テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
白いドアを開けた先は、オフィスだった。
広い。
けれど、天井がやけに低く感じる。
蛍光灯が並んでいる。
全部ついているのに、どこか薄暗い。
デスクが整然と並んでいる。
同じ形、同じ色、同じ距離。
その上には、パソコン、書類、マグカップ。
すべてが「仕事中のまま」止まっている。
誰もいないのに。
私は一歩踏み出す。
床が硬い音を返す――いや、返しているようで、少し遅れる。
規則的な空間。
なのに、視界の端で配置がわずかにズレる。
さっき通ったはずのデスクが、少し近い。
あるはずの椅子が、一つ多い。
――見ないことにする。
私は歩く。
パソコンの画面を見る。
どれも同じ画面が表示されている。
真っ白なウィンドウ。
中央に、小さく文字。
「open」
それだけ。
どの席も、同じ。
私は思わず笑った。
センスがいいのか、悪いのか。
ふと、ガラスの壁に気づく。
会議室だろうか。
中が見える。
私は近づく。
ガラスに、自分の姿が映る――
……映っている。
海では、映らなかったのに。
ちゃんと、私だ。
でも。
ほんの一瞬だけ、動きが遅れた気がした。
私はその場で立ち止まる。
もう一度、軽く手を上げる。
ガラスの中の私は――
同時に動く。
……気のせい。
そういうことにする。
視線を逸らす。
そのとき、気づく。
会議室の奥に、ドアがある。
白いドア。
また、同じ。
でも今回は、少しだけ違う。
ドアの前の床に、椅子が一つだけ置かれている。
誰かがそこに座っていたみたいに、わずかに引かれている。
私は近づく。
椅子の横を通ると、かすかに温度を感じた気がした。
――やめておこう。
考えない。
考えたところで、答えは出ない。
ここには、私しかいない。
そういうことになっている。
ドアの前に立つ。
蛍光灯が、一瞬だけちらついた。
その瞬間、背後のデスクすべてで、
同時に何かが「カタ」と鳴った気がした。
振り返らない。
もう、わかっている。
私は軽く息を整える。
――次へ。
ノブに手をかける。
開ける。
ただ、それだけ。
――続く。
えりりん
2,906