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『風の果てで、また会おう』
li視点
この世界じゃ、
人は死ぬと“風”になる。
空のどこかを漂いながら、愛した人のそばを時折、通り過ぎるんだって。
俺は、ずっと笑ってた。
どんな時も、空の広さに憧れて、いつかあの一番高い島まで飛びたいって夢を見てた。
ロゼはいつも、そんな俺の無茶を笑いながら止めてくれた。
「らいとは本当に、風みたいに掴めないな。」
「ええやん、俺、風になるけん。」
「そんな縁起でもないこと言うなよ。」
あの日も、同じ空だった。
だけど、風は荒れてた。
空を裂く嵐の中、俺はロゼの気球を庇って、
帆を抑えた瞬間――視界が白く、消えた。
……気がつくと、風の中だった。
形も重さもない。
声を出しても、誰にも届かない。
ロゼは泣いてた。
俺の名前を呼びながら、空を見上げて。
「……ロゼ、ごめんな。
俺、約束したのにな。
“空の果てまで、一緒に行こう”って。」
風が頬を撫でる。
それが俺の唯一の“触れ方”になった。
季節がいくつも過ぎ、
ロゼの髪に白いものが混じりはじめても、
彼はいつも同じ空を見上げて言う。
「…らいと、まだ、ここにいるんだろ?」
俺は風を起こす。
彼の髪を揺らして、
笑ってほしい時には、柔らかく吹く。
泣いている時には、そっと背を押す。
そして、ある夜。
満天の星の下で、ロゼが気球を出した。
「……もう一度だけ、会いに行くよ。」
風がざわめく。
俺はその声を知っていた。
ロゼが空へ昇るたびに、俺の心はざわざわしていた。
――まるで、再会を恐れているように。
「ロゼ、もういいけん……」
言葉は届かない。
けれど、風の音で伝わる。
「……来るな」って。
でも、ロゼは笑った。
空の果てに消える直前まで。
「……やっと、追いついたな。」
次の瞬間、風が弾ける。
二つの風が絡み合い、空を渡って、ひとつになる。
――あぁ、やっと一緒に飛べた。
それからこの空では、いつもふたつの風が並んで吹く。
柔らかく、どこまでもあたたかく。
誰かがそれを“恋風”と呼ぶ。
けど、俺たちは知ってる。
これは、永遠に離れない二人の約束の風だ。