テラーノベル
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They areの方が書き進められてないのですが
ENSEMBLE観たらどうしてもこれだけは書き留めておきたくなり…
「りょちゃん…ごめんね…」
困ったように微笑んで俺を見上げた元貴が今にも消え入りそうな声で言った。
泣けない元貴が泣いている、と思った。
でも実際に溢れ出る涙を抑えきれないのは俺で。
こんな時まで俺はなんて不甲斐ないんだ。
ごめんなんて。そんなのこっちの台詞だよ。
誰よりも近くに居たのに。
元貴がこんな風になるまで気が付けなかったなんて。
いや、たぶん薄々は感じていた。
元貴がもう限界まで苦しそうなことに。
眠れない夜が増えていることに。
でもそれは多分産みの苦しみだから、と気がつかなかったことにして、元貴が僅かに発していただろうSOSをきっと無視してたのは俺なのに。
「みんなーーー!もっと盛り上がれるでしょ?!?!もっとーーー!!!!!」
ステージでの煽りはいつからか俺の担当みたいになっていて
元貴の呼吸に合わせて
元貴が最高潮に盛り上がったステージで最高のパフォーマンスを出来るよう、声を振り上げて鼓舞する。
俺たちの結成当初からの目標だったアリーナツアー。
このツアーが終われば、俺たちは無期限休止に入ることが決まっていた。
ファンの皆んなにも対外的にも発表はまだだけど。
レーベル内と俺たちメンバーだけは知っている、もうどうしようもく動かし難い事実。
でも。
「もう無理だ、疲れたんだ」と元貴が吐露してから約1年。即休止、とするにはミセスの規模は大きくなり過ぎていて、先々まで埋まっているスケジュールを終え切るまで彼には無理を敷かざるを得なかったから。
俺たちに出来るのは、この最後のステージを最高のものにして、元貴がまた戻って来たい、と思ってくれるように。
いや、ここまでやって来たことはこんなにも素晴らしくて凄いことなんだって、最後にもう一度だけ感じて欲しいと。
「もっと!もっと!もっとーーー!横アリぃいい!!!」
泣き声にならないよう気をつけながら、声の限り張り上げる。
ステージ中央の元貴が困ったような微笑みで俺を見つめてくれたのが目の端にうつり、涙が溢れそうになるのを何とか堪えようとキーボードに視線を落とした。
まだだ。
まだ泣いちゃいけない。
元貴の、俺たちの最後のステージを終わらせちゃいけない。
いつも通りの圧巻の歌唱力で22曲を歌い上げた元貴。
ステージ上の元貴はやっぱりとても美しく、力強く、でも儚くて…彼がもう哀しみに暮れることがないように、と願う。
「楽しかったね、幸せでしたね」と言ってくれたから。
少しは報われたと思ってもいいのかな。
そしてアンコールの一曲目。
他のメンバーはハケて
俺のキーボードと元貴の歌だけで綴るCircle。
元貴が最後のコンサートのアンコールに二人での曲をやる、と決めた時
嬉しくて、でもすごく切なくて、どうしてその選曲だったの?と最後まで聞くことはできなかった。
何度も何度もこうして二人でセッションしてきた。
俺のキーボードはきっとまだ拙いけれど
元貴の歌がここに居るみんなに正しく届くように
元貴の苦しみが少しでも救われるように
一音一音を大切に大切に弾いていく。
あぁ終わってしまう。
楽しくて。ただがむしゃらに楽しくて。常に高水準を求められるミセスの活動は本当に大変で泣くことも多かったけど。
でも君の歌を鳴らせるのは俺だってことが本当に本当に幸せだったんだ。
ねぇ元貴。
本当にさ”貴方という星に降り立ったの”も” 辿り着いたの”も俺で。
君の歌を知ってしまい、君の孤独に触れてしまった俺は、この先もう君なしでは居られないと思う。
“貴方という惑星とぶつかったのは / 意味があるでしょう”
いつか君にそう思ってもらえるよう。
また君の隣に立てるよう
絶対にまた君の歌を鳴らせるよう
俺はどんなことでもするから….。
だから、待っていて欲しいんだ。
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