隠すように肩を抱きよせた。

「すぐにいつもの部屋を。そして支配人を呼んでくれ」


陸翔兄さまの声に、すぐにスタッフが連絡をとると、最上階の部屋へと案内をされる。

陸翔兄さまは、身長も180㎝以上あり、均整のとれた体形に、誰もが見惚れるような整った容姿。ロビーやラウンジにいる人たちが一様に視線を向ける。


そして、その隣にはサンダル姿の私。どこからどう見ても異様な雰囲気に見えているのだろう。

「陸翔兄さま、ねえ、迷惑になるから大丈夫だから」


そういう私にお構いなしに、VIP専用のエレベータの乗せられる。最上階のスイートルーム。

リビングルームは、天井が高く、開放感があり、窓からは東京の夜景が広がり、遠くに見える東京タワーが美しく輝いていた。

リビングの隣には、4人がけの大理石のダイニングテーブルがあり、照明は控えめな間接照明が落ち着いた光を投げかけている。ダイニングからは、プライベートバルコニーへと続くドアがあり、バルコニーにはテーブルと椅子が配置されている。ここからは東京湾の美しい夜景が一望できる。


「こんな部屋……」

そう言った私だったが、陸翔兄さまがかなり大きなため息をつく。


「沙織、お前にふさわしいのはこの部屋だ。自分が誰なのかわかっているか?」

そう問われ私はグッと言葉に詰まる。智也に虐げられ、義理母や美咲さんに罵られ自分でも萎縮してしまっていた。


「ありがとうございます」

背筋を正した私に、陸翔兄さんは「それでいい」と笑ってくれた。

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