車のことはとても専門的で、まだわからないことだらけだった。それでもとても興味が湧いて、これは仕事にも活かせそうだと思った。
それと同じくらい、真島貴という人間にも興味が湧いた。
でもこれは、仕事の邪魔になってしまうんじゃないかと思った。
そんなことは微塵も出さないように、帰りの車の中も気をつけた。
せっかくの楽しいお出かけを、気まずくしたくなかったから。
「遅くなってしまったね、旦那さん、怒ってないかな?」
「あー、大丈夫だと思う。旦那も異性の友達はアリという人だから…」
少しだけ嘘をついた。
旦那の口からそんなこと聞いたこともないけど。
私は、アリだと思う。
面白いことや楽しいことをするのに、性別なんか関係ない。
関係あるのは、そこに存在するお互いに対する気持ちだ。
もともと同性の友達は少ない。
群れたり、仲良いと思っててもいないと陰口になってしまう欠席裁判みたいなことが苦手だったから。
それより、気になることを聞いてみた。
「あのね、それより貴君、彼女って…」
「いないよ、そんなの。今はコイツが一番好きなヤツだよ」
そう言ってハンドルをポンと叩いた。
「そっか。それならよかった。彼女さんがいたら誤解されたりしてめんどくさくなったらイヤだなと思って」
「彼女ね…もしもできたとしたら、未希さんに紹介するし、未希さんのことも大事な友達だから余計なこと、例えば嫉妬とかするなって言うよ」
「…それなら、安心だ」
答えながら、チクンと胸の奥が痛んだ気がした。
深呼吸して確認する。
大丈夫だ、気のせいだ。
「晩ご飯どうする?」
「あ、えっと、お任せです」
「それ、ちょっとさ、無しにしよう」
「えっ、どういうこと?」
意味がわからなかった。
「どこに行きたい?とか聞かれたら、思いつくとこ言って欲しい。相手任せってちょっとがっかりするよ、楽しもうという積極性がないというか」
「あー、そうだね、無責任だね。じゃあ、ソース味が食べたいからたこ焼きか焼きそばかお好み焼きが食べたい!」
「よし、じゃあ、あそこの角の先にある居酒屋でいい?たこ焼きがあったはず」
「了解です」
きちんと考えてる人なのか、それとも考えるのがめんどくさいのか。
でも、少しだけ、うれしい意味があるような気がした。確認してみる。
「ね、聞いてもいい?」
「なんですか?」
「楽しいことを積極的に共有しようとするなら、また出かけてくれますか?」
「もちろん!楽しいことは1人より2人、2人よりみんなだからね」
「やった!じゃ、これからもよろしくお願いします」
「はい、よろしく!着いたよ」
みんなより2人がいいな、なんてことは黙っておくことにした。
家に帰りついた。
「じゃ、また明日!」
「ありがとうございました」
軽快な音をさせて帰っていく貴君を見送った。
ポストを見ると封書が二つ届いていた。
玄関灯もついていない真っ暗な家に入る。
「ただいま!タロウ!どこにいる?」
チリンとリビングで音がした。
ライトをつけると眩しそうな顔で、近づいてきた。
「ただいま、寂しかった?あ、ご主人様が帰ってきてたから、寂しくなかったか」
喉のあたりを撫でてやると、ゴロゴロと音を出す。
この猫独特の声というか音は、人の怪我にも癒しの効果があると聞いて、最近は余計に可愛く思えてきた。
「ご飯あげるね」
今日はカリカリの他にちゅーるもあげることにする。
カリカリと食べる音を聞きながら、持って入った封書を確認する。
一つはダイレクトメールでもう一つは旦那宛だった。
「税務署?なんだろう?」
旦那宛だから、開封しない方がいいかな?家族でもそれはしてはいけない法律があったような?
明日にでも本人に確認してからにしよう。
今日は疲れたからお風呂に入って…。
明日から仕事も楽しくなりそうな予感がしていた。
新しい友達ができたことだし。
仕事に行くのが楽しみになるなんて、思いもよらなかったけど。
今日の1日を思い出して、気分がよかった。
その封書が他にもあるなんて、思いもせず。
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