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「魔法……ですか?」
「リズも見て。あそこに黄色く光ってる紙みたいな物があるでしょう。あの光が魔法を使う時に出てくる光に似てるなって」
私は白、レオンなら瑠璃色。今は見れないけどルーイ様は緑色の光だった。光の色は魔力の強さや性質で個々に違うらしい。
「黄色に光る紙……それ、どこかで。光る、紙。魔法の光……黄色の……あっ!!」
「リズ、何か分かったの?」
紙を見たリズは考え込むように俯いた後、思い当たることでもあったのか大きく声を上げた。
「い、いえ……違っ、そういうわけでは。魔法と聞いて驚いてしまって。じゃあ、私達を襲っているあの化け物は魔法の力で動いているのでしょうか」
「まだ分からない……だとしても、あんな魔法見たことないよ」
魔法使いそのものを私は数人しか見たことがないからなぁ。1番身近にいるレオンがよく使うのは雷の魔法だ。確か水も操ることができるって言ってた。私やレオンが持つ力は、メーアレクト様に由来するものだ。あの白い紙が纏っている力は、それとは別の……上手く言えないけど、私やレオンの物とは違う感じがする。
「ここにルーイ様がいたら教えて貰えたのに」
「ルーイ様って、殿下の魔法の先生なんですよね……」
「うん。私にも色々教えてくれたよ」
ルーイ様ならきっと、どうしたらいいか知っている。しかし、今この場にあの神様はいないのだ。嘆いていても仕方がない。
レナードさんとルイスさんが頑張って戦ってくれている。ふたりは強い……少女達と力の差は歴然だ。けれど、あの少女が作り出した分身達は、何度倒しても元に戻ってしまってキリが無い。あの再生するのをどうにかできないだろうか。
光り輝く1枚の紙と、崩れ落ちる体。水飴のようにどろどろになったそれが、再び一箇所に集まっていく――
「あれ……」
「クレハ様、また化け物が復活してしまいます。奥の部屋に隠れていましょう」
散らばった体が、全てあの白い紙の元に集まっている……? 紙が気になって眺めていたら気付いた。適当に繋がろうとしているのではなく、どんなに小さくて離れた所に飛び散った部位も一つ一つ……まるで、紙に呼び寄せられているかのようだった。
やっぱり……あの紙が少女の分身を動かしている力の大元(おおもと)だ。黄色い服の少女が魔法使いなのかな。あの少女も人間とは思えないけれど。まだまだ分からないことが多過ぎる。でも、あの紙を……あれさえどうにかしてしまえば、分身だけでも大人しくさせることができるかも。
「どうかなさいました? クレハ様」
「リズ、もしかしたら……少女の分身を倒せるかもしれないよ」
外からは見えないように窓ガラスの正面は避け、その横の壁に背中を張り付けてこっそりと……分身達の体が再生していく様子を観察した。結果は思った通りだった。分身の体内には、あの白い紙が1枚ずつ入っている。分身達を動かして壊れた体を再生させているのは、あの紙に宿っている力に違いない。そして、大雑把だけど分身一体が再び人型の姿に戻るのにかかる時間も分かった。
「クレハ様の仰った通りですね。バラバラになった体は、あの白い紙の方へ集まっていきます」
「あの紙を燃やすとかしてしまえば、体を元に戻せなくなるんじゃないかな」
幸いなことに、この釣り小屋には調理室がある。火を起こす道具は揃っているのだ。さっき包丁を探している時にロウソクも見つけた。
「試してみる価値あるよね」
私とリズは顔を見合わせ、互いに頷いた。
「クレハ様! 私がやりますから、どうか小屋の中で待っていて下さい」
「言い出したのは私なんだから、私がやるよ。リズは見張っていてね」
調理室で火を起こしてロウソクに移し、それを風避けの付いた燭台にセットする。準備を終えると、私達は早速作戦を実行しようとした。
分身が体を完全に再生させるのにかかる時間は、おおよそ1分弱……。その間に紙を探して火で燃やすという単純なものだ。しかし、私がそれをやると言ったらリズは絶対に駄目だと譲らない。
「あのドロドロした状態でも接近したら化け物は襲ってくるかもしれません。クレハ様の身に何かあったら……紙を燃やすのはリズがやります」
「私の方がリズよりも足が速いよ。最近はトレーニングもしてるから自信ある」
リズを説得するために足の速さを主張したけど、バルコニーは窓を開けてすぐそこなので、足の速さはあまり関係無いだろう。猶予は1分程度しかないので、手際の良さは大事だけど。
「でしたら、ルイスさんにこの事を直接伝えましょう。私たちがやるよりずっといいです」
「それはそうなんだけど……」
ルイスさんは今、多数の分身達を相手に戦っている。あの紙を燃やしたら、分身を倒せるなんて……そんな確証は無い。不確定な情報を伝えるために、彼の戦闘を妨害してしまうことにならないだろうか。伝えるなら確実に倒せると分かってからだ。
何もしていない自分がそれを確かめるくらいしたっていいじゃないか。少しでもふたりの役に立ちたかった。リズに自分の考えを伝えると、彼女は首を横に振った。
「クレハ様……お気持ちは分かりますが、ルイスさんもレナードさんもクレハ様が自ら進んで危険な行いをするのを喜ぶはずがありません。例えそれが、化け物の弱点を探るためだったとしてもです」
彼らの役に立ちたいと思うのなら……言いつけをしっかり守り、身を隠していることだとリズは言う。……リズは正しい。隠れていろと言われたのに勝手な事をして、それで怪我でもしたら役に立つどころか本末転倒である。正論を言われてぐうの音も出ない。
「分かった……でも、それなら私だけじゃなくてリズだって駄目だからね。私の代わりに危ない事しようとしないで」
「はい……」
私の手を握り締めながらリズは涙声で頷いた。そんな彼女を見て、自分の軽はずみな発言を反省した。
でも、せっかく少女の分身達を完全に倒せるかもしれない方法を見つけたのだ。それを試さないのもなぁ……この膠着状態から抜け出せるかもしれないのに。
「下からルイスさんへ呼びかけてみましょう。声は届くはずですから」
自分達で実行するのは諦め、ルイスさんに判断してもらうことにした。話を聞いた上で彼がどうするかは分からない。事態が良い方向に動きますようにと、私は強く願った。