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「という事で―――
例の兵器化施設の一件は、無事解決しました。
捕らえられていた亜人・人外の解放に成功、
また敵味方双方に目立った被害は無し。
少なくとも死傷者はゼロとの事です。
詳細は追って、ティエラ王女様が報告に
来るでしょう」
ラーシュ・ウィンベル陛下は、魔力通信機を
通して……
各国の代表に語り掛ける。
「さすがはシン殿、というところか」
「死傷者が出ていないとあっては―――
必要以上に恨みを買う事もあるまい。
……プライドは別として」
魔王・マギアとライシェ国の王がそれぞれの
感想を口にし、
「ともあれ、任務達成は喜ばしい限りだ」
「あちらもこれで、少しは大人しくしてくれれば
良いのだが」
クワイ国とチエゴ国のトップも、ひとまず
胸をなでおろす。
「そういえば、メルビナ大教皇様はいかが
しておりますか?
今のモンステラ聖皇国に呼びかければ、
実権を取り戻せそうなものですが」
ユラン国のアドベグ陛下がそう意見を述べると、
「それはいったん様子見した方がよろしいかと。
現在、聖皇国は立て続けに失態を演じて
います。
大ライラック国との関係も、これまで通りとは
いきますまい。
手を出すのであれば、それを見極めてからでも
遅くはないかと」
ラーシュ陛下がそう見解を出すと、
「確かにそうですな。
裏で手を組もうとしていた国が、こうまで
いいようにやられているのを見たら―――
頼りなく思うのは当然の事。
もっと弱り切るのを見計らってからでも」
アイゼン王国の国王がそれに同調する。
「うむ……
ただ、最悪なのは逆に転んだ場合だ」
新生アノーミア連邦宗主国、マルズ国王が
異論を挟む。
「と言いますと?」
ウィンベル王国の国王が聞き返すと、
「現状、今のモンステラ聖皇国は―――
弱体化していると見られてもおかしくはない。
それを、内情を理解している大ライラック国が
放っておくかどうか。
ただでさえ、クアートル大陸の四大国のうち、
ランドルフ帝国とドラセナ連邦は手を組んで
いるのだ。
この上敵に回られるよりは、と……」
かつての旧帝国の意見に、各国のトップは
耳を傾ける。
「しかし、大義名分は必要であろう?
どのような理由があり得るのだ?」
魔王が疑問を口にすると、
「理由などどうとでも作れます。
『内乱の兆しあり』、
『近隣国として安定化のために』……
それに、現在のモンステラ聖皇国に、
メルビナ大教皇様がいない事を―――
大ライラック国は知っているのです。
本来の最高責任者が不在の国など、
ものの数ではありますまい」
ユラン国のトップが重々しく語る。
「戦争を仕掛けなくとも、実質上支配下に
置いてしまえばいいわけですし。
要所に軍を配備されたら、占領されたも
同然です。
後はメルビナ大教皇様が戻って来られるまで、
とでも言えば当面は接収したままに出来る
でしょう」
ラーシュ陛下の説明に、各国のトップがうなる。
「ただ準備期間は必要となる。
それに聖皇国の兵器化施設の件があった
ばかりだ。
しばらくはそちらの情報収集に時間を
割かれるはず」
「大規模に軍を動かすのであれば、
最低でも3ヶ月は必要であろう」
「すでに準備をしていた場合はわからぬが」
マルズ国・チエゴ国・クワイ国のトップが
次々と見解を述べ……
議論は加熱していった。
「えー……
今度は何ですか?
もう妻たちの出産予定日までは、私どこも
行きたくないんですけど」
数日後―――
冒険者ギルド支部に呼び出された私は、
不満を隠さず露わにすると、
「すまんすまん。
ライの野郎からも連絡はあったが、
当分お前さんをどこかへ行かせる依頼は
控えるつもりだそうだ。
ただ情報共有だけはしてくれって言われて
いるんだよ」
アラフィフの筋肉質の体をしたギルド長が、
申し訳なさそうに告げる。
「何かあったんですか?」
「何か、ってほどじゃないッスけど。
あのあとティエラ王女様が『ゲート』で
やって来て、近況報告したらしいッス。
それで魔力通信機を使っての多国間会談を、
また行ったという話ッスけど」
褐色肌の次期ギルド長の青年が私の問いに
答える。
「まあまだ数日しか経っていねぇから、
動きも何もないだろうが……
モンステラ聖皇国も大ライラック国も、
静観しているらしい。
わかっているのは―――
あの兵器化施設で捕らえられていた連中の
意識が戻って事情を聞く事が出来たが、
そこで行われていた事が、ほぼ『予想通り』
だったって事くれぇか」
ジャンさんは苦虫を嚙み潰したように言う。
薬に自爆特攻と……
あれだけでもうお腹いっぱいだったからな、
こっちは。
メルやアルテリーゼがいたら、皆〇しまで
いったかも知れない。
「それと何だこりゃ。
ワイバーンの定期便で送られて来た
ものだけどよ。
これにも目を通してくれって」
ギルド長がいぶかしげに、イラスト入りの
書類を渡して来て、
「何スかこりゃ?
こっちはあの、風を送る魔導みたいなのが
四方についてるッスけど」
レイド君も不思議そうにその絵を見つめる。
「こっちは巨大ドローン……
こちらはグライダーですね。
私の世界で、空を飛ぶ事の出来た道具です」
私の説明に、もう慣れたものだとため息をつく
二人。
「マジか。
魔法がなくても、やりたい放題じゃん
お前の世界」
「って事は―――
今コレを作っているって事ッスか?」
聞き返して来る現ギルド長と次期ギルド長に、
「いえ、これはダミー情報というヤツです。
あの浮遊島を使う作戦が続きましたからね。
その目くらましというか、偽の情報を与えて
存在を隠したいんですよ。
今の技術でこれを作っても、空を飛べる種族に
取って代わる事は出来ませんしね」
ふむふむ、とうなずくジャンさんとレイド君。
そこでふと何かに気付いたようにギルド長が、
「おっ、そうだ。
そういや『神前戦闘』の件だが……
鬼人族を参加させるんだって?」
「あ、そうなんですよ。
鬼人族の人たちが、そろそろ参加したいと
言っておりまして。
だいぶ前から公都入りしていますし、
今度の『神前戦闘』にあてようかと」
「鬼人族ッスかー。
別の意味で獣人族より迫力が出そうッスね!」
そこでようやく公都についての会話となり、
しばらく支部長室で話し込んだ。
「……というわけで、各国ともしばらくは
静観すべし、との事でした。
それとシン殿を酷使し過ぎであると、
当面は彼に依頼を出さない方針です。
シン殿自身も、立て続けの依頼には消極的な
ようで」
その頃、『ゲート』でランドルフ帝国に戻った
ティエラ王女は、
ランドルフ帝国皇帝・マームードを筆頭に―――
帝国武力省将軍、ロッソ・アルヘンと、
魔戦団総司令、メリッサ・ロンバート……
軍部の二大トップを前に、多国間会談の内容を
報告していた。
「敵地に潜入し―――
彼我の損失なく救出を行う、か。
アルヘン将軍、それにロンバート総司令。
我が軍にそのような事が出来る者はいるか?」
六十代の老人の問いに、黒の短髪に半開きの目を
した鎧姿の男と、
黄色に近いブロンドの長髪をした女性は、揃って
首を左右に振って否定の意を伝える。
「拠点を叩き潰して来い、と言われた方がまだ
簡単です」
「全員救出、また敵味方に損害無し……
心の底から、彼が同盟国の人間であって
良かったと思います」
彼らは軍人であり、命令には絶対服従。
またどのような困難な作戦でも不可能とは
言わないが、
それはコラテラルダメージ―――
いわゆる、被害前提の任務を遂行する事であり、
シンのように、双方に被害を出さずに作戦を
成功させる事など、彼らの本分には無かった。
「しかし、立て続けの依頼に消極的、と……
さすがのシン殿も疲れたのかね?」
マームード皇帝がアゴに手をあてて、
疑問を口にすると、
「いえ、シン殿は今―――
奥様方が身重ですので。
あまり長期間、彼女たちの側を離れたくない、
という事のようです」
パープルの前髪を眉の上で揃えた王女が、
微笑みながら答える。
「家庭的な人物なのだな」
「愛妻家だねえ」
軍のトップ二人も、つられるように笑う。
もっとも将軍の方はほとんど無表情であったが。
「シン殿とは帝国としても、関係を深めて
おかぬとな。
海の向こうの大陸は何もあそこだけではない。
大ライラック国より北もあれば……
クアートル大陸の東にもある。
それらにある国が、友好的とは限らない
可能性がある限り―――な」
皇族として、そして軍を率いる者として
メンバーは姿勢を正す。
「まあ堅苦しい話はこれまでにしよう。
それでティエラ。ほれ、例の土産を」
「あ! 失礼しました。
ではこちらに……」
父親に言われて、娘が慌てて金属製の箱を
取り出す。
「何でしょうか、これは」
「ずいぶんと冷えているみたいですけど」
不思議そうにアルヘン将軍とロンバート総司令が
フタが開くのを見つめていると、
「おお、これか―――
まるで雪のようじゃな」
「シン殿の新作料理です!」
そこには、王都でもらってきたであろう、
食器に盛り付けられたアイスクリームが
出て来て、
「おぉお、これはビンビン感じますよ?
絶対甘くてオイシイって!」
「わかりますか!?
ふわふわのトロットロですよぉ~♪」
女性であるメリッサが、まずスイーツである事を
見抜いて食いつき、
彼らは役得として……
帝国では初めて、アイスクリームを
食したのであった。
『おーっと、ここで勝負が決まったぁー!!
ん? 誰かが入場口にいる?
あれは鬼人族?
鬼人族がなぜ、獣人族の『神前戦闘』に?』
公都『ヤマト』の旧スラム地区。
そのイベント会場で開催中の『神前戦闘』の
リングアナが、実況を続ける。
『これが、神前に捧げる戦いか!?
獣人族の神様とやらは―――
ずいぶんとお優しいのだな!』
『何だと!?』
そこで鬼人族選手と獣人族選手の、マイク
パフォーマンスの合戦が始まる。
もちろんこれは、鬼人族が『神前戦闘』に
加わるためのストーリーで、
観客たちは突然の乱入者である鬼人族選手と、
獣人族のスター選手との一挙一動を見守る。
『我々は逃げも隠れもしない!!』
『では、鬼人族もこのリングに上げてもらおう!
どちらがより、神を満足させる戦いが出来るか
勝負だ!!』
すると会場の熱気は一気に盛り上がり、
「おぉー、こう来たか」
「なかなか熱い展開じゃ」
東洋系と、対照的な欧米ふうの妻二人がその
光景を楽しむ。
「身軽な獣人族と力の鬼人族……
ボク燃えてきたよ、おとーさん!!」
黒髪ショートの中学生くらいの娘も、
両手で握りこぶしを作りながら語り、
評判は上々のようだ。
このシナリオ作りに一枚噛んだ者として、
私は家族と共に、『神前戦闘』イベントへと
来ていたのだが―――
メル、アルテリーゼ、ラッチ……
そして観客の反応を見て、ようやくホッと
一息つく事が出来た。
まあこれはあくまでも、鬼人族を『神前戦闘』に
参加させる入口であって、
一段落したら獣人族VS鬼人族の構図を、
混合にしていく予定である。
『せっかく各種族が共生出来ている状態で、
敵対する演出はまずくないか?』
という心配は当然出て来ていたのだが、
敵対→和解→後にそれぞれが自らの戦い方を
選ぶ、というストーリーにすると言うと、
獣人族、鬼人族、運営サイドは共に納得して
くれた。
「いやーいい気晴らしになったよー、シン」
「しかし2人とも、そろそろお腹が大きくなって
きているし、重くはないか?」
メル、アルテリーゼはすでに、どこから
どう見ても妊婦そのもの。
心配して彼女たちに問うと、
「全く動かない方が問題だろうて。
それに、産まれるのはまだまだ先じゃ」
「そーだよー。
産婆さんも、ちょくちょく歩きなさいって
言ってたじゃん」
母娘揃って反論される。
確かに、運動不足になりがちになるので、
これくらいはいいか。
「じゃあ帰ろうか。
あ、その前に何か食べていく?」
「そうだね、まだ涼しいし……」
「我は焼き魚定食がいいかな」
「じゃあボクはミックスフライでー!!」
家族でそれぞれ食べたいものを言い合い、
イベント会場を後にした。
「海岸線の測定?」
後日、冒険者ギルド支部に呼び出された私は、
その依頼内容に首をひねっていた。
「というよりはまあ、探索だな。
ほら、あのハイ・ローキュストの大群を
迎え撃った事があっただろう」
新生『アノーミア』連邦の最西端の国、
マシリア。
そのさらに最西端の町で、防衛線にあたった
事があるのだが、
(■116話
はじめての じっせんとうにゅう(ろぼっと)
■117話 はじめての うらのたたかい参照)
「確かにそんな事もありましたが」
「あまり思い出したくない戦いでしたッスねえ、
ありゃ」
当時、同じくその戦いに従事していたレイド君も
遠い目をしながら話す。
「それでな、さらにその西まで行って、
海を確認してきて欲しいという依頼が来て
いるんだ。
あそこから先は未開拓地域でな。
大陸各国が同盟を組んだのを機に、
この際、この大陸の地形を防衛上把握して
おきたいという事だ」
「つかギルド長。
しばらくシンさんにゃ依頼は振らないって
話じゃなかったッスか?」
現ギルド長に次期ギルド長はツッコミを入れる。
そこは確かに自分も気になっていたところだが。
「んー、まあちょっと事情が複雑なんだよ」
そこでジャンさんは飲み物をグイッとあおる。
そして続けて、
「これは元々、新生『アノーミア』連邦から、
ウィンベル王国への依頼だったんだ。
浮遊島を貸してくれっていう、な」
「あれをですか?
まあ、観測をするのならもってこいの
拠点ですけど」
空中移動し、上で居住も可能。
さらに半月程度であれば、補給無しで十数人の
生活も出来る。
「だがまあ、ありゃウィンベル王国に取っちゃ
機密のカタマリでもあり、そして2つしかない
超がつくほど貴重な移動施設だ。
そうおいそれと貸し出すわけにはいかねえ。
よっぽどの『保険』付きじゃねえとな」
「あー……なるほどッス。
今まではシンさんという『保険』がいたから、
安心して運用して来たのであって―――
つまりシンさんとセットでなければ、貸し出す
事は出来ないってわけッスか」
父と息子のように説明する二人に、私は
頭を抱える。
つまり……
本来は新生『アノーミア』連邦単体の依頼で
あったはずが、
その依頼先から私が同行するのが条件、と
制限を付けられた事で、
それがそのままこっちに回ってきたのね。
「だからぶっちゃけると、この依頼受けるか
どうかはお前さん次第だ。
まあ日数は、6日もしくは12日程度と
見られている。
海外に出るわけでもないから―――
とあちらさんは言っているが」
確かに今回は向こうの大陸や、潜入や救出と
いったものではない。
気が楽というのもある。
しかし、家族にもしばらく依頼は受けないと
告げている手前……
このまま引き受けるわけにも―――
「……ちょっと持ち帰らせてもらえませんか?
家族と相談して決めたいと思いますので」
「そうッスね。それがいいッス」
「本来、時間と人員をかけりゃいいだけの
話だから―――
断っても気に病む必要は無いぜ」
どうも二人とも、内心ではこの依頼、
あまり気が進まなかったようだ。
取り敢えず保留、という事にして……
私はギルド支部を後にした。
「いや~、やっぱり空の上は格別だね!
アルちゃん」
「我らは初めてではないが―――
ミリアもルーチェも具合は大丈夫か?」
依頼当日……
浮遊島の上には私と家族。
そしてタヌキ顔の丸眼鏡のギルド職員と、
亜麻色の髪を後ろで三つ編みにした冒険者の
女性がいた。
「ここ最近、家にこもりっぱなしでしたから、
こういうのは大歓迎ですよ~♪」
「それにギルやジャンおじさんも、ちょっと
過保護過ぎっていうか……
リベラ先生が注意してくれていたんですけど、
なかなか。
心配してくれているのはわかるんですけど」
「あー、わかるわかる。
産むのはこっちなんだから、ちょっと
落ち着いてって感じよね」
ミリアさんとルーチェさんが、姉妹のように
その大きなお腹をさすりながら語る。
「おとーさんと一緒だー!」
と言うラッチの大きな声を―――
私はジャンさんと一緒に肩身を狭くしながら
聞いていた。
「まさか、こんな依頼になるとは」
「こっちもだよ。
まあ、俺の場合は将来を見据えて……
ゴールドクラスとして、一度実地経験して来い
というのもあるだろうが」
あの後、家族に依頼について聞いてみると、
『じゃあ私たちが同行すれば良くね?』
というメルの提案で家族同伴が決定。
今回は極秘任務とかそういうものではないと
いう事もあって、あっさり許可が下りた。
これはまあ、すでに浮遊島経験者であると
いう事もあるんだろうけど。
さらに『シン殿の推薦であれば』という事で、
メルとアルテリーゼ共通の女子友である、
二人の参加が決定。
ジャンさんの場合は王家直々に、私の護衛として
正式に任命されたものである。
まあこちらもこれで良かった。
何せレイド君もギル君も、この世界に来てから
結構長い仲だしな。
その奥さんたちを連れて自分だけ……
というのは私の精神衛生上よろしくない。
ちなみに夫二人も私から誘ってみたのだが、
『次期ギルド長まで公都を離れてどうするの!』
『あなたはしっかり仕事しなさい!!』
と、奥さんたちに叱られてシュンとなっていた。
母は強し、という事だろうか。
「しっかしまあ、ここが空の上とは。
家もありゃ風呂もトイレもある。
重要機密って言っても、実際に乗ったヤツじゃ
なけりゃ、誰も信じねえだろうぜ」
苦笑しながらギルド長は話す。
「何もなければ、快適な空の旅行でしょうね」
「いいんじゃねぇか?
最近、お前さんは忙しかったんだしよ」
ジャンさんが私の苦労をねぎらうと、
「おとーさん!
そろそろお昼にしよー!」
娘の呼びかけで、私たちは浮遊島の施設へと
向かった。
「結構距離があるみたいですね」
「地形観測も兼ねているので、あまり速度を
出せないというのもあるのですが―――
何せ行き先は完全に未開拓・未確認地域
ですからね」
三日もすると……
例のハイ・ローキュストの大群との激闘の地、
マシリア国のあの町の上空に到着したが、
そこからさらに半日ほど西に向かっても、
焼野原の跡があるだけで、なかなか海は見えて
来なかった。
まあ焼くように指示したのは自分なので、
複雑な気持ちではあるけれど。
「そういえば、新生『アノーミア』連邦は、
今まで西側の海岸線を確認しようとは
思わなかったんですか?」
観測班であろう人たちに質問すると、
「未開拓地域、ですからねえ。
ランドルフ帝国の使者は東海岸から
やって来ますし―――
人が住むのにも適していない、これといった
資源も無い場所だと……
どうしても後回しになりますから」
あー、そういう事か。
交易路でもない、資源も乏しい―――
そんな土地を調べる優先順位は低いはず。
「ただ昔の記録によれば、歩いて10日も
すれば、海があったとか。
なので、浮遊島の今の速度であれば……
今日か明日には到着するのではないかと」
計測機器や書類とにらめっこしながら、
彼は私の質問に答える。
「おや? あれは―――」
その時ふと、観測班の一人が声を上げ、
「何かありましたか?」
「いえ、地上なのですが……
地上に生えている植物が動いたような。
気のせいかも知れませんけど」
「植物の魔物もいる。
一応、確認した方がいい」
「浮遊島の高度を下げます!
全員へ通達を―――」
と、彼らは慌ただしく動き始めた。
「何ですか、あれ」
そして地上二・三十メートルまで降下した時、
異様な光景が目に入ってきた。
それは別に動いてはいなかったが、紫色の
ツルのような植物が、半径五メートルほどの
範囲で生い茂っていて、
「……地走草か!?」
ジャンさんがそれを見て顔色を変え、
「え!? ホント!?」
何事かと集まっていた一人、メルも声を上げる。
「え? 危険な植物なんですか?」
私が聞き返すと、観測班の人たちは魔物に
詳しくないのかきょとんとしているが、
対照的にギルド長と人間の方の妻は顔を
青ざめていく。
「これが地走草だとしたら、結構最悪な部類に
入るヤツだ。
通常のツル植物とあまり変わらない外見でな。
ただ一定の繁殖範囲を超えると―――
一気に広がっていく」
「そこから先は、動く根っこで手あたり次第に
獲物を捕らえて養分にする……でしたっけ。
何で発生するのかも、どうして収まるのかも
わからない。
数十年か百年に一度発生する魔物。
記録が無さ過ぎて、対処方法が無いん
ですよね」
どれだけ危険なのかが伝わったのか、
観測班の人たちも顔色が悪くなっていく。
「アルテリーゼは、何か知らないか?」
「ううむ……
シャンタルなら何か知ってそうだがのう。
そもそもドラゴン族は高地に住むゆえ、
地上の魔物は詳しくないのだ」
「でも弱そーだよ?
本当に危険なの、アレ?」
母の言葉にラッチが首を傾げるが、
「一つ一つのツルなら敵じゃねぇよ。
駆け出しの冒険者だって勝てるだろう。
だがそれが何百何千、何万という数だったら?
しかも地中に根を張っている上、その根っこが
生きていたら恐ろしい速さで再生するんだ。
焼き払ったとしても、地下まで火は通らねぇ
からな……」
「アタシもギルドの記録を読んだ事が
ありますけど、
以前のハイ・ローキュストの大群が
一瞬の嵐だとしたら―――
これは長期的な災害、長く続く
日照りや雨みたいなもの」
「わたしも、公都の老人から聞いた事が
あります。
まさか本当にいるなんて」
ジャンさんに続いて、冒険者ギルドのメンバーが
危険性を補足していく。
「くそ、こんな魔物に遭遇するんだったら、
ミスリル銀のショートソードを持ってくる
べきだった。
時間はかかるが、根っこごとバッサリ出来た
だろうによ」
それさえあれば何とかなったのか。
さすがゴールドクラス、と思っていると、
「それでもあの範囲全てはさすがに厳しいと
思いますよ、ギルド長。
それにまあ、今こっちには切り札がいるの
忘れてません?」
と、メルが俺の片腕にしがみつき、
「おお、そうじゃった。
というわけでミリア、緊急依頼という形で
いいかの?」
もう片方の腕にアルテリーゼが、
「おとーさん、がんばって!!」
胸にラッチが飛び込んで来て……
この事態に対処する事になった。
「すまねぇなあ、シン。
結局お前さんに動いてもらう事になって」
「いえ、確かに緊急事態ですからね。
それにここは、何十万という
ハイ・ローキュストの大群を燃やした地。
その灰を養分にして―――
という事も考えられますし、今はこの地走草の
処分だけを考えましょう」
アルテリーゼにドラゴンの姿に戻ってもらい、
私とジャンさんが地上に降り立つ。
「じゃ、とっととやってくれ。
お前さんへの攻撃は、俺が全部切り払う
からよ」
「ありがとうございます。
念のため、広範囲を無効化しておきますか」
そして二人で、地走草の駆除と無効化を始めた。
「……これだけやりゃあ、十分か?」
「そうですね。
さすがにここまでやれば問題ないかと」
小一時間もすると―――
半径百メートルほどの範囲をぐるりと回って、
私たちは一段落つけていた。
『魔力で動き、異様な再生速度を持つ植物など
・・・・・
あり得ない』
そう私が無効化する一方で……
ギルド長は襲い掛かってくる触手のようなツルを
薙ぎ払い、
また、地上に姿は見えなくても、少し離れた
程度では地中から直接ツルがこちらを目掛けて
突進するように伸びてくるので、
その攻撃が収まるまで私たちはグルグルと
地走草の周囲をしらみつぶしに歩き、
ようやく安全確認をする事が出来た。
「後はアルテリーゼに周囲を焼き払ってもらい、
そしてメルに水魔法で消火してもらうだけか」
「ええ。でもその前に―――」
私は中央に歩み寄り、すっかり無害化された
地走草の一部を摘む。
「オイ、どうするんだそんなもの。
食うのか?」
思わずブッと吹き出し、
「いくら何でも食べませんよ!
これはこれで、持ち帰って調べて
もらうんです。
こうなってしまえばただの植物ですし、
弱点とか倒し方とかわかるかも知れません
から」
「おお、そうか。
まあ、シンの力でもう危険じゃなくなって
いるだろうからな」
そして私たちは上空に合図を送った後……
浮遊島まで戻り、
打ち合わせ通りにその一帯をアルテリーゼが
焼き払い、その後メルが消火して、
海岸線の測量を再開する事になった。