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#鬱
レア
409
食
40
「今の時間は――6時半か」
たまたま目が覚め時計を見ると、6時半という微妙な時間だった。二度寝するか、このまま起きるか悩みどころだ。
んーと、昨日はどうやって寝たんだっけ。たしか、街をパトロールしてそれから疲れて寝ちゃったような。
あの頃は何をしても体力が有り余ってたのに、自分の不甲斐なさを実感する。
それにしても鳥の声がうるさい。なんとか気持ちを切り替え、風通しをよくする為窓を開ける。
周りを見渡すと小鳥が電線に4匹とまっていた。
(…平和)
平和な日は好きだ。
だけどそういう日に限って嫌なことが起きる。だからいつでも気を引き締めていないと。
「…今日も戦わなきゃ」
剣を持って街にでる。無心でただ”悪”を倒し続ける。
(これで最後か)
素早く移動しながら急所を討つ。敵はブツブツと何か言いながら消えていった。
呼吸を整えつつ歩くと少し遠くに人影が映った。
ただでさえ人通りの少ないところで、時刻はまだ7時も回っていない。少し警戒しながら進むと色とりどりの声が聞こえた。
『マナ!今日の動き良かったよ!』
『せやろ?!いやー、なんか今日調子ええんよな!でもライもなかなか良かったで!』
『なんでついでみたいな感じなんだよw』
『ww』
『そいえばさ〜…』『〜〜w』『〜?w』
複数人でわいわいとはしゃいでいるのは、にじさんじに最近入ってきた新人だ。
噂によると八人でヒーローをしているらしい。
(そっか、ヒーローか…。)
ボーッと一点を見つめる。しばらくしてブンブンと首を振った。
「帰って配信しよ」
◇◇◇◇
最近はネガティブな考えを晴らすためにできるだけ配信をすることにしている。
【コメント】
「最近配信多いね」
「嬉しいよ!」
「ありがとう」
【コメント】
「今日は何するの?」
「今日はね〜」
合間合間にコメントを拾っていき、いつも通り着々と配信を進めていく。……はずだった。
(……ねむい、やばい、ねむい。いや、これ眠いとかじゃないな?)
まるで睡眠薬でも使っているかのような抗えない眠気に困惑する。
(ちょっっとやばいかも……)
「ごめん…、ちょっと体調悪いかも。ここら辺で配信――」
(あ、堕ちる…っ)
言い切る前に視界が真っ暗になった。
◇◇◇◇
『連れて行ってやるよ、”英雄”』
あいつは…、あの時の?
懐かしいな。こいつに遭遇して、負けて、殺すのはもったいないからって”この世界”に飛ばされたんだよな。
ああでも、ちょっとだけ感謝してるかも。少なくとも”あっちの世界”よりかは楽しいし。
俺の配信を待ち望んでくれるリスナーがいて、楽しいゲームがたくさんあって、悪口を言われることも少なくて。
…なのになんで
物足りないって感じるんだろう。
『英雄のくせに、雑魚すぎるだろ笑』
忘れもしない。英雄を始めたての頃はそんなことをよく言われてた。
でも、雑魚でも ゴミでも 何も出来ない役たたずでも社会に貢献できてるならいいじゃん。何かをしよう、何かを始めようっていう勇気があるのってすごいことなんじゃないの?
…アハハ、…
なんで、なんでそれがわかんないかなあ。
折れる俺の心をなりふり構わずに、立て続けに声が聞こえる。
『あ、もう死んだのかと思ってた』
…なんでそんなことを平気で言えるんだろう。
いや、わかってる。
俺が消えても、いなくなっても悲しむ人なんていないんだ。
わかってるよ。
それぐらい価値がない人間なんだってことは、こんなゴミクズな俺でもわかるよ…。
◇◇◇◇
「……」
【コメント】
「声聞こえなくなった」
「エビオ大丈夫?」
「放送事故じゃん」
「寝てる?」
「寝落ちか」
「画面動いてなくて怖い」
「こんな急に寝落ちすることある?」
「泣いてる?」
「幸せなはずなのになぁ…」
「俺は一体どうしちゃったんだろう」
「誰かが助けを呼ぶ声がする…」
「行かないと」
【コメント】
「!?」
「声聞こえた」
「これ真剣にやばいって」
「ほんとに大丈夫?」
「なんか音聞こえる…」
「配信BANされるぞ」
「怖い」
「寝言でこんなこと言う、?」
「ブツブツ聞こえる」
「どうすればいいんだ…」
「他のライバーさんに言おう。誰かエクスの家知ってるかも」
「上のコメントに賛成」
「初見ですどういう状況ですか」
「はぁっ…、はぁっ…!!」
ビシャビシャと軽い液体が跳ねる音がした。
あれ、俺は今何をして…?
【コメント】
「グロい」
「音が怖いい」
「ふざけてるんだよな、?そうだと言ってくれエビオ」
「声が真剣すぎて…」
「これ覚悟決めてるやつじゃん」
「大丈夫、?」
「自殺配信?」
「一旦今配信してるメンバー全員にコメント打った」
「息の感じがリアルすぎるって」
「今叶さん配信してるからみんなコメント打って!!」
「元のエビオに戻ってきて」
◇◇◇◇
<叶の配信>
『え?エビオ今配信してるの?』
雑談配信中、一件のコメントが目に止まった。僕がそれに触れるとコメントの流れが早くなる。
【コメント】
「寝言でやばいこといってた」
「急に画面暗くなったと思えば変なこと言い出してびっくりした」
「エビオ大丈夫そ?」
「自分も見に行ったけどなんか怖いからこっち来ました」
その後も続々流れていくチャット。
もしかしたら「叶の配信にドッキリ仕掛けよう」ということになっているのかもしれないけど…、それにしてはみんなの反応が生々しいような。
そもそも、エビオがドッキリでこんなことするかな?
『なんかみんなのコメント怖くない?大丈夫?』
『寝言で『俺が死ねば』とかって言ってる…?、エビオそんなこと言わないでしょ。君たち幻覚見すぎなんじゃない?』
どうせいつものリスナーの冗談だろう、と受け流し雑談に戻る。
しかし、何分経ってもエビオについてのコメントが減らない。
(なんなんだ…?)
不審に思った僕はスマホで同僚のチャンネルに飛んだ。
『……』
確かにアイコンの周りに赤いマークがあり、配信をしていることが分かる。
再生を押すと真っ暗の画面が映った。音量を上げると微かに吐息が聞こえる。
(嘘だろ…?)
『…。ちょっと葛葉にも連絡してみるね』
『もしもし、葛葉?』
『あれ、お前配信中じゃなかったっけ?
どした?』
『…ちょっとさ、エビオの配信見に行ってくれない?』
『ABO?うん、いいけど…』
『一旦配信切るわ』
『……』
『見れた?』
『……見れた…けど、なんかやべえことになってんな…』
『だよね…、でも僕たち、エビオの家知らないよね、?』
『だな…、イブなら知ってるかもしんねえから、連絡してみるわ』
『ありがとう、僕も事務所に連絡してみるよ…』
(いつも明るくて優しいエビオが…、…お願い、無事でいて……)
◇◇◇◇
「葛葉から電話…、珍しいな」
配信の準備が終わり配信までゆっくりしようとしていた時に葛葉から電話がかかってきた。
(どうせしょうもねえことだろ)
「はい、何――」『ごめん、今すぐエビオの家行ってくんね?』
「…ぇ?」
『状況は後で説明する。今すぐ行ってくれ。』
(…エビオの家?いやまずなんの事か説明しろよ)
疑問を抱くも葛葉の声色が只事ではないと言っているようで、何が何だか分からないが大人しく従うことにした。
「…わかった、」『! …たすかる、、』
「…んで何があったの。声の焦り具合的にただ事じゃないっぽいし」
『その…、うまく言えねえけど、やばいことが起きてる。とりあえず向かって様子を見てきてほしい。そうだ、最近いつエビオと遊んだ?』
(だいぶパニクってんな…)
いつも冷静沈着な葛葉だが本当にパニくるとこうなる。葛葉がこうなるということは余程のことがあるんだろう。
「最近…、いや、多分1年前ぐらいから遊んでねえわ…」
『…そか』
「着いたけど…、入っていいんかなこれ」
『空いてるなら入ってくれ、多分アイツ正気を失ってる』
「……」
リビングは薄暗く、不穏な空気を感じる。アイツがいるであろう部屋に近づくにつれ、最悪な可能性が浮かび上がってくる。そんなはずがない。そうだよな…?
「おーい…」
「っ!!? 」
俺の目に映ったのは血だらけの姿のアイツだった。
「エビオ!しっかりしろ!!」
どうすればいいのか分からず、肩を揺らす。するとエビオの体は力なく揺れた。ぐったりしているのに痙攣のように体が震えていて明らかに異常なことが分かる。
「嫌だ……、あっちに戻りたくない…。嫌だ、嫌だ嫌だ、寝てても頭の中に入ってきて、何をしてても逃げ場がない。どうすればいいの?俺はどこに逃げたらいいの、?」
息を荒くして、過呼吸気味に訴えてくる姿に胸が苦しくなった。
(……こんなに抱え込んでること、知らなかった)
辛そうな顔をしてひたすら涙を流すエビオに自分までつられそうになる。
(だってこいつは普段こんな顔しないから…)
しかし自分まで情的になってどうする。少し冷静になり、今の状況を伝えた。
「……大丈夫だ、落ち着け。今葛葉が救急隊に連絡してくれてる、もうちょっとだ」
「違うよ…、俺は戦わないと、成果をあげないと価値がなくなる…」
「…そんなことねえよ。お前は十分頑張って――」
「違う、これじゃ足りない。もっといっぱい倒さなきゃ、結局は結果を残さないとなんだ。そうじゃないと、……褒めてもらえない、認めてもらえない…」
食い気味に、本当に辛そうに話すからそんな事ないと気軽には言えなかった。
「十分だよ、少なくとも俺はお前を認めてる、尊敬してる、心から」
「…ヒムは優しいな」
そう言い残し動かなくなった。
だんだん冷たくなる体温に、俺は葛葉と電話を繋いでいることも忘れて泣き叫んだ。
……そうか、俺は
(お前が 好きなんだな)
◇◇◇◇
(何してるんだっけ…、いや、もうどうでもいいや…。考えるのも、何もかも疲れた。)
「……」
しばらく思考を放棄していると遠くから扉を開く音がした。
「! エビオ!しっかりしろ!!」
騒がしい声に少し瞼を開けると白髪の綺麗な顔が近くにあった。
(……ヒム?なんで、こんなところ……、遊びに来たのか?)
焦っているような声色、困惑した顔。
(珍しい…)
不思議に思い何か声を発っそうとしても息が詰まって上手く喋れない。
今度は手を動かそうと力を入れる。しかしどれだけ力を入れてもなかなか動かない。
結局残ったのは労力感だけだった。
(なんで動かねえんだよ…)
そんな俺を見たヒムは俺の頬を撫でた。
(暖かい…)
その暖かさに安心したのか、何も出来ないこと故の恐怖なのか、何故かわからないけどいつの間にか俺は泣いていた。
(なんで泣いてんだろう、俺は何がしたかったんだろう…)
「嫌だ」
脳に流れ込んできたのは自分の声だった。
「あっちに戻りたくない、嫌だ嫌だ嫌だ、寝てても頭の中に入ってきて、何をしてても逃げ場がない。どうすればいいの?俺はどこに逃げればいいの?」
(なんだ、これ)
何も喋るつもりじゃなかったのに、まるで操作されてるかのように急に自分の口から出た言葉。
(俺は 助けて欲しいのか…?)
そしてまた意識を失った。
◇◇◇◇
コメント
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うわ、重かった…。読み終わったあと、胸の辺りがぎゅっとなったよ。 ヒムが駆けつけたときのエビオの「あっちに戻りたくない」って言葉が刺さった。普段は明るく振る舞ってる人ほど、心の中にたくさん抱え込んでるんだなって思った。 葛葉がパニックになって連絡してくるところや、叶がコメント見てすぐ動いたのも切なかった。周りにちゃんと気にかけてくれる人がいるのに、当の本人はそれに気づけないんだね。 まだ1話だけど、この先エビオがどうなっていくのかすごく気になる…。続きも静かに読ませてもらうね。