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最高すぎるこの話に続きが出るかもしれない可能性があるってとこが嬉しすぎる
キングが体を売る表現があります。未婚前提です。続きものにしたいなとは思ってます。
真っ暗な部屋の鏡の前に立つ。ゆらりと揺れる髪が多少の光を反射させた。
映っている自分の目の下にくっきりとついている跡。それは日に日に濃くなっていく。でもどうしようもない。だから俺はそれから目を逸らした。
目を閉じるといつも声が聞こえる。
それは繰り返し俺を責め立てる。その声に居ても立ってもいられなくなって、目はすっかり覚めていた。だからまた少量の酒を胃に流し込む。喉に通る熱さ。そんなことをしたって何も変わらないのに。
ふと家を出た。まだ空は真っ暗で街灯のみが足元を照らしていた。ずっずっ、と足を引きずるように歩く。ぽつんと置かれている小石が目に入った。コツンと足でつく。少し転がった小石を追う。そしてさっきより強く蹴る。
そうして歩いているうちに石は何処かへ消えてしまった。塀、木、公園、コンビニ、踏切、飲み屋。とどまることなく景色は変わっていった。明るさもましていた。
顔を上げるとホテル街だった。また前へ進む。壁に体を預けた。そしてホテルや行き交う人に目をやる。ある程度見渡してからスマホを取り出した。メールを見て、閉じる。ラインを見て、閉じる。ついにはスマホごとポケットにしまった。また行き交う人に目をやる。
「――ねぇ、君そうだよね?」
「⋯⋯?」
気がつくと横に人が立っていた。少しくたびれたスーツを着て、脂汗を滴らせている中年男性。動けば手が当たってしまいそうだ。すっと身を引いた。
「ホ別イチゴでどう?」
「はぁ、?」
男性が何か言っている。地面に転がっている石を眺めながら、相槌を打つ。
気づけば腕をつかまれていた。誰もこちらを見ていない。
湿っている手の嫌なぬくもり、それを感じながら歩いた。
ゆっくりと目を開ける。起き上がろうとして腰を押さえた。ずきずきと鈍い痛みがする。思考をぐるぐる巡らせる。そうだ。俺は昨日男性に連れられて、そのまま春を散らした。ああ、でもそんなきれいなものでもない気がする。
数週間ぶりの冴えた感覚。腰の痛みを我慢し立ち上がる。部屋にあるもの一つ一つがはっきりと感じられた。
テーブルに何か置かれている。近寄って手に取る。それは数万円と薄いメモだった。男性の電話番号と下品な文章。このお金は俺の春を散らした代金で割り増しされている、らしい。
金をポケットに乱雑に突っ込んだ。
俺は夜になると、このホテル街に来るのが日課になった。前と同じ場所に立つ。またあの男性が買ってくれることもあったし、初めての人もいた。
ただ毎日買ってもらえるわけではない。そうなると俺はどうしようもなくて、家に帰るしかなかった。寝ることはできなかった。またあの声が俺を責めるから。ただ時計が動くのを見つめていた。
その日も誰かに買われるのを待っていた。前と同じ場所で、壁に体を預ける。行き場のない腕を組む。顔を上げると、ネオンサインやラブホテルが目に入った。
腕を組み解く。ポケットに手を入れ、探る。目当てのものを見つけた。箱を開け、ライターを取り出した。オイルの切れかかったライターをカチカチと押す。
カチ、カチ、カチ……。 つかない。
カチ、カチ、カチカチ⋯⋯
「――キング」
「⋯⋯」
思わず、後ずさろうとする。小さく、カツンっと足が当たる音がした。ライターを思わず落としそうになった。
「帰るぞ」
「なんだよ」
「お前がいると、お客さん近づいてこれないだろ」
「それとも買う?」
顔を上げ、ターボーの顔をじっと見つめた。あいつは何も言わず、近付いてくる。身を捩る。しかし手を掴まれてしまった。少し強く握られる。逃れようにも逃れられない。
「ターボー、離せって」
「いいから行くぞ」
ターボーは俺の手を引いて歩いていく。流れていくネオンを横目にどこか他人事のように考えていた。
「なんでターボーはあんなところいたんだ?」
「⋯⋯」
手を自分側に引いてみる。しかしそれも流されてしまった。
ターボーの足が止まった。顔を上げると、そこはターボーの家だった。ドアを開け、中にはいるよう促してくる。その間も手はがっしり掴まれたままだった。またそのままついていく。
やっとターボーが手を離してくれて、リビングで腰を下ろす。周りを見渡すと、黒基調の家具が多い。整っている。ただ、その中に雑に置かれた衣服の山があった。
ターボーはコップを持って戻ってきた。ホットコーヒーが入っている。無言で差し出されたそれを受け取った。
「いつもああ言う事してんのかよ」
「あーいうことって?売春?」
「⋯⋯」
「まあしてるよ」
ターボーの目が揺れる。一瞬顔を伏せたが、またこちらを見つめてきた。静かな部屋に俺がコーヒーを啜る音だけが響く。
「なんで……」
「寝れるから」
またターボーの目が大きく揺れた。
時計に目をやると3時近くを指していた。ここからホテル街に行ってもあまり期待はできないだろう。
衣服の山に目をやる。中には高そうなスーツもある。皺だらけだ。あの服は会見の時に着ていたもので、あっちは俺と飯に行った時のものか。
ターボーは少し息を詰まらせた後、口を開いた。
「じゃあ俺でいいだろ」
「はは」
「俺親友とヤる趣味はねぇわ」
またあいつは下を向いた。口元に手を当てている。
「……じゃあセフレは?」
「はあ?何も変わってないだろ、嫌だよ」
ターボーがこんなことに関わる必要はない。俺は思わず下を向いて口を閉ざした。
「セフレなら友達のままではいられるだろ」
「来たい時に来てくれればいいよ」
「⋯⋯」
「キング、お願いだから」