テラーノベル
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自分の机にある1番上の引き出しを開けると、A4より一回りほど大きいノートが出てきた。なんとなく気になって開いてみると、数年前に書いたであろう日記があった。なお、その頻度はバラツキがあって、おそらく気が向いたときに書いたのだろうと推測できる。部屋を漁っても大した収穫がないため、仕方なくその日記を読むことにした。
花を買った。厳密にはどうか分からない(だって、気づいたらあったんだから。薬を摂取した後だったし、多分その反動なんだろうけど)。まあ気がかりなのは、元々自分に園芸や生け花の趣味なんてないから管理方法なんて分からないことだ。これは手探りでやるしかないかもしれない。ついでに、植物によるヒーリング効果を期待したのだけれど、それは失敗に終わった。花の匂いが何より辛かった。
そういえば、あの薬は酷かった。生命を延ばす薬、もとい不老不死になるための薬の研究途中に生み出された失敗作の薬である。摂取した結果がこのありざまだよ。よく知りもしない植物を買ってしまった。あの薬は以降触れないことにする。まあ、あれを改良すれば対能力者用の毒薬を作れそうな気はするが、その研究は不老不死の薬の片手間にやることにする。わざわざメインにするほどじゃないからね。
その後は変わった飲食店でご飯を食べた(珍しく和食だった気がする。でも僕の口的には洋食の方が合うかな)。食事を済ませたら近くにある大きな湖を吸い込まれるように眺めていた。昔ここで自殺が起きたせいで入れなくなっているが、その言いつけを守る人なんて当たり前にいない。かくいう僕もそうである。そもそも、その自殺した人のことなど、大半の人は知らない。そんな状態で、どう配慮できようか?
薬を研究を進めていたところ、休憩しようとしてそのまま寝たらしい。乱雑に置いてある資料が机を占領していた。駄目だ。1秒たりとも無駄にはできない。猫の手も借りたい状態だ。猫は嫌いだけど。僕一人でやるにはあまりにも難しい。何か丁度いい人手があればいいんだけれど。
はは、それで僕に頼ったのかって怒られそうだ。
「…はあ、それで僕に頼んだんですね?」
みたいな。……いや、これ以上友達の真似はやめておこう。もしバレていたら更に怒られかねないからね。
僕が彼を頭の中に生成できるのと同じように、彼もまた僕を頭の中に生成することは可能になったはずだ。僕らは大きく違うが、それでいて似た者同士なのだから。
僕の研究において、犠牲は最低限に抑えることは確定事項である。間違っても水道に毒を流すような馬鹿なことはしない。この前提条件において、彼のような能力は非常に役に立つものである(それは僕に限る話ではなく、他の研究者もそうであるはずだ)。彼は大きな衝撃でなければ害を通さない。ゲームに例えるならば、攻撃無効化、状態異常無効化………いや、完全に無効化できるわけではないため耐性とする(じゃあ彼が死なないのはその能力のせいか?否、この能力は自分でオンオフ切り替えることが出来るはずだ。つまり、彼はただ単に死ぬ勇気がないだけである)。なんの耐性もないただの一般人の場合、毒はおろか薬でさえも耐えることは出来ないだろう。彼が人外なのも好都合だ。悪魔は魔力が無くならない限りほとんど死なない。何より、僕の足枷になっている能力のせいで研究できなかった毒を研究することが出来る。これは対能力者用毒薬の研究に大きく貢献する事項だろう。
懸念点として、大昔から伝わってきている禁忌が不老不死の薬に当てはまることだ。この薬を研究途中、もしくは薬が完成次第僕は殺され、薬も消失させられるだろう。この研究に実験体として関わっていた彼が、このとき巻き込まれて始末されないといいんだけど。将来的には、これを掻い潜る手段も固めておく必要がある。
そして、小鳥遊泉には注意しろ。アイツは下手な人外よりもよっぽど人外だ(そもそも、本当にアイツは人間なのか?そこはまだ不確定要素だ)。研究所がある限り、状況が変わることはない。この体に残るのは、恐怖と畏敬ではなく、嫌悪と軽蔑である。
他人のトレースには限界がある。いくらトレース元をよく知っていようとも、僕がトレースしている時点で紛れもなく僕なのである。結局僕は僕であることに変わりはなく、僕は僕以外になりえないのだ。誰かを知ろうとしても、それは僕越しのフィルターに映った誰かなのであって、それは本人ではない(その理論で行くと、最終的にその誰かは誰でもないことになる)。
ああ、花の匂いが煩わしい。消えてくれ。僕は花が嫌いなんだ。
コメント
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ほわさんの「小説」っぽい小説初見かもしれない! 一貫して一人称が続く感じ大好きです