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――翌朝。
起きて直ぐにキュルルへ食事を上げる。
早く起きたつもりだけど、マシェリさんは既に居ない。
一体何時に起きてるんだろう。
「キュルル。美味しい?」
「キュルルー!」
「よしよし。大分目がぱっちりしてきたね。体の調子、悪くないかい?」
「キュルルー」
尻尾を振ってお目目もパッチリ。翼はまだ開いていないけど、とても元気みたいだ。
でも、今日で産まれてから六日経った。
残り四日で、もう一つの材料を見つけておかないと。
昨日取って来た紫蘇もといバイオレは、綺麗に洗って天日干ししてある。
そのままカラッと上げててんぷらにしたら美味しそうだけど、小麦粉なんて
この世界にあるのかな?
麦も育ちやすいような作物だから、もしかしたらあるのかも。
でも、昨日の食事には見当たらなかったな。
「そういえば、ラギって何かマシェリさんに聞かないとだった。
他にも知りたい事、多いんだけど。質問ばかりしたら良くないよね」
「キュルルー」
と、キュルルに話しかけていたら、コンコンと扉を叩く音が聴こえる。
誰だろう? まだ朝早いけど。
「ファウちゃん。食事の支度出来てるけど、まだ寝てる?」
「リシュナさん。起きてますよ。今開けますね」
と言ったものの、自分の恰好を見る。
……どうしよう。でも扉を開けないわけにはいかない。
「お早う。ファウちゃん。私にさんなんて付けないでよ。リシュナでいいから」
「はい……」
ダメだ。正直に言おう。精神が持たない。
「あのー。これ、お借りしといていうのも何なんですけど、僕の服を返して
もらえませんか……凄く言い辛かったんですけど、僕……男なんです」
「え? ええーーーーーーー! 嘘!? 私より可愛いのに!? 嘘で
しょ!?」
「本当です……洋服、お借りしてしまいすみませんでした!」
「もう、お父さんたら! じゃあ私の服……わあーーー! 恥ずかしい!」
あ、走って出て行っちゃった。俺の洋服返して……。
と思ってたら戻って来た。そっか、服を取りに行ってくれてたんだ。
「はい。私の方こそ女の子だって決めつけてごめんなさい。その洋服はベッドの
上に置いといてくれればいいから。後で引き取りに来るね」
「はい。有難うございます」
「それにしても……本当に綺麗な顔。肌も白いし」
「寒い地域で育ったので。オードレートの子は皆、こんな色の肌ですよ」
「ふーん。それって女の子? ……そっか。ふふっ。今だけだよね。
ファウちゃんのその姿を見れるのって」
「あまり見ないで下さい! 本当に恥ずかしいんです!」
「私ねー。弟が居たらそうやって、私の服着せて女の子みたいにして
遊んでみたかったんだー!」
「う……昔飼育係で一緒だった子もそんな事をやったって言ってた……」
「え?」
「いえ。何でもないです。着替えたいんですけど……」
「うん。いいよ」
「いいよじゃなくて……見られてると恥ずかしいので一人にしてください!」
「あーーーー! 何その子!? 昨日ぐるぐる巻きにしてた子!? 見せて!」
まずい! キュルルの巻いてあるもの、取ったままだった!
どうしよう。竜だってばれる!
でもキュルル、大人しくしてる。
人を怖がらないのかな?
「へえ。不思議なラギだね。私こんなの初めて見た。ファウちゃんが
飼ってるの?」
「キュルルー!」
「はい。そう……なんです。ラギ……?」
「可愛い……」
「リシュナ! 着替えるから!」
「あーははは……ダメ?」
「ダメです!」
出て行かないので背中を押して外にリシュナを出す。
すると直ぐ扉が開いた。
俺をそんなに着替えさせたくないのか!
「もう! 着替えるって……あれ? マシェリさん」
「おや。ファウちゃん。朝からリシュナと遊んでたのか?」
「違いますよ。自分の服、返してもらったんです」
「なんだ。それならさっさと着替えな。食事を取ったら買い物に出掛けるよ」
「はい。結局見られながら着替えるのか……」
渋々とマシェリさんに見られながら着替えると、マシェリさんも
着替えだした。
これはもう、慣れるしかないな……洋服は洗ってくれたみたいで、少し
綺麗に見えるけど、泥のシミはもう取れそうにない。
結構気に入ってる服だったんだけど、この辺りじゃ珍しいデザイン
だし、変えないとダメかな。
それにしても早朝から何処へ出掛けてたんだろう?
「マシェリさんは早起きして、何処かへ出かけてたんですか?」
「いや。朝の訓練だよ。剣術と体作りのね」
「そっか。僕もやらないといけないんだった」
「ファウも剣術に興味があるのか?」
「どちらかというと、伸尖剣の方が興味あります。一度だけ、凄い炎
を出した事があって。なので将来的には剣士より、術を使う方を覚えて
いきたいです」
「ふーん。それは楽しみだな……」
「今はまだ全然出来ませんよ。凄い炎を出せたのも一度きりだし。
ラギ・アルデの力は行使出来るんですけど」
「師匠はいないのか?」
「いません。父さんが伸尖剣の使い方を少しだけ教えてくれたんです
けど、怪我をしてしまって」
「それなら、ラギ・アルデの力を教えてくれるかもしれない奴に、心当た
りがある」
「本当ですか?」
「ああ。この町にはいない。どのみちエストマージの都までは向かう必要が
あるから、その時に紹介してやろう」
「やった! 有難うございます」
「まだ教えてもらえるかもわかってないのに。気が早い坊やだ。さ、キュル
ルをちゃんと布で巻いてやんな」
「キュルルー!」
「そういえば……さっき、キュルルをリシュナに見られたんです。でも、気付
かれなかったです」
「それはそうだろう。この子は幼竜。大人の、それなりに知識がある奴でな
いとわからないだろうな」
「そうなんですか……」
キュルルをわかり辛いように布で巻いてやると、そのまま食事処へ向かう。
直ぐに食事を取り終え、マシェリさんと宿屋を後にした。
「さて。まずはキュルルの服からだな」
「出来れば伸縮性の高い服の方がいいですよね……いや、そもそもキュルルに
適した形の服ってあるんですか?」
「ある。ラギの服だ」
「ラギ……?」
「そういえば説明していなかったな。ラギっていうのは……」
「止めてくれー! 頼む!」
何だろう。 宿屋を出て町の奥へと歩いてる途中で、凄い大声が……って
思ってたら、こちらへ何かが突進してくる。
「説明の手間が省けたね。見てな。ガルンヘルア!」
うわ……手の平からガルンヘルアで炎を地面に飛ばして、ちょうどマシェリ
さんの正面に突進して来る何かが向かうよう、位置調整した!
それに合わせて剣を正面に迫る獣? のような生物に、刃を立てない
よう、叩きつけた!
……大きい獣だったのに、ズシーンと倒れる獣。
あっさりと倒してしまった。
「これがラギ。こいつはそれなりに成長しているが、どうだ。少し似てると
思わないか?」
「本当だ! これは確かに、似てる……竜の形に。でも、全然違いますね」
「ああ。翼が生えきっていないし牙も爪も無い。尻尾も短いだろう?」
「ええ……そうか。ラギっぽくしていれば竜だとわからない?」
「いいや。成長すれば違いがわかる。だからどうにかして隠す工夫は今後
必要だろう。幼竜のうちだけだと思っていた方がいい」
「分かりました……」
と、話していたら、先ほど大声を上げたと思われる人が追いついて来た。
「有難うございます。ふぅ、ふぅ。一匹逃げてしまって」
「気を付ける事だ。この時間は町人も多い。ぶつかっていれば、大怪我じゃ済
まないかもしれない」
「気を付けます……これはお礼です」
「必要無い。たまたま通りかかっただけだ。今後気を付けてくれ」
「わかりました。有難うございます!」
男の人はラギを抱えて戻っていく。重そうだけど、あれくらいしっかり
持てるようになりたいな。
「さ、買い物を済ますぞ。今日は忙しいんだ」
「はい。わかりました」
忙しいって何だろう? もう一つ仕事が残ってるんだっけ……。
それにしてもさっきの剣さばき、恰好良かったな……と考えながら
マシェリさんの後ろを追った。
この世界に来て初めての買い物。
どんな物が売っているのかな。