自分の白い腕から溢れては溢れ、溢れては溢れる黒い血を見て深く深く溜息を付いた。溜息は絶望と諦めとほんの少しの希望を孕んでいる。
この世は生きにくい。し、逝きにくい。毎朝毎朝目を覚ますと其の途端、大量の情報が私の首を絞めるように流れ込む。
今日の任務。あの人の対応。あれもしなければ、これもしなければ。あの処理を、あの対処を。それを終わらせたれ次は、それが終わればあれをして。
ノンブレスで世界は廻る。
今日が終わり重いまぶたを閉じるまで水面上には上がってこれない。僅かな酸素で潜り続ける。そして今日が終わり、今日が始まる其の狭間にそっと顔を水から出して息をつぐ。吸って吐いて、吐いたいくつかの息は溜息となる。私はそうして今日も生きる。
『何をしている。太宰』
ふと顔をあげると私の友人が悪そうな顔色で此方を凝視する。時折目が合うが、時折目が合わない。何処を見ているのだろうか。視線を追うと、
嗚呼、『これ』か。
私の友人が、オダサクが私の右手に握られた長い金属を無理やり取り上げた。そして私に抱きつきこう、云った。『そんなことはやめてくれ』、と。
私は不器用に微笑んで彼にこう云う、『ごめんね』と。
私が彼の外套を少し濡らすとオダサクは私の頭を赤ん坊の頭を撫でるように撫でた。
『疲れたな。太宰。もう、楽になるか?』
そう、優しく耳元で囁かれた。私はやはり不器用に笑い、彼の腕の中で小さくうなずいた。
薄暗く狭い部屋。二人で窓やドアの隙間にガムテープを貼った。そして密室の真ん中に練炭をおき、オダサクのライターで火をつける。
オレンジ色の光が薄暗い部屋少しだけ明るくする。炭の水分が熱され、パチパチと小さな部屋に音が響いた。私とオダサクは睡眠薬を既定の量の倍ほど飲んで、焚き火を見るような気分で練炭を二人で、静かに見つめた。
『如何して、オダサクは私についてきたの』
彼は少し眠そうに、太宰一人じゃ寂しいだろ。と
段々、視界がぼやけてきた。体が重くて力が入らない。私は薄弱な力でオダサクを揺すった。然し、返事は来ない。私をおいて先に夢を見ているようだ。私は最後の力を振り絞って、彼の唇に接吻する。
煙草と、咖喱の味がする。最後の晩餐にしては少し贅沢だ。
私はそのまま力を抜いて、織田作の体の上に落ちた。彼の優しく暖かくて、火傷しそうな体温を布越しに感じながら。私は、今日を生ききった。
コメント
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もう大好き…好きすぎて言葉にならん
うおおぉぉ好きぃぃ ちょっとショタに戻ってる間あって良きね〜