この作品はいかがでしたか?
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「それで?明日図書室に行くって?」
夕食の席で、カルヴァリーが私に聞き返す。
明日の計画について話したのだが、随分不満そうだ。
「そう、あの科学者なら原因が分かるかもしれないでしょ?」
「まぁ、そうなんだけどさ。」
小さくため息を吐いたカルは、こう続ける。
「にしてもなぁ、お前があの救世主のために尽くすとは。頭でも打ったか?」
「馬鹿言わないで。救世主の為じゃない。
ハルカのためよ、友達の為。」
「友達?」
カルがケタケタと笑って繰り返す。
自分でもびっくりだった。
ヒスイがアイラにボコボコにされるのを見て、さっさと帰るはずだったのに。
どうして、ヒスイの為にここまで動いたんだろう。
ハルカのあの姿を見た瞬間、動かないといけない気がした。
助けないと、と思った。
「明日はカルも着いてくる?」
夕食も終わり、電話機の前でダイヤルを回しながら、カルにそう尋ねた。
「え? 図書室に? 行かねぇよ、あんなマッドサイエンティストの所になんか。」
「そう、わかったわ。」
受話器を耳に当てて、返事を待つ。
「 アスカ? トウカだけど。」
「えっと、その」
アスカのものでははい曇った声が、受話器の向こうから聞こえてくる。
まさか、ハルカ?
一瞬そんなことを考えたけれど、ハルカにしては声が幼い気もする。
「どちら様? 私、アスカに用があるの。」
「あ、えっと。僕、アルカだよ。 アスカに代わろうか?」
「あー、あの居候の。 別に代わらなくてもいいわ、用があるのは貴方だし 」
「僕?!」
あまりの声量に、受話器を耳から遠ざける。
後ろで見ていたカルも、「やれやれ」と言いたげな顔をしていた。気がする
「新しい転生者のことよ、貴方なら分かると思って。」
「わ、わかった、調べてみるよ。」
「お願いね、また明日図書室に向かうから。」
「うん、お、おやすみ! また明日ね!」
私が返事をし終わらないうちに、彼は電話を切ってしまった。
カルに挨拶をした後、寝室へと向かう。
ベッドに入ると、すとんと眠りに落ちてしまった。
***
「おやすみ! また明日ね!」
そう言い終えると、勢いよく受話器を下ろす。
ガシャンと受話器が大きな音を立てた。
「あれ、ご主人電話?」
僕のことを“ご主人”と呼ぶこの子は、最近雇った助手の1人、ランだ。
家業を継ぎたくないからと言って、僕の研究室に押しかけてきた子、つまり家出だね。
「うん。 明日、ここに来るって言う電話。
ラン、アオト読んできてくれないかな?」
ランと共にやってきた、もう一人の助手を呼ぶように頼むと、ランは駆け足で研究室の奥へと消えていった。
そんな様子を見て、小さなため息が零れる。
彼らがうちにやってきたあの日、ここの主、アスカはあの二人を僕の助手に任命したんだっけ。
正直、彼らを雇ったことは後悔している。
物は壊すし、書類はなくすし。
今すぐにでも二人を解雇したい。
再びため息が零れたその時、ようやく二人が帰ってきた。
「二人ともお疲れ様。 明日は来客が来るんだ。」
「来客?」
「そう、来客だよ。だから、明日までに研究室を片付けて欲しいんだ。」
すると、ランが不満気な顔をしてこう言った。
「ご主人が汚したんだから、ご主人が片付ければいだろ」
「口答えするなよ、無理言って雇ってもらってるのは俺らなんだからさ。」
アオトがそんなランを静止する。
「じゃ、俺らはもう寝るから。ご主人もたまには寝ろよー」
「えっ?」
ランに対して文句を言うアオトの手を引いて、二人はそそくさと寝室へ入っていった。
「全くもう。二人して使えないんだからさ。」
そんな二人に文句を言いながら、部屋の片付けへと取り掛かった。
***
「新しい助手はどう?」
僕にそう尋ねたのは、ここの主、アスカだった。図書室の入口にもたれかかって、イタズラっぽく笑っている。
「今すぐにでも解雇したいよ」
「あらそう。」
表情を変えることないアスカに、少しイラつきながらも、彼女の方を見ないようにして片付けを続けた。
「ねぇ、アスカ。」
「何?」
「あの二人はいつ解雇していいの? 正直、もううんざりなんだけど。」
「うんざり?」
アスカが目を丸くした。
「そう、うんざりだよ。子供の家出に付き合うなんてさ。」
「あらそう。」
なんでもない顔をして相槌を打つアスカにだんだんとイライラしてくる。
「でも、貴方も同じじゃなくって?」
「はぁ?」
「貴方だって、家を抜け出してきたのでしょう?」
何も言い返せない。
彼女の言う通りだ。
僕だって、家を抜け出したうちの一人だった。
家に居たくなくて、この屋敷に逃げ込んだうちの一人だ。
「それはそうだけどさ、二人にはもっと別の仕事が__」
「でも貴方、だいぶ人間らしくなったじゃない。」
「人間らしく?」
「えぇ。顔が生きてるもの。」
彼女の方を見ながら、首を傾げる。
「明日、トウカが来るのでしょう? 片付けもそこそこにして、さっさと寝なさい。」
そこまで言うと、彼女は寝室へと向かってしまった。
かき集めた書類を抱えたまま、彼女の背中を眺めていた。
人間らしく、か。
今すぐにでも解雇したい、なんて言いながら二人をここに置いたままにする僕は、二人の姿を昔の自分に重ねていたのかもしれない。
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