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🤕と一緒に自殺する話 。
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『 ⋯ どぉしたのそれ 。 』
ふと後ろから懐かしいような、聞き慣れた声が聞こえてくる。でも不思議、何も怖くない。
「 今から自殺するんです。⋯太宰さんは止めないで下さいね。 」
ふわりと微笑み乍貴方、__元彼の太宰治にそう告げる。多分、彼が聞きたい事は腕の事だろう。自分の腕には常人が見れば気持ち悪いなんて思う程の夥しい数の古傷と先程切ったばかりで細い傷口から鮮血が溢れている新しい傷で埋め尽くされていた。
『 ⋯何でこんな事したの ? 』
「 太宰さんには関係無いよ。 」
淡々とした会話を唖然としている彼とする。⋯何故不法侵入しているのかと問い質したくもなったがそんな気力も無いから辞めておいた。
⋯次第に視界がぐにゃりと歪む。貧血もあるのだろうが先程飲んだ薬が回ってきたのだろう。多幸福感と、宙に浮いてる気分で時間が経つにつれ焦点がズレていく。こんなので幸せを感じる様になったのは何時だっけ ? ⋯まぁそんな事どうでもいいか 、
…ふと 、 後ろから暖かいものが覆い被さっているのに気付いた。1寸理解が追い付かず、ぼぅ、としていたが其れがなんなのか漸く気付いたのは数分後。彼が己を力強く後ろから抱き締めていたのだ。腕へと目線を落とすと手当もされていた。何故こんなに優しくするのだろうか、そう考えると不思議で仕方がない。
「 ⋯後ちょっとで死ねたかもしれないのに、太宰さんって酷い。 」
『 当たり前でしょ、放っておけない。 』
自殺願望の彼に真逆そんな言葉が出てくるとは思わなかった。反論しようとするが、其れも喉の奥でつっかえて言葉を発せれない。只々己を抱き締める彼の久し振りの暖かい体温と寝かし付ける様な一定のリズムを刻む鼓動で思わず眠いような、夢心地の気分になる。
「 …酷いよ。私の気持ちも知らないで捨てた癖に、こういう時だけ優しくするんだね。 」
『 …ごめんね、今度は置いて行ったりしない。 』
今更何を云ってるの?愛してる、可愛いだなんて嘘の言葉を呟いて、私の事を弄んで要らなくなったら捨てた癖に。それでも貴方のその瞳に酔いしてれしまう。震える声でほんとに?、そう聞き返してしまう。また捨てられるかもしれないのに。
『 嗚呼、本当だよ。 ⋯このまま死にたいのなら、自殺では無く私と心中しませんか。 』
昔良く言われていた言葉。何時もお巫山戯で云ってるはず、それでも今の声色は落ち着いていて、残酷なくらい優しかった。嗚呼、此人は本当に狡い。最後が私で良いのだろうか。
「 ⋯私の事放置した分、ちゃんと責任取ってよね。 」
『 嗚呼、分かってるよ。 』
貴方に姫抱きされれば先程迄使っていた剃刀を手に服を着たまま、自傷をした後に入ろうと思っていた暖かい湯船に浸かる。じんわりとした暖かさが血を失い貧血で冷えていた身体を温めてくれる。その時、彼が優しく頬を硝子細工を扱うかのように撫でる。その掌に縋るように擦り寄る。
『 本当にいいの? 』
『 ⋯うん。 』
剃刀を持った彼が最後の確認と言いたげに問う。勿論その答えは決まっていて。こくんと頷けば彼は彼自身の腕に剃刀を宛てがい、太い血管のある箇所をゆっくりと切る。そしてそのついでと言いたげに私の腕にある、今まで避けて切っていた太い血管の箇所を彼は躊躇無く切る。痛くはなかった、でもどうしようも無い不安感が押し寄せて来る。⋯それを察したのかぎゅ、と力強く私より一回り大きい手で恋人繋ぎをしてくれる。
『 ふふ、之で漸く死ねるね。 』
「 ⋯うん、有難う。一緒に死んでくれて。 」
『 お安い御用さ 』
恋人繋ぎをした手をちゃぽんと暖かいお湯の中へと入れる。嫌いなはずの彼と心中する事になるとは思わなかった。でも誰も居ない空間で、貴方と2人きりで死ねるのは随分と心地が善い。次第に紅く染まっていくお湯を朦朧とする意識の中見詰めては、最後の力を振り絞り、ぽつりと呟いた。
「 愛してたよ。⋯この世で何よりも。 先に待ってるからね 」
『 ⋯嗚呼 、私もだよ。すぐにそっちに行くから待っててね。 』
ずっと嫌いだった彼。それでも彼の事をずっと愛してた。貴方に酔っていたんだよ