限界だったユリと、重病者たちを救ったのは、ヘリコプターでやってきた軍の医療チームだった。
庭園の一角に着陸したヘリから、数名の白衣の男が飛び降りて診療所に走った。続いて小型の医療用コンテナが次々に下ろされた。
ヘリはローターを止めることなく、荷をおろし終えるとすぐに離陸した。
続けざまに別のヘリが到着し、そこからは医療スタッフと共に、数名の将校も下りてきた。
そのうちの一人が、白衣姿で歩いていたタクヤにむかって走り寄ってきた。
「このたびは、ご無事で何よりです、タクヤ王子」
「自分?」とタクヤは自らを指さした。「自分は、まあ、おかげさまで」
「私は海軍特佐ラインです。さっそくですが、この庭園に医療施設と看護施設の仮設許可をいただきたく存じます」
「僕が、許可を?」
「はい。タクヤ王子直々の許可があれば、すぐに設置可能です」
「なに言ってるの? 許可っていうか、逆にこちらからお願いしますよ。みんな本当に大変なんだから」
「承知いたしました。あわせて、この非常時に鑑み、一般ヘリと、緊急車両の自由な立ち入りに際する城壁の一部破壊の許可も」
「もう、いいよ!」とタクヤは怒鳴った。「僕の許可が必要なことは、全部、許可したことにしていいから。細かいこと言っている場合じゃないんだって」
「申し訳ございません。突然なことに、法務の対応が遅れたこと、心からおわび申し上げます。只今から、全力の対応をさせていただくことを誓わせていただきます」
タクヤはますますイラッとした。
「あんた話長い。そんな態度だから遅れたんじゃないの?」
「いえ……」
「説明はいい。とにかく、来てくれてありがとう。さっそくヘリで重傷者を搬送できないかな。運ぶのは僕も手伝うから」
「タクヤ王子がそのようなことをなさらなくても……」
「あのさぁ」とタクヤは再び声を荒げた。「そんなこと言ってる場合じゃないんだって。頼むから、みんなでベストをつくそうよ。もう祈りに頼ってる場合じゃないんだ」
「わかりました。怪我人は?」
「そこ。診療所の中」
「では、急ぎましょう」
複数のヘリにより、重症患者と医薬品の輸送が始まった。
まもなく海から軍の輸送船も到着し、庭園の中に仮説診療所や、食事を供するテントなどが設置された。
午後も半ばになると、瓦礫が撤去された道から、ようやく緊急車両や工事作業車が入城してきた。
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