テラーノベル
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角を曲がると、自宅の明かりがはっきり見えた。
ここまで来てしまえば、もうすぐ終わってしまう時間。
「……着いちゃいましたね」
咲が少し名残惜しそうに言うと、悠真は「そうだな」と短く答えた。
玄関の前で立ち止まると、虫の声だけが響く。
咲は浴衣の袖を指でいじりながら、視線を落とした。
「今日は……楽しかったです」
勇気を振り絞るように言うと、悠真が穏やかな笑みを見せた。
「俺も。……妹ちゃんのおかげだ」
胸の奥で、また大きく鼓動が跳ねた。
けれど言葉を返す前に、玄関のドアが開いて――
「おー、おかえり。はぐれなくてよかったな」
先に帰っていた亮が顔を出した。
ほんの一瞬の甘い空気は、そこでふっと霧散してしまった。
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