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うわー!!世界観いいな! 好きすぎる〜✨ 文章力上がりすぎて凄すぎる天才!!
堕天児《おとしご》とは
別世界の廃ニュータウンの研究から命からがら逃げ出してきた子が空から何百人、何千人とも落ちてくる子の事を指す
掬い手《すくいて》とは
落ちてくる堕天児を掬おうと網やマット、その他色々な物を使用している集団
大抵は落ちてくる堕天児に潰されて亡骸となるか、何も掬えずに終わるか
カガリ
──堕天児だ!堕天児が落ちてくるぞ!
その声を合図に地上では家屋に隠れる者、持っていた網やマット、それぞれの道具を使用して何とか掬おうとする掬い手
一方、空には大きな赤黒い裂け目が出来ている
それはどんどんと大きさを増し次第には完全に割れ、どんどんと少年少女が、堕天児が落ちてくる
それぞれの右腕にはそれぞれの紋章が刻まれていた
一瞬で当たりは血生臭い鉄臭い匂いに包まれた
地面に叩きつけられる嫌な音が鳴ると同時に鮮血と共に臓物が溢れ出る
掬い手が巻き込まれ右腕が落ち、頭が欠け、アニメのような血が飛ぶ
そのように巻き込まれぬよう各々の道具を使い掬う者たちがいるが堕天児は全て掬う事は出来ずに掠り地面に叩きつけられる
僕もその一人、網を持ち落ちてくる堕天児をなんとか掬おうとする
目の前に落ちてきた堕天児を咄嗟に網で掬う
あぁ、無事だ、良かった
そう思うと、すぐに自身の家屋へと連れていく
堕天児の折れた右腕を添え木を入れ固定する
ここはどこ?
そう問いかける堕天児に優しく返事を返す
ここは優しい場所だよ
そっか、と素っ気ない返事が来る
右腕の紋章を確かめる合間もなくその子の治癒で一日がすぎる
パーカーを深々と被り、目も合わせてくれないその子はどのような紋章が刻まれているのかとワクワクしながら右腕が完治するのを心待ちにする
スズキ
僕はごく普通の両親の元で産まれ、幸せに育ち、暮らした
部屋にはいつも一人
カガリ
そう言えば、君、名前…ある訳ないか
あっても覚えてないよね?
問いかけても下を向き、小さく頷くだけ
名前を決めてあげよう、堕天児なんて穢れた名前は駄目だ
廃ニュータウンに入れられた者は名前諸共奪われる
自分の名前は…誰につけられたんだったけ
「ねぇ、外の世界«街»に行かせて」
ようやく喋ったと心を踊らせたが内容は暗い
この世界に街なんてものはない、外は真っ白、何も無い
それじゃあここの食料は?水は?何処から来てるの?今更そんな理屈を考えても無駄だ
まだ子供だ、どう返事を返そうかと悩んでいると自己解決をしてくれたようだ
「無いんだね、じゃあここは地獄だ」
一瞬で自身の記憶がフラッシュバックする
ここは自らの死を望み、一度は行動に移した者が来る場所だ
そこを研究者に捕まり、実験され、複数のDNA遺伝子を組み合わされ、壊れたら捨てられる
壊れなかったら下僕となる、逃げ場なんてない、それでも逃げてきた場所をなぜ地獄なんて言うのか理解が出来ない
頭の中でぐるぐると思考をめぐらせていると次の質問が問いかけられる
「ここにずっと居ないと行けないの?」
こっちにおいでと手招きをする、一人の堕天児を指差しあれは見える?と、問いかける
そっと頷く彼に次の人を、人の形を失いゆらゆらと蠢く何かを指差す、 あれは?
また彼はそっと頷く
次の人を、最早人ではない地面を這い蹲る半透明な物体を指差す、あれは?
またもや彼は少し驚きながらも頷く
じゃあ最後、あれは?と、問いかける
何も見えないよ
当たり前の回答が返ってくる、そう、何も見えなくなる、存在が«無»になる
完全に消え、記憶は無くなり、人としての理性は無くなり、自身の制御が出来なくなり、無と化す、原因は未だに分かっていない
スズキ
両親は僕をペットとして扱う
そんな日々に苦痛を覚え、自身の手首に刃を当て何度も引いては力強く押すを繰り返す
ある日、高い高いビルの屋上へと一人立っては来世があるといいなぁと軽い気持ちで思ってはフェンスをよじ登り、透明のアスファルトを歩くかの如く空へと一歩踏み出した
気がつくと真っ白な空間に色んな器具を刺され、研究者数名がメモを取っていた
カガリ
そうだ名前だ、名前を決めよう
自身の存在が無に還るまでに
そう思い直すの、堕天児が空を指差す、あれは?
刺された方向を見ると、真っ白な空間が現れ、次第に赤黒い亀裂が広がる
──堕天児だ!堕天児が落ちてくるぞ!
そんな声と共に掬い手が一斉に出てくる
自分は堕天児にハンカチを渡し、絶対に見たり嗅いだりしちゃ駄目だよと念を押した
子供にこれは刺激が強すぎる
しばらくするとそんな亀裂は消え、辺りは鉛臭い匂いに染まる
何かの店の看板には落ちてきた堕天児の血なのか、潰された掬い手の血なのかは分からないがその看板はとある2文字が赤く染まっている
アズ
そうだ、この子の名前はアズにしよう
変な決め方だがどうしてもこの2文字に惹かれた
君の名前はアズだよ、そう彼の手を握り言い続けた
数日経つと完全に右腕の怪我は完治し、紋章がはっきりの確認出来た
何かと…ヴァンパイア…?
スズキ
右腕には変な紋章が刻まれている
ホルスとヴァンパイア、診察表らしき紙にそう書き綴られている
太陽神の力を今まで扱えた者は少なく、必ず研究者はホルスとしての力を眠らせるようにと伝えられるらしい
ホルスには立派な狼の耳が生えているらしい
それも受け継いだようだ
カガリ
ホルスの子なんて初めて見た
そう関心していると、アズはパッとひとりでに走り出す
必死に追いかけ高い崖まで登る
恐る恐るアズに近づくとそれ以上近づくなとガードされる
ヴァンパイアの能力は自身の血液を自由に操り、敵の拘束などにも使える
相手の血を飲むと覚醒状態に陥る能力
崖の下には沢山の掬い手がそれぞれの道具を持ち、落ちようとするアズを何とかしようと待ち構えている
「ここは地獄だよ、死に損なってこんなDNAなんて勝手に組まれて、大抵の堕天児は死ぬ、だったら生き地獄より死んで地獄に行った方がマシだ」
初めて声を荒らげるアズに驚く
確かにここは考えようによっては地獄だ、それぞれが過去に背負っている事もきっと地獄だろう
それでも、ここにいる人は皆が皆お互いを助け合い、生きている
天国なんてないのに皆、アズを助けようと必死だ
大粒の雫を零して、静かにこちらに戻ってくる姿に安堵する
休憩する間もなく次の亀裂が現れる
アズに見させないようにとハンカチを渡そうとするともうそこにアズの姿はない
掬い手達は皆一斉に亀裂の側へと走る
アズはきっと一人で家屋へと戻ってくれているだろうと自身も網を持ち、掬い手の一人となる
今回はより沢山の堕天児が降ってくる、まるで皆、アズを求めるように
いつもより美しいその光景に見惚れてしまっていると一人の堕天児が右腕へと落下してくる
ぐちゃっと言う嫌な音と共に自身の右腕は地面へとあった
汚い紋章が露になる、気持ち悪い、そんな事を思うと無意識にそれを踏み潰す
落ちどころが悪かったのだろう、足まで潰れてしまった
もうこの身体は使い物にならない
床へと寝ては、落ちてくる堕天児を抱き抱えるように目を瞑った
アズ
今なら分かる、この悲惨さを
辺りは血にまみれ色んな臓物が溢れ出ている
一番凄いのはなんと言ってもこの匂いだ
血の匂いは慣れていると思ったが、全然違う
鉛臭い、鉄臭いこの匂い、一回だけ嗅いだことがある匂い
そうだ、父親から貰ったなけなしのお小遣いで好きなプラモデルを買いに行ったんだっけ
そこで急に気持ち悪くなって、公衆トイレに駆け込んで胃液で喉が焼けるまで吐いた、色んな人の糞尿の残り香と自身の汚物の匂いが混ざった時だ
足が竦む、吐き気がする、そんな気持ちを抑え、網を持ち立ち上がる
一歩、また一歩と踏み出し、少し考える
掬い手とは掬い手ではなく
────救い手だったのでは?
天国なんてあるかも分からないのに、落ちてくる堕天児を救い続ける
一人でも多くの堕天児に生きて欲しいから、自分がそうだったから
救いたい一心でやり続ける
僕は、俺は、網を持って走り出した
救えたその子と外の世界«街»へと行くために、能力がいつか人の役に立てるようにと
そして、一人のトモダチを探しに