テラーノベル
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二季
夜のスタジオ。配信が終わって、人の気配がすっかり消えたあと。
ソファに腰掛けた風楽奏斗は、少しだけ伸びをして息を吐いた。
『はー……終わった』
その隣に、当然みたいな顔で座る渡会雲雀。
「おつかれ、奏斗」
柔らかい声。
それだけで、張っていた気が少し緩む。
『ん、ひばもな』
名前を呼ぶと、雲雀は一瞬だけ目を細めた。
「……その呼び方、まだ慣れない」
『もう付き合ってんのに?』
軽く笑いながら言うと、雲雀は少しだけ視線をそらす。
「慣れるとかじゃなくて……なんか、くる」
『なにそれ』
意味わかんね、と言いながらも、どこか楽しそうに奏斗は肩をすくめる。
しばらく無言。
でもその沈黙は、気まずいものじゃない。
むしろ、落ち着く。
『ひば』
ふいに、また呼ばれる。
「……なに」
振り向いた瞬間、少しだけ距離が近いことに気づく。
『顔、疲れてる』
「そりゃ疲れてるよ」
少しだけ笑って返すと、
奏斗はじっとこちらを見たまま、ふっと手を伸ばした。
『ちょっとこっち来い』
「え、なに」
言われるままに少し近づくと、
ぽん、と軽く頭に手が乗る。
「……なにそれ」
『ご褒美』
「子ども扱い?」
少しだけむっとした声。
『違う』
間を置かず、否定される。
『俺がしたいだけ』
その一言に、言葉が詰まる。
「……ずるい」
小さく漏れた声に、奏斗は少しだけ笑う。
『なにが』
「そういうとこ」
目をそらしながら言うと、
手はそのまま、ゆっくりと髪を撫でてくる。
優しくて、変に力が抜ける。
『嫌ならやめるけど』
「……やめなくていい」
即答してしまってから、少しだけ後悔する。
でももう遅い。
『素直じゃん』
「うるさい」
そう言いながらも、少しだけ体を預ける。
それを見て、奏斗は少しだけ目を細めた。
『ほんと、ひばってさ』
「なに」
『わかりやすいよな』
「は?」
思わず顔を上げると、視線がぶつかる。
近い。
さっきより、ずっと。
「……近いって」
『逃げんなよ』
低くて落ち着いた声。
それだけで、足が止まる。
「逃げてないし」
小さく返すと、
『じゃあ見ろよ』
まっすぐな言葉。
逃げ場がなくて、結局そのまま見返す。
少しの沈黙。
そのあと、奏斗がふっと笑った。
『……好き』
あまりにも自然に言われて、思考が止まる。
「……急に言うじゃん」
『思ったから』
簡単に言う。
でも、その言葉はちゃんと重い。
「……俺も好きだよ、奏斗」
今度は逃げずに言う。
すると、少しだけ驚いた顔のあと、
すぐに優しく笑った。
『知ってる』
「じゃあ聞くなよ」
『ちゃんと聞きたいだろ』
そう言って、また軽く頭を撫でる。
今度はさっきより少し長く。
「……ほんと、ずるい」
『何回言うんだよ』
「それくらいずるい」
そう言うと、奏斗は少しだけ肩を寄せた。
『じゃあ、もっとずるくするか』
「なにそれ」
笑いながらも、少しだけドキッとする。
『ひば』
「ん?」
『帰るか』
「……もうちょい」
無意識に出た言葉。
少しだけ間があって、
『いいよ』
すぐに返ってくる。
そのまま、また静かな時間。
隣にいるだけで、落ち着く。
言葉にしなくても、ちゃんと分かる距離。
でも、たまにこうやって言葉にされると、
どうしようもなく嬉しくなる。
繋いでいないはずの手が、いつの間にか触れていて。
どちらからともなく、軽く握る。
強くはないけど、離れないくらいの力で。
夜はゆっくり深くなっていく。
それでも二人は動かない。
ただ隣で、同じ時間を過ごしていた。
コメント
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