ナタリー様のいろいろ
商人の主人公が女王に謁見する話+ナタリー女王が今に至るまで
ナタリー・フォン・ブルーベール。今現段階で生きているものに、知らぬ者は居ないだろう。彼女はこの世界で唯一陥落していない、ブルーベール王国の女王。過去最高とも評される統治者。しかし彼女は王位についてから、元の温和な性格は塵ほどになり、高圧的な態度が目立つようになっている。もちろん彼女に庇護されているものが多い、故に誰も文句を言わないし言えないが、やはり気に障る者は居るのだろう。王宮を歩けば、やれ若造があのような態度をなど、やれ腹立たしいなど、そんな声が小鳥のさえずりほどの小ささで聞こえてくる。もちろんそんなことをすれば騎士団やリリアンさんが黙ってないだろう。今だって近衛兵に連れて行かれた。
私がここに来たのは、先程話していた若き女王に会うためだ。商人の団体の代表として、私は彼女に現在の市場状況面で相談に呼び出された。そのためまずは挨拶をしなければならない。正直に言えば、気が重い。先程言った通り、ナタリー女王はあまり性格がいいと言える方ではない。もちろん商人として話術に自信はあるが、あの女王相手では私の口八丁が通じるかも怪しい。しかし代表の私が逃げ出すわけにもいかない。致し方ないのである。まず 初めに謁見をしなければならない。謁見はどうやら彼女の職務室で行うようだ。部屋の前に立っていた護衛の兵に用を伝えると、本人だとすぐ分かったらしく、快く開けてくれた。
「失礼します、本日相談に呼ばれた者です。」
「……あぁ、貴殿か。今日は招集に応じて下さり感謝する。」
身に余る大きな椅子に座った彼女は、顔色もわるく疲れた顔をしていた。少しだけ違和感を感じたが、その次の時にはその顔もなかったので、違和感を感じつつ相談に入った。しかし 話しているうちに、その違和感は大きくなって言った。
「最近の市場では少しだけ治安が荒れていますね。他の国から来た方々が多いのもありますが……」
「そうか、ならそちらは現場に詳しい貴殿に任せたい。問題ないだろうか」
「……承知、いたしました。」
言われていたような性格がひとつも感じられない。厄介な交渉者より話が通じる。少なくとも私が話していて、噂に聞いていたような理不尽さは少しも感じなかった。いけない。私としたことが根も葉もない噂に惑わされすぎだ。あまり人を簡単に信用してはいけない、それが噂なら尚更。多忙の影響か、話術を巧みに操らねばならない身としての前提すら忘れていたらしい。
「貴殿は話が早くて助かる。」
「これでも商人の端くれですので。」
「……これは、私の気まぐれだ。貴殿が口が固く、多くを語らずとも理解できると私が信頼したから話す。」
「……は、はぁ」
なぜ、そう言いたい気持ちを堪えた。
「貴殿はトロッコ問題、とやらを知っているか。」
「ええ、有名な思考問題ですね。」
「私の立場から言わせれば、王の身とは、常にトロッコの操作レバーを握っているようなものなのだ。」
「……」
言いたいことは何となくわかってきた。彼女は唯一残った王国、その女王という身。何を犠牲にして守るか、それを常に考え続ける立場。それで彼女は。そのトロッコ問題でどんな障害にぶつかったのか。
「人々の反対にあったのはいつもプライド、自信、私の未来一つ程度だった。だが、今回は訳が違う。」
小さな声で彼女はそう言っていた。
「8人。8人が反対側に乗っている。」
8人。少ないとは言えない人数。反対側に乗っている人々の為に、8人を轢き殺せと言っているのだ。私はただの商人だ。女王がこの国に何を起こそうとしているのかは分からない。しかしそれは、良くも悪くも新たな風となる。きっと彼女はそれに葛藤をしている。今まで救う代価として乗せてきたものは、どれも彼女にとってはちっぽけなものだったのだろう。だがしかし今回は訳が違う、彼女だけで支払える代価ではない。何人もの未来の命と、8人の死んだ命を釣り合わせろと言っているのだ。
「貴殿に問う。お前はレールを引くか?」
私に渡されたレールの操縦権。
私は___
「まず間違いなく、私は引きます。」
即答した。……こんな非情なやつに陥っていたとは思いたくないが、支払う代価が安すぎるのだ。たった8人、それを差し出せばいい。
もちろん、私の主観だ。その為にわざわざ、私は、と誇張した。彼女が私の意見に同意するとは思わないし、思えなかった。
「……そうか、余興に付き合わせてすまない。もう自由にして構わない。今日はありがとう。」
そう言われて、宿に戻った。どっと疲れがおしよせて、最後の質問の意味も考えられなかった。8人、8人の生贄。……あぁ、疲れてきた。もう休もう。
魔女裁判の話が出たのは、それからすぐだった。
朝、起きて歩こうと、ベッドのふちに腰掛けた。だが、足は上手く床につかなかった。震える足で歩こうとしたが、少しよろめいてしまった。これはまずい、限界だ。
長年、それこそ魔王が生まれるさらに前から、暗黒の渦は危険視されていた。しかし大した対策も、なくす方法も分からないまま、背水の陣となってしまった。先々代からこの悩みは続き、もう全ては私にかかっている。とはいえ、簡単に解決法が見つかる問題でもない。時間は刻一刻とすぎ、髪の色素も少しずつ薄くなっている。今では一部が綺麗な金髪だ。鏡の中の自分の一部違う髪色を見てため息を着く。申し訳ないことをした。
10の時から王位につき、欲深い大臣から必死にこの国を守ってきた。最初に原因と睨まれた魔王も、勇者たちによって討伐された。他にも、原因だと思われた危険は全て排除した。なのに何故なのだろう。何故上手くいかないのだろう。私はこんなに努力しているのに、それに応えてくれる者は居ないのだろうか。もう私の国以外は全て飲まれた。結界を国全体に張って防いではいるが、それでもその場しのぎに過ぎない。早く、早く解決しなければ。
ドンドンと扉が荒々しく開かれる。急いで普段の性格を演じる。弱く見せてしまえば漬け込まれる、というのもあるが、私としてももう限界なんだろう。いつも言葉は怒気を孕んでいた。
「なんだ騒々しい。」
「で、伝達します!暗黒の渦についてです!」
目を見開いた。まさか、解決法が?夢にまで見た、平和な地平線が見れるというのか?ひったくるように報告書を受け取る。ペラペラと報告ページをめくり続ける。そして最後の一文に、目が釘付けになる。
『以上により、暗黒の渦には魔女の用いる魔術を観測。魔女を抹消し次第、暗黒の渦は消滅すると考えられる。』
魔女の抹消。なぜ思いつかなかったのだろう。魔女らの使う魔法形態は、人間のものとまるきり違う。それが暗黒の渦と関わっていても何らおかしくはなかったはずだ。いや、今それは気にしている場合では無い。ようやくだ、ようやく解決法が見つかったのだ。八人生き残ったとされる魔女。それを殺せば、人間は存続できる。生き続けることが出来る。……しかし。
しかし良いのだろうか。今この国にいる何百万人、いや世界の人口ほとんどを救うからと言って、八人を犠牲にしても。その八人の意志も聞かぬまま殺しても良いのだろうか。なんて、国民の前で言ってしまえば私は非難を浴びる。八人も殺せぬ不甲斐ない王に、世界を救えるだろうか。否、決してできない。
コルセットを締め、ドレスを着て仕事部屋に向かう。あの忌まわしき魔女裁判を今蘇らせ、大義の元に魔女を殺す。私にはそれが出来る。
「国を救う為なら、何でも犠牲にしよう。」
私の為にも、人々の為にも。
「あの子」の為にも。
ナタリーさんってめちゃくちゃストレスえぐいよねって話したかったんだ!!!!
というか皆さんいつ参加者の激重過去は見せてくれるんですか???こっちはサブスク入れてまで待ってるんですよ!!!!()
コメント
62件
ナタリーさまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ😭😭😭😭😭😭😭😭
今回もめちゃくちゃ良かったよ!!!! 今まで厳しい人だと思ってたけど その裏には葛藤と苦労があったんだなぁ… しかもそれは凄く重たい… ずっと大変な状況でも 国王だから誰にも頼れないよね… 国王…凄く大好きになって来た… ちなみにウチの子は既存のオリキャラの if世界線の姿みたいな感じだから 詳しく話すと更に重くなるぜ…(?) 次回も楽しみに待ってるね!!!!
…つくるか!!! ナタリーちゃんおもすぎないか うちの子この状態のナタリーちゃん みてより心死んでそう