テラーノベル
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赤ちゃんの心音が聞こえるようになってから更に数ヶ月経った。
その間に悪阻は治まって、悪阻で食べられなかった分を補うかのように茉白は食事をいつも以上に摂るようになっていた。
茉白の腹は段々と膨らんでいく。茉白がその違和感に気づいたのは制服のスカートのホックが留まらなくなったときだった。
最近食べ過ぎて太ってしまったのかな、と思うが手足は細いままだし、胸と腹だけが膨らんでいる気がする。
成長期だから?でもお腹まで大きくなるなんて聞いたことがない。
茉白はそんな違和感を抱えながら日常生活を送っていた。
しかし、決定的な事件が起きた。
ラトとパセリ畑を眺めていた茉白にラトがこう言ったのだ。
「主様、お腹の中の赤ちゃんの心音が最近しっかり聞こえてくるようになりましたね。聞こえ始めたときはお腹も大きくなくて勘違いかと思ったのですが…主様のお腹も大分大きくなってきましたから、間違ってはいないみたいですね。主様の子供が産まれたら一番に見せてくださいね?」
『………え?』
「?どうかしましたか?」
『待ってください!私そんな…妊娠するようなことした覚えないです!!……でも生理も来てないしお腹は大きくなってるし……私、どうしたら……』
泣きそうになりながら茉白は顔を覆う。
もう隠せないくらい腹は膨らんでいる。
今更堕ろす事も出来ないだろう。
『なんで………どうして………誰がこんなこと………』
茉白は早い段階で気づけなかったことを酷く後悔した。
自分はまだ学生で、子供を産んで育てられる自信もなければ、そもそも父親もわからない子供をどうしたら良いのだろうか?という疑問が頭を埋める。
これからのことに恐怖を感じて泣き始めてしまった茉白を抱きしめながらラトは笑う。
「大丈夫だよ、主様。子どもの面倒を見るのは得意ですから。それにミヤジ先生も子育てに協力してくれるでしょうし、こちらの世界で産んで育てれば良いではないですか」
『でも、私学生だし……これ以上皆に負担をかけるなんて……』
「でもこんなに育ってしまったら産むしかありませんよね?大丈夫です、執事達皆でサポートしますから安心して産んでください。……それに、子供が居れば主様は必ず屋敷に帰ってきてくれるでしょう?それを狙った執事の誰かに孕まされたんでしょう。何か心当たりはありませんか?」
茉白はそういえばルカスに生理を止める薬を貰って飲んでいた時期があったのを思い出した。
朝の体の怠さや腰の痛みや膣内に何か異物が入っているような違和感を感じていた。
あの時に犯されていたと考えれば辻褄が合う。
「心当たりがあるのですね?では、とりあえずミヤジ先生に相談してみましょう。何か知っているかもしれませんから」
ラトと一緒に地下の執事室に向かう。
ちょうどキャンドル作りをしていたミヤジに相談があると言えばすぐに話を聞いてくれた。
『実は……私、妊娠してるみたいで……ルカスさんから生理を止める薬を貰って飲んでた時期に、誰かに犯されてたみたいで……ミヤジさん、何か知りませんか?もうこの子を堕ろすのは出来ないですよね…?』
それを聞いたミヤジは慌てて茉白の膨らんだ腹に聴診器を当てる。
心音が確認できると、薬を飲んでいた時期を聞き出しある程度妊娠した日を把握した。
「まずはルカスに話を聞かなくてはいけないね。生理を止める薬なんてそう簡単には作れない…
それに一月で飲むのを辞めてしまって生理が来なくなるというのもおかしい話だ。アイツがきっと全部仕組んだに違いない…」
ミヤジは普段の温厚な笑顔からは想像できないほど怖い顔をして、茉白とラトを連れて3階に向かう。
「おい、ルカス!主様に手を出したな!?薬まで使って卑劣だと思わないのか!?」
研究室の扉を開けた途端ミヤジは試験管を持っているルカスに食って掛かった。
「あらら、一番バレちゃいけない人にバレちゃった。
でもいい手だと思わないかい?主様は生理のつらさから暫く解放されるし、子供を産んでからなら子宮口が開きやすくなって生理痛も緩和されるんだよ?……それに、こちらの世界に縛り付けられる。
こんなうまい方法があるなら試すのが当然でしょう?」
「ルカス!!貴様!!人の心がないのか!!
…いや、お前に人の心などなかったな。合理性の塊のようなお前が情など抱く訳がない。利用できるものは何でも利用して自分の良いように持っていく…
だが、全部お前の思い通りになるとは思わないことだな。子供が産まれたらお前に依存してこちらに留まると思っているだろうが、子供の面倒を見れる執事だって少なくない。主様には選択肢がある。お前の子供なんて愛せないと放棄する選択だってしていいんだ。それを忘れるな」
ミヤジは言いたいことをルカスにぶつけてはぁはぁと荒く呼吸をする。
茉白はそれを見てミヤジを怒らせたらとんでもなく怖いことを知って気をつけようと思った。
それに、子供を産んで捨てるという選択肢も選んでいいんだ、とどこかホッとした。
この子を堕ろすことは出来なくても絶対に自分が育てないといけない訳では無いし、執事達もきっと協力してくれる。
「おぉ、怖い怖い…でも主様を思ってのことだったんだよ?ミヤジだって同じ立場なら手を出してたんじゃない?」
「ふざけるな!!主様に手を出すほど卑怯ではない!!」
「でももう主様の子は堕ろせない期間に入っちゃったし、産んでも執事達の力を借りないと生活が成り立たなくなる。もう私達に依存させる準備は整ってしまったんだよ?それに主様はあちらの世界では孤立しているみたいだし、ご両親も妊娠に気づかないくらい主様に興味がない。それなら屋敷に縛り付けておいたほうが幸せじゃないかな?」
茉白は学校で虐められていること、共働きの両親と数ヶ月顔を合わせていないことを思い出してルカスの言うことも正しいような気がしてきた。
ずっと屋敷に居れば優しくて強い執事達とずっと一緒に居られる。それは茉白にとって幸せなことではないだろうか?
「今後一切主様に関わるな!!今度指一本でも触れてみろ、その手を切り落としてやる!!」
未だに怒りが収まらないどころかヒートアップしているミヤジに怯えながらも茉白は会話が途切れたタイミングでミヤジに声を掛けた。
『ミヤジさん…あの、えっと……ルカスさんの言うことも間違ってないと思うんです……
私学校では虐められてるし、家てもずっと独りぼっちで……お屋敷に留まる理由が出来たらもう元の世界に帰らなくてもいいかなって思ってるところはあって……学校も体調不良でずっと休んでるから今更行ったって勉強に追いつける気もしないんです……』
その言葉にミヤジは茉白を振り返り、肩を掴んで説得する。
「主様、ルカスの言うことが正しいって言いたいのかい?こんな卑劣な手段を使ったルカスを許すのかい?主様には主様の人生がある。向こうの世界でも幸せになれるかも知れないじゃないか。いきなり主様が消えたら沢山の人が心配するよ?だからそんなにあちらの世界を簡単に捨てちゃいけない」
真剣そのものな瞳で茉白の目を見つめてくるミヤジ。
しかし、茉白はその目を見つめ返し、口を開いた。
『………私にはここしか居場所がないんです。ルカスさんがしたことは許させれることではないかもしれません。それでもこの世界に留まる理由が出来たのなら私はそれでいいと思うのです。
…ルカスさんを愛しているかと言われるとそうではないので、結婚とかはしないつもりですけど……でもこの子が幸せな人生を送れるようにルカスさんにもミヤジさんにも協力してほしいのです。………私の考えは甘すぎますか?』
ミヤジは答えに詰まる。
茉白が望んでいるのならばルカスと和解して協力しながら茉白とその子を守っていかなくてはいけない。
「くふふ、主様はずっとお屋敷に居たいんですね?それなら主様の願いを叶えてあげたらいいじゃないですか、ミヤジ先生。私は主様がずっとお屋敷に居てくれたらとっても嬉しいですよ?」
ラトが茉白を後ろから抱きしめながらそう援護する。
「それに…主様の赤ちゃんのお世話をするのも楽しそうではないですか。ミヤジ先生も子どもが好きでしょう?」
「……ラト君………はぁ、主様がお望みであればそれを叶えるのが執事としての務め、か……
分かったよ、こちらの世界に移住する方向で考えよう。ただし、ルカスは必要なとき以外接触禁止にさせてもらう」
茉白が妊娠していて、ルカスが孕ませたこと、茉白は屋敷に移住する方向で話が進んでいること、久しぶりにミヤジがルカスに茉白への接触禁止令を出したことなどは会議で室長達に報告され、瞬く間に屋敷中に広かった。
ルカスがまだ幼い茉白を孕ませた件についてはベリアンをはじめとした室長達に手口と使った薬を吐かされて接触禁止令が改めて出された。
屋敷中から軽蔑の眼差しで見られるようになってしまったルカスだったが、本人はそんなに悪いことをしたかな?と反省していなかった。
数ヶ月後、臨月になりベッドから動けなくなってしまった茉白は出産を迎えようとしていた。
陣痛が始まり、その間隔が段々と狭くなっていく。
『痛いっ、痛いですっ…』
茉白はボロボロと涙を流しながら付き添ってくれているベリアンの手を握りしめる。
「あぁ、主様…気をしっかり持ってください…
大丈夫ですよ、ミヤジさんが準備をしてくれていますから何も心配はいりません」
ベリアンは痛みに呻く茉白の手を握り、腰を擦る。
「遅くなって済まない!今ロノ君にお湯を沸かしてもらっていて、もう準備は終わるから…
ベリアン、主様の陣痛の間隔は?」
「今のところ5分置きくらいです」
「そうか…まだ少しかかるかもしれないね。念のため子宮口の開きを確認していいかな?」
ミヤジが茉白の膣に指を入れてみると、胎児の頭らしき物に触れた。
「いや、思ったより早いな。主様、つらいだろうけど息を止めないでね。深呼吸して…ゆっくりでいいからね。いきめるかな?」
『うぅ…痛いですっ痛い……』
茉白はボロボロ涙を流しながら痛みに必死で耐えている。
「ゆっくり呼吸して…もうすぐ頭が出てくるからね」
ミヤジはゆっくりと出てくる赤ちゃんの頭を支えながら声を掛ける。
「あとは肩さえ抜けてしまえば大丈夫だからね、もう少し頑張ってくれ…」
ミヤジの言葉通り肩が出たあとはズルリと身体が抜けて完璧に赤ちゃんが生まれた。
ミヤジが口に異物が入っていないか、首にへその緒が巻きついていないか確認し、赤ちゃんの背中を叩く。
赤ちゃんは口を開けてぎゃあああ!と大きな声で泣いた。
茉白は嬉しそうに微笑み、ベリアンは赤ちゃんに釣られるように泣き出した。
「うっ、うっ…よく頑張られましたね…」
産声を聞いて執事達が寝室に集まってくる。
「お湯沸かしてきました!」
その執事達を掻き分けてロノがやかんを、バスティンが桶を持ってきて赤ちゃんの体を洗うための準備を始める。
ミヤジは赤ちゃんの身体を傷つけないように優しく洗い、タオルに包んで茉白に抱かせた。
『わぁ……赤ちゃんだ……』
ふにゃふにゃで温かい赤ちゃんを恐る恐るといった様子で抱きしめる茉白。
執事達は自分達にも抱かせて欲しいと茉白を囲んで俺が先だ、いやボクが先だと争い始める。
その様子を楽しそうに見て、茉白は我が子を抱き寄せた。
どんな経緯であれ茉白のもとに来てくれた小さな命。
茉白はその小さくてふにゃふにゃで温かい大事な新しい命を大切にしたいと思うのだった。
コメント
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うわぁ…第2話、めっちゃ重くて切なくてでも最後は温かい気持ちになったよ😭💕 茉白ちゃんが「ここしか居場所がない」って言うシーン、胸がギュッてなった…。ルカスのやり方は卑劣だけど、結果的に茉白ちゃんが望む“帰る場所”になったっていう複雑さがすごい。ミヤジ先生の怒りと優しさ、ラトの甘やかし、ベリアンが赤ちゃん見て泣くところとか、どの執事も茉白ちゃんのこと本気で大事にしてるのが伝わってきたよ…! 赤ちゃん生まれたシーンの温かさと、執事たちが我先に抱っこしようとしてるの、思わず笑顔になっちゃった〜🌸 新しい家族、みんなで育てていくんだね…応援したいよ😊✨
MAKO