テラーノベル
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ー世界中の誰よりもきっと、君のことを愛しています。
7月1日。
騒がしいセミの鳴き声で目を覚ました。
カーテンの隙間から溢れる太陽の光が、鬱陶しいほどに自分を照らしてくる。これだから夏は嫌いだ。
まだ眠い体を気合で起こし、すぐに朝食を済ませ、急ぎ足で制服に着替える。
遅刻しそうな訳では無い。むしろ時間には余裕がある。
なのに何故自分がこれほど急いでいるのか、それには理由がある。
時計を確認し、時間になるのを待つ。あと一分。
8時30分。今。
時刻が変わったと同時に家のインターフォンが鳴る。
慌てて階段を駆け下り玄関のドアを開けると、制服姿のイケメンが立っていた。
彼ははこちらを見るなり爽やかな笑顔で挨拶してくる。
「おはよ」
明るいオレンジ色の髪が風になびく。
「ジェルくんおはよ」
自分が急いでいた理由は紛れもない、彼を待っていたからだ。
同じ学校に通う、一つ年上のジェルくん。
モデルのように整った顔立ちとスタイルで男女問わずに好かれている学園一の人気者。
保育園の時から親同士の仲が良く、家も近いため、昔から沢山遊んでもらった。
それで学校も一緒に登校させてもらっているのだ。
本当に、こんなに素晴らしい人の隣にいて良いのか?と時々不安になってしまうほど、俺には十分過ぎる人だと思っている。
「マジで最近暑いよなぁ」
「ほんとそうだよね。溶けそうになる」
「こんなあっついのに学校行くなんて、鬱やぁ…」
と深いため息を付く彼。そんな動作だけでも絵になるのだからすごい。
「でも、毎朝なーくんに会えるんやったら暑くても頑張れるわ」
とこちらに優しく微笑むジェルくん。
急な発言に一気に顔が火照る。
そんな言葉を彼が自分に言うと思わなかったから。
恥ずかしくなって顔を背けると、「え、もしかして照れてんの〜?なーくんはほんま可愛いな〜」とニヤニヤしながら
顔を覗き込んでくるものだから余計に恥ずかしくなる。
「照れてないから!!からかわないでっ!!!////」と言いながら必死に対抗するもジェルくんには全く効かない。
むしろ俺の反応を楽しんでいるようにも見える。
「はいはい、分かりまちたよ〜」とからかってくるジェルくん。本当にこの人は!!
そうやって他愛も無い話をしていると、あっという間に学校についてしまった。
少し寂しい気持ちになったが、本人には絶対に言わない。言ったら多分、あの人は調子に乗る。
ジェルくんとは学年が違うため、下駄箱の前で別れて一人で自分のクラスへ向かう。
自分のクラスに入った瞬間、耐えていた頬が思わず緩む。
「今日もジェルくんと喋れた…!」心の中でガッツポーズをして幸せな気持ちでHPの準備をする。
今日一日は暑くても幸せな気持ちで過ごせそうだ。
ここで気づいたかもしれないが、俺はジェルくんのことが好きだ。恋愛対象として。
この気持ちに気づいたのは最近ではない。
物心ついた頃からジェルくんを追いかけていた。一つ先に生まれたジェルくんは頼もしくて、俺の憧れだった。
いつも泣いてばかりで手のかかる子だったと今でも母親からよく聞く。
そんな俺にも分け隔てなく、優しく接してくれた、たった一人の「お兄ちゃん」。
「憧れ」が「恋心」へと変化するのにあまり時間はかからなかったと思う。
ジェルくんの全てが愛おしいと思った。
この人の笑顔を、俺の人生全てをかけて守りたいと思った。
自分でもちょっと気持ち悪いくらいだと思う。それぐらい、本当に彼のことが好きなんだ。
でもこの気持ちは伝えるべきでは無いことぐらい俺も分かっている。
そもそも男が男を好きだという事自体、世間一般的に言えばおかしなことだ。
もし自分の本心を言ったとしても、そのせいでジェルくんを困らせてしまうのなら、その方がもっと嫌だし、
ジェルくんに嫌われたくない。
でも、だからと言ってこの気持ちに嘘を付く事は出来ない。そんな賢い事は俺には出来ない。
だから俺は決めた。
この気持ちは俺の心の中にしまっておこう。
大切に。溢れないように。
きっと油断したら、俺はこの気持ちを抑えられなくなってしまう。
そうならないように、鍵をかけて我慢する。
それで良い。
それで良いはずなのに、
どうしようもなく胸が痛むのは、どうしてだろう。
コメント
3件
神すぎて泣きそう 。 なーくん 天使 かよ
なにこれ最高すぎだろッ!!!!!!!!