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チャイムが鳴って、教室中にホッとした空気が広がった。
初日だから6時間目はなし。
緊張と疲れが混じった笑顔があちこちに
浮かんでいた。
「ふぅ~……やっと終わったぁ」
LANが伸びをしながら言うと、
みことが笑った。
「ほんと、今日いろんなことあったね」
「なあ、帰りどうすんの?」といるまが
声を上げた。
机を片付けながら、こさめやすちたちも
耳を傾ける。
「俺、自転車」
LANが軽く手を挙げると、
こさめが 「似合う~!なんからんくん
ぽい」と笑う。
「似合うとかあるか?」「うん」
「ありがと。でもまだ道わかんないから、
たぶん途中で迷う」
「まぁ自転車はしょうがないよ」
「俺は電車だけどいる?」
いるまが言うと、なつが「え、俺も」
「まじ?俺んとこ、あの線」
「俺もそれ。同じ方面か」
「まじか、運命だな」
「ぇ、//そーだな」
軽く笑い合う二人にLANが
「男子って仲良くなるの早っ」と
呆れたように笑う。
「俺も電車だけど、行き先が違うみたい」
すちが穏やかに言うと、みことが
「そっか。途中まで一緒とかでもないの?」と尋ねる。
「んー、ちょっと違うかな。でもまた駅で
会えるかもね」
その笑顔にこさめが一瞬だけ見惚れて、
慌てて目を逸らした。
「俺はバス!」その言葉を聞いてこさめが
「え!こさめも!」
「ほんま?! どこ行き」
「あの行き先」
「じゃあ、一緒や」
みことが嬉しそうに言うと、
「あの〜…あそこで降りる」
「そんなに離れてないわ!」
「じゃあ明日一緒に登校してみない、?」
「いいよ!」
二人の笑顔がまぶしくて、LANが
「青春だなぁ~」とからかい気味に言う。
カバンを肩にかけながら、こさめはふと
廊下の窓の外を見た。
春の光が傾きはじめて、校庭の影が長く
伸びている。
たった一日だけど、もうこの教室が
少しだけ“居場所”になってる気がした。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
通学路がバラバラなため校門で別れる。
途中まですちも一緒だったが別れて
電車が来るまでのあの独特の静けさの 中で、いるまと暇なつが並んで立っていた。
「……、同じだとは思わなかったわ」
いるまが腕を組みながら、
ぽつりと口を 開く。
「うん、まぁ……」
なつが少し照れくさそうに答えた。
「マジで。……てか、お前、最初
全然しゃべんなかったよな?」
「うるせ。緊張してたんだよ」
「ふーん、意外。もっとガンガン
話しかけてくるタイプかと思ってた」
いるまのからかい混じりの声に、
なつは苦笑して肩をすくめる。
「なんで俺に話しかけてくれたの?」
「窓の外見てつまんなそうにしてたから」
「……見てたっけ?」
「見てた。話しかけんなオーラ
出てたけど」
「ははっ、バレてたか」
二人の間に少しだけ笑いが生まれる。
その瞬間、電車がホームに滑り込む音が
して、風が二人の制服をふわっと
揺らした。
ドアが開き、二人は並んで座る。
車内の中はまだ空いていて、
どこか落ち着かない沈黙。
いるまがポケットからスマホを
取り出して、ちらっとなつに見せる。
「…“ブラサガ”、やってんだろ?」
なつが一瞬驚いた顔をして、次の瞬間には
ニッと笑った。
「昨日も深夜までやってた」
「やべぇ、わかる。時間忘れるやつ」
さっきまで気まずかった空気が、
一気に消えた。
「どこまで進めた?」
「三章のボス、氷竜倒したとこ」
「マジ!? あそこ強いだろ」
「寝れなかったわ」
電車の揺れと一緒に、二人の会話も
弾んでいく。
ホームを出る頃には、もう初対面の
ぎこちなさなんてどこにもなかった。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
一方バスの車内。
がらんとした車内に、二人の制服姿が
並んでいた。
カーテン越しに差し込む夕陽が、
こさめの髪を透かして淡い色に光る。
最初はぽつぽつとした会話だった。
けれど途中でこさめが、少しだけ首を
傾げながら尋ねた。
「みことくんって…彼女いる?」
唐突な質問に、みことは盛大にむせた。
「うぇ!?! いないよっ、// 」
「ほんま!?めっちゃいそうなんだけど」
「そ、そうかな〜?」
「うん、優しいし可愛いし。
絶対モテるよ」
「そ、そんなことないってば……」
みことが照れ隠しに笑うと、
こさめは頬杖をついて外を眺めながら、
ぽつりと続けた。
「みことくん、1つ聞いていい?」
「ん?なーに?」
「どうやったら…すちくんに、あんな笑顔
こさめにも見せてくれると思う?」
みことは一瞬、言葉を失った。
「! え、なんで俺に…?」
「だって、みことくんと話してる
すちくん、すっごい笑顔なんだもん」
「そ、そうかな……?」
みことの耳が少し赤くなる。
「入学早々、すちくんのこと好きなの?
こさめちゃんは?」
「ち、違うけど……」
こさめは唇を尖らせながら、
座席の端を 指でなぞる。
「こさめ、みんなに見てもらうために
努力してるのに、すちくんだけ
見てくれないんだもん」
みことは少し考えてから、
やわらかく笑った。
「うーん、やっぱり入学早々だし、
まだそんなに信用できないん
じゃないかな」
「そう思ったけどね……」
こさめは膝の上で手を組みながら、
小さく息を吐く。
「でも長年人間観察してきたこさめから
すると……やっぱり、すちくんはこさめの
こと避けてるように思った!」
みことはその真っすぐな目に、少し驚いたように瞬きをした。
「ん〜……そうかな。俺から見ると、
そうは見えないけどな。
でも、徐々にアピールしてったほうが
いいんじゃない?」
「やっぱ、そうなのかぁ……」
こさめはぱっと笑顔を取り戻し、
鞄を抱え直した。
「ありがとね、みことくん!」
満面の笑みで微笑むとみことが照れて
「うぇ、// ……まぁ、こさめちゃん
頑張って!」
その瞬間、バスが停まり、こさめが
降りる駅名がアナウンスされる。
「じゃあ、また明日ね!」
「うん、また明日!」
夕陽に照らされたこさめの笑顔が、
窓越しに小さく遠ざかっていった。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
バスを降りて、柔らかな夕焼けの風が
頬をなでた。
街路樹の影が長く伸びて、遠くで子どもの
笑い声がする。
「はぁ……」
制服のネクタイをゆるめながら、
こさめはポツリと息を漏らす。
さっきまでの笑顔はどこにもない。
あざとさの抜けたその横顔は、
少し疲れて、でも正直だった。
「……かわいこぶって、バカみたい」
小さく笑って、肩を落とす。
“俺”の声は低く、少しかすれていた。
「すちくん、ほんとに俺のこと
嫌いなのかな」
「みことくんの前では、あんなに
笑うくせに 初対面なのにさ…」
信号待ちの間、反射した夕陽が瞳に映る。
自分でもわかっている。
「見てほしい」って気持ちが、もうただの
好奇心じゃないこと。
「……まぁ、いいけど」
口ではそう言いながらも、心の奥では
苦く笑う。
「明日は、ちゃんと“こさめ”でいこ。
すちくんが見てくれるまで、何度でも」
鞄を背負い直して、歩き出す。
人通りの少ない道に、制服の裾がかすかに
揺れた。
その背中には、“可愛い”を演じる決意と、
本当の“自分”の寂しさが静かに並んでいた。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐