テラーノベル
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花さんに「今日は遅いし、明日はオーディションだから、それに備えてしっかり睡眠をとるように」と、早々に解散させられた。
急に解散って言われても、いろいろあり過ぎて、まだ心の整理がつかないんですが……。
レイは部屋に帰るまでの道すがらも、部屋に帰ってからも終始ご機嫌で……ボクの左腕に絡みついたまま離れようとしなかった。
「レイさん、鍵があけられなくて」
「わたしが開けてあげますよぅ」
「レイさん、飲み物をコップに入れたくて」
「わたしが飲ませてあげますよぅ」
「レイさん、ちょっとお手洗いに……」
「ついて行ってあげますよぅ」
「それはちょっと……遠慮します……」
渋るレイを引き剝がして、ようやくトイレの中で1人になれた。
ああっ、どうするよ、明日……。
いつも通り踊れって? アカリさんのパートは頭に入っているだろうって?
そりゃそうだけど、そうじゃないんだよぉぉぉぉ。
みんなの一生が決まるオーディションなんだよ……。
次じゃダメなんだ。今回しかないんだよ。
そんな責任、ボクに背負えるの……。
ああ、こんなことでメイメイを守れるの……。
ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンッ。
部屋のチャイムがものすごい勢いで連打されている。
何事⁉ もう0時過ぎてるんですけど⁉
「れいぢゃぁぁぁぁぁん!」
遠くからメイメイの泣き叫ぶ声が聞こえてくる。
深夜の来訪者はメイメイのようだ。
ボクはトイレ引きこもりをやめて、慌てて外に出た。
「消灯時間が過ぎても、アカリちゃんが帰ってこないんです~。そしたら花ちゃんが、アカリちゃんはご両親の都合で急にメキシコに帰ったっていうし~」
あ、メキシコなの? 雰囲気的にヨーロッパのどこかかと思ってた!
ボクは話を聞きながら、2人のいるソファーへと近寄っていく。
「しかたないですよぅ。ご両親の都合なら……」
なんと、レイ特製膝枕でメイメイが甘やかされていた。
うらやまけしからん。
「でも~、ルームメイトにひとことぐらいアイサツがあっても~良いじゃないですか~。お洋服や荷物もそのままだし~」
「何か緊急の用事なんだと思うよ。アカリさんも慌てていたんじゃないかな?」
「あ、カエくんだ~。えへへ、カエくんカエく~ん♪」
いけない。レイの膝枕でメイメイが蕩けて幼児化してしまっている。
これはいけませんよ。カシャリッ。
「明日のオーディションまでに帰ってくるかな……」
メイメイがぼそりとつぶやいた。
話す? 今なのか?
「レイ、どうする?」とボクが目で訴えかけると、レイは深くうなずいて返事をくれた。
わかった。ボクが話すよ。
「明日のオーディションなんだけどね……アカリさんはメキシコ?……からだとさすがに飛行機が間に合わないみたいで……ボクが代役で参加することになったんだ」
言った! 自然に言えた!
「ええっ⁉ カエくんが一緒にオーディションに出るんですか⁉」
メイメイが跳ね起きてボクの手を握ってくる。
「う、うん……アカリさんの代わりにはならないかもしれないけど、全力を尽くすよ……ダメ、かな?」
拒絶が怖くて、メイメイの目を見られない。
怒った、かな……マネージャーのボクなんかがオーディションの代役なんて。
「やった~! カエくんと一緒にオーディションだ~!」
恐る恐るメイメイの顔を見ると、目がランランに輝いていた。
お、おう。喜んでもらえているみたいでひとまず良かった……。
「あー、えっと、アカリさんの立ち位置だと、基本メイメイとは反対側のポジションになるね。明日はよろしくね」
「よろしくです~。楽しみ~。カエくんの歌とダンス!」
「わかっているとは思うけど、メイメイも一緒にオーディション出るんだからね?」
「見たいです~。カエくんのパフォーマンス見たいです~」
「しかたないですね。わたしが2人のマネージャーとしてしっかりと録画を」
「レイ、オーディション中は録画できないし、マネージャーも中には入れないよ……」
「しかたないですね。奥の手をつかって――」
レイさん、奥の手を出し過ぎて、もう表になってるんじゃないですかね?
まあ、花さんに頼めば、オーディションの結果が出た後なら映像くらいは見せてもらえるんじゃないかなって思うので、これ以上非合法な行為はやめてね?
「明日のことはそういうことだから。アカリさんが出られないのは残念だけど、あとでがっかりさせないようにがんばろうね!」
「はいです! じゃあそろそろ寝ましょう~」
「そうだね、もう遅いね。おやすみなさい」
玄関まで送って行こうとするも、メイメイはニコニコしたまま動かなかった。
「メイメイ? 早く部屋に帰っておやすみ?」
「いやです」
「でも帰らないと……」
「いやです。今日はここで寝ます~」
メイメイがニコニコしたまま、ボクの部屋の扉を開けようとしている。
この天使様はいったい何をされているのでしょうか。
「ダメダメダメダメダメ!」
同じ部屋で寝るなんて、ダメに決まってるでしょ!
「なんでですか~。アカリちゃんがいなくて1人だとさみしいです~」
鍵のかかったドアノブをガチャガチャ引いている。
やめてやめて。
「でも、ほら、だって……ね、レイ?」
レイ様、ボクには無理です! お助けを!
「もう、しかたないですね。今日はわたしの部屋で一緒に寝ましょう」
「え、良いの? レイちゃん大好き~♪」
ナチュラルにメイメイの肩を抱くレイ。うれしそうにしな垂れるメイメイ。
ああっ! レイ様ありがとう……でもとても複雑な気持ちです。
「良いですよぅ。かえでくんははずかしがり屋さんなので、1人じゃないと寝られないんです」
「そうなんだ~。カエくんかわいいね♪」
「ええ、かわいいですね。それではおやすみなさい」
2人は仲良く連れ立ってレイの部屋へと消えていった。
1人取り残されて強烈な疎外感。なんでこんなことに……。
明日オーディションだし、ホントはボクも心細いの……。
……はあ、寝よ。
ボクは1人、自室の鍵を開けて中に入る。
「もう、甘えんぼうさんですね。今日は一緒に寝てあげますから、明日のオーディションがんばるんですよぅ」
レイ(魔法使い)!
ううっ、ホントに心細かったんだよぅ。ありがとうありがとう。
ボクはレイ(魔法使いからパジャマに衣装チェンジ)に抱きついて、しあわせな眠りについた。
明日はとにかく全力を尽くそう。
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コメント
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「おお、ついにカエくんが代役でオーディションか…!」ってめっちゃ興奮しました。一番ぐっときたのは、メイメイに話すシーン。カエくんが「ダメ、かな?」って不安そうなのに、メイメイが「やった~!」って無邪気に喜ぶところで、もう全部報われた気持ちになりました。しかもその後、レイがメイメイを連れて行って、実は魔法使いで戻ってきて一緒に寝てくれる…って構成が完璧すぎる。一人で心細いって言えなかったカエくんの気持ち、すごくわかるし、レイの優しさが沁みました。明日のオーディション、全力で応援したいです!