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「へぇ、由美ちゃんは大塚フードウェイで働いてるんだ。大手だよね、すごいね」


「全然そんなことないですよ~!高橋さんはどんな仕事されてるんですか?」



私は隣に座るスーツを来た真面目そうな男性に笑顔で話しかけた。


今、私は合コンの真っ最中である。


この前サークル飲み会で利々香から誘われた例の合コンだ。


金曜日の夜に開催されたその合コンは、3対3で、女性は利々香と千賀子と私だ。


男性側は利々香が別の合コンで知り合った人が幹事らしく、その人が集めたらしい。


金曜日の夜とあって、男性側はみんなスーツ着用だ。


最初は男性と女性で別れて座っていたが、お酒が入って場が砕けてきて、今は男女ミックスする形で座って話している。


利々香はこの中では一番容姿が良い男性と、千賀子はスポーツマン風の男性とそれぞれ話している。


そして私は今回の男性側幹事の高橋さんと話していた。


「僕は公務員なんだ。都庁勤務」


「都庁ですか。私も職場が新宿なんで近いですねー!」


「そうなんだ。それにしても由美ちゃんは話しやすいね。僕は初対面の人は結構緊張するんだけど」


「そうですか?でもそう言って頂けて良かったです!」


誰とでも割とすぐ仲良く話せるのは私の特技だ。


高橋さんとも普通に楽しく会話できているけど、今のところ特段惹かれるものはない。


(というか、いつもこんな感じ。男の人とも普通に仲良くできるけど、そこから好きになる感覚が分からないんだよね~)



「由美ちゃんは好きなこととか、ハマってることとかってある?」


そう高橋さんから聞かれて、急に私のボルテージがグンと上がった。


高橋さんは人の良さそうな笑顔でニコニコと私の答えを待っている。


(こんな人の良さそうな人なら、私の推しについても理解を示してくれるかも!)


これは私の推しについて語るべき場面だと、私の本能が告げていた。


「私、推しがいるんですよ!」


「‥‥推し?」


「はい!」


「それはアイドルとか、俳優とかそういうのかな?」


「いえ、私の推しは会社の先輩なんですー!女性の先輩で、それはそれはものすごく美しくて、もう女神なんですよ!しかも見た目の美しさだけじゃなくって、仕事もできるし、仕事への姿勢も真摯で素敵で!近くで一緒に仕事してるだけでも、もう本当に幸せなんですーー!目の保養で、心の栄養なんですーー!!」


この私の推しへの想いをぜひ聞いてほしくって、私は存分に語った。


高橋さんは、ニコニコしていたのに、私が語り出すと目が点になり、だんだんと困惑する顔になってきて、最後には呆れるような顔つきに変化していった。


「高橋さん?」


「‥‥ええーと、なんていうか、すごいね」


「すごいでしょー!もう本当にすごい人なんだから!あの透き通る白い肌、スラリと伸びた手足、憂いを帯びた瞳。この世に女神が舞い降りた~って感じなんですよ!!」


「‥‥」


「高橋さんにも推しっています?私の気持ち分かります??」


「‥‥あの、由美ちゃんは女性が好きなの?」


「え?恋愛対象って意味なら男性ですよ。でも推しは別です!あんな女神を崇めずにはいられません!!」


「‥‥」


高橋さんの口数が極端に減ってしまった。


すると、近くで私たちの様子を見ていたのであろう利々香が割って入ってくる。


「ごめんね~高橋さん!由美ったら、推しの話になるとつい熱くなっちゃうのよね。由美、あんまり高橋さんを困らせちゃダメよ」


「いや、なんていうかビックリして。由美ちゃんのテンションの変わり具合がすごくて‥‥ははは…‥」


(あぁ、これって引かれてる?やっぱり高橋さんも理解してくれなかったかぁ)


高橋さんは完全に私を変わり者認定した目で見据えている。


やっぱり私が会社の同性の先輩を推しと崇めて、熱く語るのはおかしいのだろうか。


その後の合コンは、当たり障りなく会話をして、22時前にはお開きとなった。


今日の私の感想はというと、「どこかに私の推しの話にのってくれる人いないのかな~」だった。


お開きになった合コンの後、利々香と千賀子と私は反省会と称してもう一軒飲みに行くことになった。


私たちが入ったお店は、大通りを一本折れて細い小道を少し進んだところにある、オシャレなダイニングバーだ。


以前、百合さんから聞いて行ってみたいと思っていたお店だったのだが、ちょうど今日の合コンのお店から近かったので、向かうことにした。


知る人ぞ知るオシャレな隠れ家のような外観の素敵なお店だった。



「いらっしゃいませ」


お店のドアを開けると、肩幅の広いがたいの良い男性が出迎えてくれた。


私たちはテーブル席へと案内され、それぞれお酒をオーダーする。


店内は落ち着いたBGMが流れていて居心地の良い空間が広がっている。



「とっても雰囲気のいいお店ね」


利々香が辺りを見回しながらつぶやく。


金曜日の夜とあって、店内はお客さんも多くて賑やかだった。



「由美、よくこんなお店知ってたわね」


「ふふ~ん!私の推しがオススメしてくれたお店なのよん!私の推しはセンスあるでしょーー??」


「また推しの話しか」


利々香も千賀子も呆れ気味だ。


「由美、合コンでもこの調子だったじゃない。少しは控えなさいよー」


利々香が非難めいた口調で私を見やる。


自身にも推しがいる千賀子がそれに同意を示しながら口を開いた。


「それには同意かな。私も追っかけするくらいの推しがいるけど、初対面の人には話さないようにしてるしね」


「えーー。でも自分の好きなものを理解してもらいたくない?語りたいよ~」


「それは仲良くなってからでもいいじゃない」


「こういう推しを語る私も私だから、最初からそういう私を認めてもらった上で仲良くなりたいけどなぁ~」


推しがいるという部分は同じだけど、千賀子と私とでは考え方が違うようだった。



「ところで利々香は私たちとここに来て良かったの?あの人といい感じだったんじゃないの?」


千賀子が利々香に話を振りながら話題を切り替えた。


確かに、あのイケメンと利々香はなかなかいい感じの雰囲気だった。


「顔もタイプだったしいいなーと最初は思ってたんだけど、話してると何かすっごいナルシストだったんだよね。しょっちゅう鏡で自分のことチェックしててさ。ないわって思っちゃった」


「あー。それは嫌かもね」


「千賀子は?あのスポーツマン風の彼、どうだったの?」


「う~ん、筋トレの話ばっかりで、アイドルとかに理解なさそうだったからなしかな。私がアイドル追っかけてるとか理解してくれないタイプそうだから」


「由美は推しの話で引かれてたしね」


「「「はぁ‥‥」」」


そこで3人ともため息が漏れた。


私は合コンで彼氏作ろうとは全然思ってなかったし期待なんてしてなかったけど、あぁも推しについて理解されないとため息も吐きたくなる。


私たちは三者三様の想いで、肩を落としたのだった。


その後はお酒を飲みつつ、今日のことをああでもないこうでもないと話し合っていると、気付けば23時となっていた。


「あ、もうこんな時間!私は明日仕事だからそろそろ帰らなきゃ」


アパレル店員の利々香は土曜日も仕事だ。


急いで電車の時間をスマホのアプリで確認している。


「私も帰る。今日この後、推しが出演してるテレビ番組があるからリアタイで見たいんだよね」


千賀子も帰るようだ。


私は明日予定もないし、なんとなくもう少し飲みたい気分だったから、このままこのお店で1人飲みをすることにした。


2人が自分の飲んだ分のお金を残してお店を出ると、私はテーブル席からカウンター席へ移動する。


金曜日の夜で混んでいることもあり、1人でテーブル席を占領するのは気が引けたのだ。


カウンターに座ると、新しくお酒を注文して、飲み直し始めた。



注文した赤ワインをグイグイ飲む。


「すごい勢いで飲むねぇ。何か嫌なことでもあった?」


私が1人で飲んでいると、カウンターにいたお店の人が話しかけてきた。


店内に入った時に出迎えてくれた男性で、どうやらこのお店の店長さんのようだ。


30代半ばくらいのがたいの良い店長で、気さくな感じの人だった。


「店長さんは推しっています?」


「推し?あれか、好きなアイドルとかアニメキャラとかのことだっけ?」


「まぁそうですね、一般的には」


「そうだな~。特にこれといった推しはいないかな。蒼太くんはどう?推しとかっている?」


店長さんは顎に手を当てて思案するように少し考えた後、私と同じようにカウンターで飲んでいた男性に話を振った。


店長さんの視線を追って私もそちらを向くと、私の座る席から2席離れたカウンターに1人の男性が座っていた。


急に話を振られ男性は一瞬ビクッと身体を震わせ、顔を上げる。


その顔を見て、私は心の中で「おっ!イケメン!」と思わずつぶやいていた。


横顔を見ただけでも整った顔立ちが分かったのだ。


「推し?」


話を振られた男性は、首を傾げている。


名前を呼ばれるくらいだから、この人は店長さんとおそらく知り合いなのだろう。


「そう。こちらのお客さんと話してて、何か嫌なことあったのか聞いたら、推しがいるかって聞かれてさ」


男性にそう話ながら、店長さんが私を見やった。


それを聞いて男性が私へと視線を移す。


顔がこちらに向いて目が合った。


(わぁ~すっごい!やっぱり正面から見てもイケメンだ!)


蒼太と呼ばれたその男性は、鼻筋の通った整った顔立ちをしていて、どこか可愛いさがある、甘いマスクのイケメンだった。


私と同じ歳くらいの20代半ばくらいに見える。


「俺は特に推しはいないけど。てか、嫌なことと推しがどう関係してるの?よく意味が分からないけど」


「そう、それだな。俺もよく分からん」


その男性は、アッサリ推しはいないと答えると、逆に私に質問してきた。


店長さんもそれに同意している。



「え、聞いてくれますー!?あのですね、私には推しがいるんですけど、その話をするとみんな呆れちゃうんですよ。全然分かってくれなくって!今日も合コンだったんですけどね、私が推しの話したら、最初はニコニコしてたくせに最後には引かれちゃったんですよ!もう悲しくって!私はただ私の大好きな推しについて語りたいだけなのに!」


私は吐き出すように今日の出来事を話し出す。


2人は私の勢いにやや驚きつつも、口を挟まずに聞いてくれていた。



「なるほど。それでさっきあんなやけ酒のようにワイン飲んでたのか。ちなみに、お客さんのその推しってのはどんななの?」


店長さんは納得するように頷くと、今度は私に推しについて尋ねてきた。


カウンターのイケメンも興味があるような様子だった。


「聞いてくれます?私の推しはですね、私の会社の先輩なんです。女性の先輩で、それはそれはものすごく美しくて、もう女神なんですよ!しかも見た目の美しさだけじゃなくって、仕事もできるし、仕事への姿勢も真摯で素敵で!近くで一緒に仕事してるだけでも、もう本当に幸せなんですーー!目の保養で、心の栄養なんですーー!!」



私はさっきの合コンで高橋さんに語ったことと全く同じことを全く同じテンションで話した。


それは水を得た魚のような語りっぷりだった。


さっき利々香と千賀子には初対面の人には控えろと言われたばかりだったのだけど、「そんなもん知るもんか!」という感じだ。



店長さんとイケメンはまたしても私の勢いにやや圧倒されているようだった。


「なんかすごいねぇ。お客さんがその方を崇拝してるのは何か伝わってきたよ」


店長さんはやや口を引き攣らせつつも、大人な対応だ。


きっとあのイケメンは引いてるだろうな~と思って見てみると、意外にも彼は私を興味深そうに眺めていた。


さらに私に質問までしてきた。


「それってその女性の先輩を恋愛として好きなの?」


「それ毎回聞かれるんですけど、恋愛対象じゃないですよ!あのですね、本当に素敵な人なんです。あの透き通る白い肌、スラリと伸びた手足、憂いを帯びた瞳。この世に女神が舞い降りた~って感じなんですよ!!推しとして崇めずにはいられないんです!!」


「なるほど」


「イケメンさんはさっき推しはいないって言ってましたけど、もしかして私の気持ち分かってくれます!?」


「イケメンさんって!ははっ」


本人から名前を聞いたわけでもないし、店長さんが呼んでた名前で呼びかけるのははばかられて、私はイケメンさんと呼んだら、思いっきり笑われた。


笑うとくしゃっとなる顔は、さらに可愛さが増している。


でも子供っぽくないのは、前髪を少しかき上げておでこを出した大人っぽいヘアスタイルのおかげなのかもしれない。


「お客さんは何か明るくて元気でいいねぇ。若さがある!蒼太くんと同い年くらいかな?あ、こちらの男性は蒼太くんね。うちの常連さんなんだよ」


私たちのやりとりを見ていた店長さんが、イケメンを紹介してくれた。


(なるほど常連さんなのか。どうりで名前を知ってるし、こんなふうに話を振ったりするわけだ)


「お客さんの名前は何て言うの?」


「由美です」


「由美ちゃんね。蒼太くんを見たまんまイケメンさんって呼ぶなんて面白いね」


店長さんも面白そうに声を出して笑っている。


ちょうどテーブル席のお客さんから呼ばれ、笑ったままカウンターを出て行った。


店長さんを介して話していた私と蒼太くんはなんとなくそのまま会話を続ける。


「よく1人で飲みに来るんですか?」


「まぁここの店にはね。今日は飲みたい気分だったし」


「おっ!私だけでなく、蒼太くんも何かあったんですね!私があんだけぶっちゃけたんだから話してくださいよー!」


「別に大した事じゃないけど。ただ、彼女と別れただけ。振られたんだよね~」


カラッとした声でなんでもないように話すから一瞬ビックリした。


「えっ!?そんな何でもないことのように話してるけど、そんなことないでしょ!私より愚痴りたい気分なんじゃないですか!?」


なんだか私がワァワァ騒いでいたのが恥ずかしくなる。


この人どんな気分で私の話を聞いていたのだろうか。


「いや、何か由美ちゃんの話を聞いてたら気分がまぎれた。てか、あんなに推しに一生懸命になれるの何かいいよね~。俺もそんな情熱が欲しいかも」


「なんと!マジですか!!」



まさか私の推し語りを聞いて、こんな感想をもつ人がいるとは驚いた。


こんなことを言われるのは初めてだった。


「じゃあもっと聞いてくれます?私の推しね、入社以来直属の先輩なんですけど、あの麗しい外見でありながら仕事もすごく出来て、教え方も上手いし、親切丁寧だし、気配りも抜群で。本当に女神なのですよー!」


「へぇ、すごい人だね。ってか、何か俺の姉を思い出すわ」


「お姉さん?」


「そう。別にそんな完璧な人じゃないけど、よく俺の友達とかから女神って言われてたな~って。紹介してくれってしょっちゅう言われんだよねぇ。‥‥で、彼女と別れた原因も姉だったりするし」


「え?別れた原因がお姉さん??」


最後にポツリとつぶやくように蒼太くんが漏らした言葉に思わず反応してしまった。


蒼太くんは言うつもりはなかったのか、ちょっとバツの悪そうな顔をしている。


「お姉さんに邪魔されたとか!?」


「いやいや、そうじゃないよ。ただ、元カノにシスコンだからついていけないって言われただけ」


「シスコン?」


「なんか毎回彼女にそう言って振られんだよね~。別にシスコンじゃないんだけど。マジで謎」



蒼太くんは心底不思議そうな表情だ。


毎回そう言われるということは、本人に自覚がないだけでなんかあるのだろう。



「何か思い当たる節はないの?」


「えー?まぁ普通に仲は良いよ。よく食事にも行くし、電話とかもするし?それくらいだけど」


「彼女よりお姉さんとの約束を優先したりとか?」


「あぁ、それはあったかも」


「それだ!絶対そう!私も推しとの約束を友達より優先して、友達からブーブー言われることあるもん。それが恋人だったら余計にでしょ!」


「なるほど」


何か心当たりがあったらしく、蒼太くんは過去を思い出しながら頷いている。



「てか、友達より推しとの約束を優先すんの?」


「もちろん!推しとの至福の時間を逃す私ではないのですよ!!」


「ははっ。ぶっ飛んでて面白いなぁ~」


こんなふうに笑い飛ばしてくれる人もいるんだ~と蒼太くんの反応はいちいち新鮮に感じる。


イケメンだけど近寄り難い感じはなく、むしろフランクで話しやすかった。


私たちはその後も、お酒をお代わりしながら、カウンターの席もいつの間にか隣に移動してひたすら話していた。


私の推し賛美を彼は否定しないし、私は気持ち良くなって語りまくっていた気がする。


蒼太くんは他愛もない話をしながら笑っていたように思う。




「気がする」「思う」と私が言っているのは、なぜなら記憶が曖昧だから。


気持ちよく飲み過ぎた私は、酔っ払ったのだ。


翌朝、とんでもない所で目を覚まして顔面蒼白することになるのであるーー。

初恋〜推しの弟を好きになったみたいです〜

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