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砂利のような感触だけが口の中を襲う。その不快感に思わず咀嚼物を吐き出してしまう。近くにあったコーヒーを飲んでも風味すら感じることはない。思考が焦燥と恐怖に苛まれ微睡んでいく。
味覚と嗅覚が消え去ったあの日から五年後、俺はある香料開発企業のエントランスに立っていた。
2XXX年、日本で新型ウイルスが発見された。そのウイルスは非常に感染力が強く、感染経路も莫大であったため全世界に瞬く間に伝染し、日本での発見から約半年でWHOがパンデミックを宣言。その半年後には全人類の感染が認められることとなった。未だ謎の多いこのウイルスについて唯一分かっていることは「永久的な味覚と嗅覚の喪失」。ウイルスから放出されるステロイド系ホルモンが個人の持つ特定の細胞の受容体に結合して前述の症状を引き起こすと言われている。その性質上ウイルスに感染していても症状が出ない人々が80%存在し、味覚・嗅覚の喪失者ー通称「フォーク」が20%との推計データが出ている…はずだった。無症候の人々の中に、フォークが唯一味を感じることのできる「ケーキ」が5%程度存在することが世界中で多発したカニバリズム事件によって明らかになった。これを受け、各国はケーキの保護とフォークの欲求を満たすため人工的にケーキの香りを再現するプロジェクトを立ち上げ、研究に乗り出した…。