祐希「俺は、相手とちゃんと話したいです。一緒にいて楽しいかどうかとか、無理せずちゃんと本音で話せるかとか。」
祐希「…そういうのが揃ったら、“付き合う”って自然に決まるものなのかなって、思ってたんですけど。」
少し真面目に答えすぎただろうか。伯木先輩はきょとんとした表情で、ホッチキスと書類を両手に俺を見つめている。すると突然くす、と笑って
翔「なにそれ、超真面目。 」
先輩は我慢できないという風に声を上げて笑う。
祐希「…そうでしょうか。」
翔「今どきこんな純粋馬鹿いねぇよ。」
笑いで涙が滲んだ目を擦りながらそう言う。
なにかよくわからないが、すごく馬鹿にされた気がする。少し締まった表情で伯木先輩を睨む。
翔「ふは、褒めてるんだって。褒めてる、これは。」
祐希「…はあ。」
なんだか伯木先輩からは遥人とはまた別種の匂いがする。自ら関わりたくはないタイプだ。
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長時間かけてホッチキス留めを終わらせると、一息ついて伯木先輩に声をかける。
祐希「お疲れ様でした。」
翔「あー、疲れた…。」
実際は伯木先輩は全体の十分の三程しかやってなかったが…まあ終わったからそんなことはいい。
翔「眠た〜…、もう帰っていい?」
祐希「あとは書類の片付けと、職員室にホッチキスと鍵を届けるだけです。」
翔「えー、やっといてよ、俺もう疲れて力出ない。」
祐希「…わかりました。」
先輩に頼られ(扱き使われ)るのもまた経験。ホッチキスをまとめ、書類を一から分けて机に並べる。
最後にホッチキスを持って
祐希「終わりました。」
翔「はや。それじゃ俺帰るねー。」
祐希「…はい。さようなら。」
翔「…あーそれと、きみ名前と…何組だったっけ?」
祐希「…相場 祐希、二年一組です。」
翔「あー、そんな感じだったな。それじゃ。」
伯木先輩が去った後、俺は悶々と先程のことを考える。なぜ俺は名前を聞かれたんだろうか。大した反応もされなかったし。
気にすることでもないな、と生徒会室の電気を消して施錠する。鍵とホッチキスを持ち職員室に返しに行って、その日は何事もなく帰宅した。
翌朝、俺はいつも通り登校して教室へ入ろうとすると、先に蓮はこっちのクラスに来ていたようで
蓮「ゆう、おはよう。よく眠れたか?」
祐希「おはよう。いい夢見れたよ。」
遥人「にしては疲れ気味やなぁ。」
祐希「あ、気づいた?…まあ疲れてるってほどでもないんだけど。」
教室の中に入り鞄を定位置に置いて、友達と喋りに廊下に出た時だった。
「お、祐希いた。」
祐希「…え。」
真隣から声が聞こえて、急いで目を向けると、そこには伯木先輩がいた。…ちなみにここは二年棟であり、どの教室の通り口でもないため、他の学年が来るなんて滅多にないはずだ。
祐希「…何目当てで来たんですか?女の子ですか。」
翔「そんなわけ…もまあちょっとあるけど。」
女子「あっ、伯木先輩!」
翔「…お、ユキちゃんじゃん。おはよ〜。」
女子「あの、これ先輩に♡」
翔「わー、ありがと。後で食べるね。」
祐希「…。」
冷めた視線を送ると、当の本人は気にせずもらったクッキーをクシャッとポケットの中に押し込める。
翔「確かにそれもあるけどー、目当てはお前。」
指を差されて、反射的に身体がビクッとする。
祐希「…俺、ですか?…なんの用でしょう、生徒会のことですか。」
翔「用って程でもないけど〜、一緒に話そうぜ?」
祐希「…わかりました。」
すると突然手を引かれ、半ば強引に中庭へ連れていかれる。
蓮「…あの人、ゆうの知り合いか?」
遥人「見たことあらへんけど、どうせどっかで引っ付かせてきたんやろ。ゆーちゃん、なんでか知らんけどあんな感じのに人気やしなぁ。」
蓮「…はる、悪い顔してるぞ。」
遥人「あらら、バレてもーた?悪いことは企んどらんから気にしなくてええよ。」
蓮「……そうか。」
祐希「それで、話っていうのは」
翔「だーかーら、別に話すこともないって。」
祐希「じゃあなんで呼んだんですか?」
翔「用なかったら呼んじゃダメなの?」
祐希「…。」
ダメ、と言いたいところだが、グッと堪えて
祐希「…そうですか。」
無表情を保ちながら言う。というか、この人に笑った顔や焦った顔なんて見せたくない。もしそうなった時には笑われてからかわれるのがオチだろうからだ。
……正直この人相手に焦ることもないと思うけど。
そんなことを考えていると、
翔「なぁ、ぼーっとしてんなって。聞いてる?」
祐希「……すみません、聞いてませんでした。」
翔「こんなかっこいい先輩が喋りかけてやってるってのに冷たいなぁ。」
祐希「それで、何言おうとしてたんですか?」
翔「超華麗に躱すじゃん、ちょっとショック。次はちゃんと聞けよ?だからさ…。」