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◆◇◆◇◆◇◆◇


日差しは強くなりつつあるが、朝晩はまだ冷え込む。日中は動くとうっすらと汗ばむ季節。


中間テストも無事に終わり、丁度息抜きが出来る僅かな時間。


部活動をする者は部室へ走り、帰宅する者は岐路を急ぐ。


帰宅する生徒の群れに交じり、慧はいつになく緊張した面持ちで歩いていた。


慧の横には、胸を張って颯爽と歩く鹿島美緒がいる。


チラリと、慧は美緒を見る。少しだけ、彼女は慧よりも身長が大きい。


傷一つない、雪のように白い肌。風に揺れる黒髪は青空に映えている。


まるで、イラストから出てきたような美少女だ。自分でも不釣り合いだと思うのだ、端から見れば、もっと釣り合わないと思われるだろう。


「…………ねえ、私の顔に何か着いてる?」


こちらの視線に気が付いていたのだろう、美緒は不機嫌そうに言うと、冷たい視線をこちらに投げかけてきた。


「あ……、ごめん、何でもない……」


サッと視線を逸らした慧は、愛想笑いを浮かべる。


美緒はそんな慧を見ると、ふうと、小さな吐息を吐き出した。


無言。


気まずい沈黙が、二人の間に見えないベールとなって降りる。


結局、学校で話したのは一度きり。放課後、席を立った慧に美緒が話しかけてきたのだ。


「ねえ、一緒に帰ろうよ」


少しだけ、強ばった表情の美緒。慧はドギマギしながらも、頷いた。


付き合って一日目。学校では話すことは疎か、まともに視線さえ合わせる事が出来なかった。


本当に付き合っているのか。


慧自身、昨日の告白が夢なのではないか、そう思ってしまうほどだった。


実際、女性と付き合うのは初めての経験だ。普通の彼氏彼女は、一日どのくらいの時間、一緒にいて、何時間話をするのだろう。学校でも、休み時間はずっと一緒にいた方が良いのか。それとも、自分の時間を大事にして、決まった時間だけ会うのだろうか。


それとも、スマホを使って他愛のない会話を永遠と時間が続く限りするのが良いのだろうか。


分からない。本を読んでみても答えは載っていないし、健介からもそういった話は聞いたことがなかった。


ただ、付き合って初日だというのに、朝の挨拶もなく、休み時間も、昼休みも、同じクラスなのにまともに目も合わせないのは、少し異常な気がした。


もっとも、休み時間や昼休みに、面と向かったとして、何を話せば良いのか、慧にはさっぱり思いつかなかった。


流行のドラマや音楽には疎い。詳しい事と言えば、雑学やゲームなどだ。


偏見かもしれないが、美緒がそれらのことに興味があるとも思わないし、例え話す機会があったとしても、話が広がるとも思えない。


自分の引き出しの少なさに、忸怩たる思いで歩を進める慧。その時、視界に青い花弁の花が飛び込んできた。


「あっ……」


美緒が声を上げ、足を止めた。


その花は、通学路脇の民家の庭先で咲き誇っていた。


恐らく、その花は数日前から咲いていたはずだ。だが、慧も美緒も、その花の存在に気が付かなかった。視界には入っていたが、花として認識していなかった。今日は偶々、普段とは違う気持ち、状況で歩いていたから気が付いたのだ。


「アガパンサスだね」


「え?」


美緒がこちらを見る。


慧は美緒に笑いかけると、腰を屈めてアガパンサスの花弁に触れた。


「和名では、紫君子蘭って呼ばれているんだ。確か、アフリカ原産の花だよ」


「へー、綺麗な花。こうして沢山咲いていると、凄いね。どうして今まで気が付かなかったんだろう」


「僕もだよ。僕たちは、見て居るようで見てないんだよね。見ようとしているもの、見たいものしか見ないって言うか……」


「見ているのに、見ていないってこと?」


「ん~……、まあ、そんな所」


美緒も腰を屈め、アガパンサスの花弁に指を添える。白魚のような透明感のある指先。日の光を受け、形の良い爪がキラリと輝く。


「ちなみに、この花言葉は……」


言いかけて、慧ははっと息を飲んだ。口に手を当て、次いで出そうになる言葉を飲み込んだ。

明日は屹度、晴れるから

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