赫灼の鬼子と鬼殺の娘
〜注意!〜
チャットノベルの書き直し。
ほぼ原作をなぞっただけ。
少しあやふや。
それでも良い方はそのままスクロール〜!
赫灼の鬼子と鬼殺の娘
(なんで……なんでこんな事になったの……?)
少年を抱えた少女は思う。少年は血塗れで意識を失っていた。少女は、必死に涙を堪えていた。
(お兄ちゃん……死なないで……!絶対助けるから……。私が……絶対、助けるから……!!)
*
「お兄ちゃん!今日は私も炭売り手伝うよ」
雪が深く積もった中、ザクザクと雪を踏む音が聞こえる。そんな中、今しがた炭を焼き終えた赫灼の髪を一括りに結び、髪色と同じ瞳を持つ十三歳程の少年、竈門炭治郎が顔を真っ黒にしながらも振り返る。
「え?でも今日は一段と雪が積もっているし、転けて怪我でもしたら大変だよ。俺一人でも慣れてるから大丈夫だぞ」
「でも、今日は髪飾りとかも一緒に売れたらなぁって思うの。久し振りに私も顔を出さなきゃ、みんな心配しちゃうでしょ」
くすり、と微笑みながら言うのは、炭治郎の妹である禰豆子だった。それに、炭治郎は仕方無いなぁ、と苦笑する。
「仕方無い……母さん、いいかな?」
扉から出てきた母に尋ねる。
「ええ、良いわよ。けど炭治郎、顔が真っ黒だから、少し拭いてから行こうね」
母は炭治郎の顔を拭う。そこに、まだ幼い弟妹達が駆け寄ってくる。
「兄ちゃん!今日は姉ちゃんも一緒に町に行くの?」
「私も行きたい〜!」
「なっ!」
禰豆子より年下の少年は憤慨する。それに母は引き止める。
「駄目よ。炭治郎達みたいに早く歩けないでしょう?」
「母ちゃん……!」
「駄目。今日は雪が深くて、荷車を引いていけないから、乗せてもらって休んだりも出来ないのよ」
弟は駄々を捏ねる。そんな弟を母は優しく宥める。
「着いていきたい!ちゃんとお手伝いするよ?」
妹は禰豆子に抱き着く。それに禰豆子は妹の頭を撫でる。
「ありがとう、花子。でも今日はお留守番よ 」
「えぇ〜!!」
妹、花子は泣きそうな顔をする。禰豆子は「その代わりに」と、ぴっと人差し指を突き立てる。
「家に帰ったら、一緒に折り紙を折ろう?折鶴とか紙飛行機とか、いろいろつくってあげる!」
「ほんと!?」
「勿論!」
花子は、「絶対だよ!約束!」と笑顔で言う。それに禰豆子は微笑む。
「じゃあ茂は、家に帰ったら美味いものいっぱい食わせてやるからな!」
炭治郎は弟、茂にそう提案する。
「うん!」
茂は、「にひひっ」と笑う。
「ありがとうね、二人とも」
母はなんだか申し訳ない、という顔でそう言う。
「ああ。じゃあ行ってくる」
そろそろ家を出ないと、と立ち上がる。
「そうだ、竹雄。出来る範囲で構わないから、少し木を切っといてくれ」
炭治郎は、斧を持った少年、竹雄にそうお願いする。
「そりゃやるけどさぁ。一緒にやると思ったのにさぁ」
竹雄は不服そうにしながらも了承する。それに炭治郎は竹雄の頭を撫でる。
「よしよし」
「な、なんだよ急に!!」
竹雄は顔を真っ赤にして戸惑う。それに茂は「竹兄照れてらぁ!!」と揶揄う。
「うるせえやい!!」
竹雄は揶揄う茂に少し怒る。
「よしよし〜」
「だからやめろって!!」
笑顔で撫で続ける炭治郎に竹雄は慌てる。そんな兄弟のやり取りに一家の笑い声が響く。
「じゃあ、花子と茂は、六太の面倒を見てくれると助かるなぁ」
禰豆子はそうお願いする。二人は「勿論!任せて!」と頷く。
そして、笑い声も落ち着いた頃、炭治郎と禰豆子は山を降りていく。
「早く帰ってきてね〜!」
「気を付けてね〜!」
見送ってくれる家族に、炭治郎と禰豆子は笑顔で手を振る。
山中は、たわいも無い話をして過ごした。
「生活は楽じゃないけど…幸せだな」
炭治郎は、ぽつりと呟く。
「ふふっ、けど、人生には空模様があるものね」
繋げるように、禰豆子は呟く。それに炭治郎は少し驚いたように目を見開く。
「禰豆子は…難しい言葉を知っているなぁ」
「だって、お兄ちゃんが時々そう呟いてるの、私聞き逃してないから!」
禰豆子は、むんっ、とドヤ顔をしてみせる。それに炭治郎は笑顔になる。
「人生には空模様あり。ずっと晴れ続けることは無いし、ずっと雪が降り続けることもない、でしょ?」
「ああ。そして、幸せが壊れる時には、いつも血の匂いがするんだ」
そう言う炭治郎に、禰豆子は少し顔が曇る。
「私も……何か嫌な事がある直前、すごく、頭が痛くなるくらい怖い気配がするの」
「禰豆子も五感がいいのか?」
怖い気配、というのに炭治郎は首を傾げる。
「五感というか……第六感って言うのかしら。そういうのが優れてるのかも」
あまり詳しいことは知らないけど。と付け加える。
そんな話をしているうちに、町の麓まで来た。
「炭は如何ですか〜!」
「髪飾りなども有りますよ〜!」
兄妹二人は商売を始める。
「あら!今日は禰豆子ちゃんも居るのね〜。こんな寒い中よく働くねぇ。風邪引くよ?」
「これくらい平気だ!炭はどうだ?足りてるかい?」
普段寒さに慣れてる炭治郎達は、大丈夫だよ、と首を振る。
「おぉい!炭治郎!炭を売ってくれ!この間は炭を売ってくれてありがとな」
「こっちも炭を頂戴!」
どんどん炭が売れていく様子に炭治郎は嬉しくなる。
「禰豆子お姉ちゃん!今日は何が売ってるの〜!?」
「ふふっ、今日は髪飾りを沢山作って来たの」
小さな女の子達が禰豆子の近くに駆け寄る。それに禰豆子は髪飾りを手のひらに乗せて見せる。女の子達は「可愛い〜!」と目を輝かせて眺める。
「お母さんに頼んで買ってもらう?」
「うん!」
女の子達は母親に頼みに行こうと、急いで去っていく。それを禰豆子は優しく見送る。
そして、商売も終え、空は暗くなっていった。
「遅くなっちゃったな…。でも全部売れて良かったな!」
帰りの山中、炭治郎はそう言う。
「そうだね!沢山作った甲斐があったよ!」
禰豆子も嬉しそうに微笑む。すると、麓の家から自分達を引き止める声がした。
「こら炭治郎!禰豆子!お前達、山に帰るつもりか?危ねぇからやめろ」
「俺は鼻が利くから平気だよ」
炭治郎はそう言う。
「うちに泊めてやる。来い、戻れ」
お爺さんはそう言って止めなかった。
「でも…」
「良いから来い!鬼が出るぞ」
「…!」
炭治郎と禰豆子は鬼、という言葉に反応する。
「…禰豆子。俺は先に家に戻る」
「えっ!なんで?三郎おじいちゃんの言う事が本当だったら、危ないよ!」
少しキリッとした兄を禰豆子は慌てて引き止める。だけど、炭治郎は譲らなかった。
「家に誰か戻らないと、みんな心配するだろう?大丈夫。そうだ、禰豆子にはこの耳飾りを持っていて欲しい。それとこの斧も。護身用になるはずだから」
いつも兄の両耳に付けている花札の耳飾りを両方取って、禰豆子の手のひらに乗せる。そして斧を禰豆子の腰に差す。それが、まるで最後の会話とでも言わんばかりに兄は優しい顔をしていた。それに、禰豆子は何も言えなかった。
「三郎爺さん!俺は先に家に帰るから、禰豆子を泊めてやって下さい!」
「あ、おい!」
炭治郎はそう言って、足早に山を登っていく。それに自分達を引き留めてくれた老人、三郎ははぁ、と溜息をつく。
「仕方無い、禰豆子。こっちへ来い」
「は、はい」
三郎の家では、温かい煮物とご飯を夕餉に出してくれた。
「ご馳走様でした!」
熱いお茶を啜る。そして、ずっと気になっていたことを質問する。
「ねえ、三郎おじいちゃん。鬼って何?」
「…昔から、人喰い鬼は夜になるとうろつき出す。だから夜は歩き回るもんじゃねえ。食ったら寝ろ。明日早起きして帰りゃいい」
まるでその話が不快でもあるかのように、三郎は口早にそう言って切り上げた。禰豆子は大人しく布団に入る。でも、あと一つだけ聞きたいと思った。
「鬼は…家の中には入ってこないの?」
「…いや、入ってくる」
「じゃあ…みんな…鬼に…喰べられちゃう…」
質問には答えてくれた。最後は、布団に入ったからか、ウトウトしながら答えたが。
「だから鬼狩り様が斬ってくれるんだよ、昔から…」
三郎は煙草を吸いながら続ける。
「明かり消すぞ、もう寝ろ」
蝋燭を消せば、部屋が暗闇に包まれる。
(三郎おじいちゃん、家族を亡くして一人暮らしだから…寂しいんだよね…。今度、弟達を連れて来るから、怖がらなくても…鬼なんか居ないよ。大丈夫。でも昔、おばあちゃんやお兄ちゃんからも似たようなこと聞いたような…)
そんなことを考えながら、眠りにつく。
そして朝になり、禰豆子は身支度を整え、家を出ていく。
「気をつけてな」
「はい!ありがとうございました!」
そう言って、山を登っていく。
兄は、なんて言っていたっけ。そう、「幸せが壊れる時には、いつも血の匂いがする」って…。
禰豆子は足を止める。嫌な気配がしたのだ。それに頭も少し痛い。嫌な事が起こる前触れだ。それに、禰豆子は足を早める。
「はぁ…はぁ…」
家の前まで来た時、息を切らしていたが、目の前を見た途端、ヒュッと息ができなくなった。
そう、目の前には末っ子を庇うように倒れていた血塗れの兄が居た。
「あ…ああああぁああああああああぁぁぁ!!!」
禰豆子は悲鳴を上げ、荷物を投げ捨て兄の所へ走る。
「ど、どうした、どうしたの!!何があったの!!? 」
家の中を見てみれば、一言で表すなら悲惨だった。瞳に光の無い竹雄、うつ伏せになって倒れている茂、寄り添って息絶えている母と花子。あまりに突然起こった不幸に涙は出なかった。いや、出てこなかった。
だけど、唯一兄だけは温もりがあった。だから、希望が持てた。
(お兄ちゃんだけはまだ温もりがある…お医者様に見せれば助かるかもしれない…!どうしてこんな事になったの?熊?冬眠できなかった熊が出たの?)
兄を抱え、必死に山を下りる。
(息が苦しい…凍てついた空気で…肺が痛い…!まだまだ町まで距離があるのよ!急いで!絶対死なせないから…!私が…絶対助けるから!)
兄の手が一瞬ピクリと動いたかと思えば、突然禰豆子の身体を掴み、唸る。
「グォォォォォォォ!!!」
「!?」
(しまった…すべっ!!)
足を踏み外し、崖へと落ちる。
「ぁああああああ!!」
ボスンッと地面に落ちる。生きているのは、多分雪のおかげだ。滑ったのも雪だが。
(お兄ちゃん…お兄ちゃん!!)
兄は木の近くで俯いて立っていた。乱れた赫灼の髪で表情はよく見えない。
「お兄ちゃん!大丈夫?歩かなくていいわ!私が町まで運ぶから!お兄ちゃん!!」
禰豆子は兄の所へ歩み寄る。すると突然、兄が、血走った眼で禰豆子を睨み、肩を掴む。そして、口を大きく開けるのを禰豆子は咄嗟に持っていた斧で兄の口を塞ぐ。
「グゥウウウウゥウ…」
(これは…鬼だわ!三郎おじいちゃんの言葉を今思い出した。お兄ちゃんが人喰い鬼?違う、お兄ちゃんは人間よ!ずっと一緒に居たもの! )
けど、兄からはいつもの優しい太陽の温もりのような気配はしなかった。
(でもあれはお兄ちゃんがやったんじゃない!六太を庇うように倒れていたし…口や手に血はついてなかった…。そして、もうひとつ…もうひとつの気配が…)
だから、兄が家族を殺したなんてこと…信じたくなかった。
すると、兄の身体がミシミシと音を立て、成人の男性並みに大きくなっていく。
(か、身体が大きくなった…!?力もどんどん強くなる…)
ただでさえ、女が男の力に敵う筈が無いのに。
(私が…他所の家でぬくぬくと寝ていた間、皆はあんな惨いことに…痛かったよね…苦しかったよね…助けてあげられなくて、ごめんなさい)
禰豆子は涙を流し、謝る。
(でもせめてお兄ちゃんだけは何とかしてあげたい。でも凄い力、押し返せない!!)
「お兄ちゃん!頑張って!鬼になんかなっちゃダメ!しっかりして!堪えて、頑張ってよぉ!!」
禰豆子が必死にそう叫ぶと、頬に一粒、二粒と雫が零れる。それは、兄の涙だった。
「お兄ちゃん…」
すると、足早にこちらに向かってくる人の気配がした。それは青く光る刀を持った男性で。禰豆子は慌てて兄の首を掴み、刀の軌道を変える。
「危ない!!」
「ガァッ!?」
「…!?」
刀は禰豆子の髪を斬った。長い髪は短くなった。
木に当たった衝撃で、兄の体は元の大きさに戻る。
(何…誰…刀…?)
男は禰豆子達を睨む。
「なぜ庇う?」
「…あ、兄です、私の兄なんです!!」
しかし兄は逃げ出そうと暴れる。それを必死に留める。
男は顔を顰める。
「…それが兄か…」
男は次の瞬間には、兄の手を掴み拘束していた。
「アアァウ!!ガァァァッ!!」
「お兄ちゃっ!!」
「動くな」
その言葉の圧で動けなくなった。風が吹く。
「俺の仕事は、鬼を斬る事だ。勿論お前の兄の頸も跳ねる」
「待ってっ!お兄ちゃんは誰も殺してない!!」
兄の頸を跳ねる、ということに禰豆子は兄を庇う。
「よくもまぁ…。今しがた己が喰われそうになっておいて…」
「違う!私のことはちゃんと分かっているはずよ!私の家には、もうひとつ、感じたことのない誰かの気配がした。皆を殺し…たのは、多分そいつよ!!お兄ちゃんは違うの!!なんで今そうなったのかは分からないけど…でも!!」
必死にそう言う。だけど男は同情も何もしなかった。
「簡単な話だ。傷口に鬼の血を浴びたから鬼になった。人喰い鬼はそうやって増える」
淡々とそう述べる。
「違う!!お兄ちゃんは人を喰ったりしない!私がそうさせるから…私が全部ちゃんとするから…だから…だから…!!」
男は兄の頸に刀を向ける。
「殺さないでっ!!!」
もうこれ以上…私から奪わないで欲しい…。
「どうか…兄を殺さないで下さい…お願いします…お願いします…」
禰豆子は雪の上に蹲る。雪の冷たさなんて慣れていたはずなのに、今は痛いほど冷たく感じる。
男は暫し黙ったかと思えば、次の瞬間怒鳴り声を上げた。
「生殺与奪の権を!他人に握らせるな!!」
その怒鳴り声で、禰豆子はハッとする。
「惨めったらしく蹲るのはやめろ!!そんなことが通用するならお前の家族は殺されていない!!奪うか奪われるかの時に、主導権を握れない弱者が!兄を治す?仇を見つける?笑止千万!!」
禰豆子はその怒鳴り声をだまって聞くしか無かった。男は続ける。
「弱者には、なんの権利も選択肢もない!ことごとく力で強者に捩じ伏せられるのみ!何故お前は兄を覆いかぶさった!あんな事で守ったつもりか!?なぜ斧を振らなかった!?なぜ俺に背中を見せた!?そのしくじりで兄を取られている!!お前ごと兄を串刺しにしても良かったんだぞ!!」
青く光る刀を禰豆子へ向ける。兄は地面を蹴り、唸る。
(泣くな、絶望するな。そんな事は今することでは無い。家族を殺され、兄は鬼になり、辛いだろう。叫び出したいだろう。“分かるよ”。俺があと半日早く来ていれば、お前の家族は殺されていなかったかもしれない。然し、時を巻いて戻す術は無い。怒れ、強く純粋な怒りは、手足を動かす揺るぎない原動力となる。脆弱な覚悟では、兄を治すことも仇を打つことも、出来ない!!)
刀を兄の“胸”へと向ける。
「やっ…」
禰豆子が制止しようとするも、男は兄の胸を突き刺す。
「ギャァアアアッ!!」
「やめてぇ!!」
禰豆子は咄嗟に石を投げる。それを男は容易く刀で弾く。
「ああああああああぁぁぁ!!!」
斧を持ち、男へと接近する。
(感情に任せた単純な攻撃)
「愚か!!」
刀の柄で禰豆子の背中を強打する。禰豆子は気絶する。その様子を炭治郎は目を見開き見ていた。男は違和感を覚えた。
(斧はどこだ?)
斧は空中で回転しながら此方に向かっていた。男は間一髪で避ける。
そう、禰豆子は木に隠れる直前、男に石を投げ、それと同時に上へ斧を投げた。丸腰であるのを悟られぬよう、振りかぶった体勢で手元を隠す。
(俺に勝てないのが分かっていたからだ。自分が斬られた後で俺を倒そうとした。こいつは…)
男が油断した時、炭治郎は男の手を振り払い、足で蹴る。
(しまった、喰われる!)
その瞬間、男は信じ難いものを見た。
―お兄ちゃんは…お兄ちゃんは違うの…人を喰ったりしない…!!
「ウウウウゥウウゥ…」
炭治郎は禰豆子の前に立ちはだかり、男を睨む。
(昔、同じようなことを言って鬼に喰われた者が居た。飢餓状態の鬼は、親でも兄弟でも殺して喰べる。栄養価が高いからだ。今までそういう場面を山ほど見てきた)
今までの鬼はそうだった。然し、目の前の少年は違った。
(この少年は怪我を負わされており、それを再生するのにかなりの力を消費している筈だ。鬼になる際にもかなりの力を消費している筈だから、間違いなく今は重度の飢餓状態。一刻も早く人の血肉を喰らいたかっただろうに)
禰豆子を守る動作。男に対する威嚇。
(この兄妹は、何か違うのかもしれない)
炭治郎の首に手刀をして、気絶させる。
家族の声が聞こえる。母が囁く。
「置き去りにしてごめんね、禰豆子。炭治郎を頼むわね」
意識は現世へと戻る。
起きた時、禰豆子は炭治郎の襟を掴んでいた。炭治郎の口には竹筒が咥えられていた。
「起きたか」
「!」
今度は兄を傷つけさせないよう、抱き抱える。
「もうお前の兄を傷付けるつもりは無いから安心しろ。狭霧山の麓に住んでいる、鱗滝左近次という老人を訪ねろ。冨岡義勇に言われて来たと言え。今はまだ日が差していないから大丈夫なようだが…。兄を太陽の下へ連れ出すなよ」
冨岡義勇と名乗った男はそう言い残して禰豆子の前から姿を消した。それを暫く禰豆子は見詰めていた。
禰豆子は家族の遺体を土に埋め、埋葬する。その間、兄はぼーっとしていた。
兄の服も血塗れだった為、着替え直した。いつも着ている緑と黒の市松柄の羽織を今は羽織っていた。
埋葬も終え、兄から貰った耳飾りを付ける。その耳飾りは重かった。
「行こう、お兄ちゃん」
兄の手を繋ぎ、暫く戻らない家を見詰める。
死んだ家族が手を振って見送る。
『行ってらっしゃい!!』
『気をつけてね!!』
その声が、本当に聞こえてきて辛くなる。禰豆子と炭治郎は小走りに山を下りる。
「行ってきます」
コメント
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ノベルの方でもいいですね! 保存したのが消えるのあるあるですよね💦
〜あとがき〜 ノベルの方だとあとがきを書くスペースが無いので、ここに書いておこうと思います! まず、7000文字読むのお疲れ様でした。 原作をなぞっただけだけどすごく長くなってしまった…。 旧の方ではしのぶさんの継子になりましたが、話の展開的に面倒くさいことになりそうだなと思い、禰豆子にも水の呼吸を極めてもらおうかと思います。