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しどろ・・もどろ・・・「い・・・いや・・あの・・・言葉の・・・あやって言うかそうなったらいいなぁ~~~って・・・言うか・」
アリスが目玉を左右にキョロキョロして、手が宙を舞う、変な笑顔を張り付け、ドっと冷や汗が脇に滲む
あまりの怒りに、つい自分の願望を真実のように言ってしまった
すると途端に目の前が真っ暗になり、呼吸できなくなった
「んむんんむむむっ~~~(焦)」
北斗が力任せにアリスにキスをした、アリスが言い訳をしようとする言葉も、長く熱いキスで封じ込められた、ヒッと目の前の琴子が息を呑むのが聞こえた
プハッ
「ほ・・北斗さ・・・苦し・・・」
次に壁のような北斗の胸板が、アリスの顔に襲って来て視界は真っ暗になる、ぎゅ~っと北斗は力いっぱいアリスを抱きしめる・・・いっ息が出来ない
グス・・・
:*゚..:。:. .:*゚:.。
瞳に涙をいっぱいためて北斗が言う
「え?・・だから・・その・・・違うって・・いうか・・そういう気持ち・・・とかなんとか・・・ 」
ワハハハハハ!「すごいぞ!!君は俺の赤ん坊を産むんだっっ!!」
「北斗さん!一瞬でいいからおろしてっっ!」
北斗はこれ以上ない大声で笑い、アリスを抱き上げたままくるくる回った、もうアリスはパニックだ
「あっもしもしレオ君?あのねぇ~アリスが赤ちゃん出来たんだって、レオ君は男と女どっちがいい?」
明がアリスと北斗の前を、トコトコキッズ携帯で、レオに電話をしながら横切って行く
ワハハハ!「俺の子だ! 」
北斗は感極まってまだアリスをクルクル回している
「アリス!レオ君は家来にするから男がいいって!僕はぁ~どうしようかなぁ~?迷っちゃうなぁ~ 」
ワハハハ「バカだな!アキ!発注するんじゃねぇ~んだから、俺達が性別なんか決めらんねぇ~よ!」
直哉が笑う
「え~~?そうなのぉ~~?」
ブツブツ「2か月かしらぁ~3か月かしらぁ~え~っと・・「帯祝い」(5か月目で腹帯を巻く)の日はいつぐいらいになるかしらねぇ~ 」
お福がカレンダーの前で赤いマジック片手に、腹帯を巻く日取りを調べている
いやぁ~~「俺もおじさんかぁ~~、今日は飲んでもいいかなぁ~~ 」
直哉と明もお福も大はしゃぎだ
「お・・お願いだからみんな落ち着いて・・・話を聞いて・・・さ・・さっきのは違うのよ・・・」
「お義母さんっっ!」
北斗が琴子に向かって突進してきた
「私をお義母さんなんて呼ぶのは、許しませんよ!!キャァァ゙ァ゙ァ!!」
次の瞬間、なんと北斗が琴子を力いっぱい抱きしめた
「離しなさいっっ!!無礼者!!」
北斗が目にいっぱい涙を溜めて琴子に囁いた
「アリスを産んでくれて・・・・本当にありがとう・・・ 」
..:。:.::.*゜:.
あまりのショックに顔面蒼白になった、琴子の顔にさまざまな表情が浮かび眉をひそめる、やっと北斗の抱擁から解放されて琴子がよろける
グスッ・・・
「お義母さん・・・俺には両親がいません!俺達の子には血が繋がっていて、無条件で溺愛してくれる、おばあちゃまが必要だ!」
「お・・・おばあちゃ・・・ま・・?」
あまりの喜びにはち切れそうな北斗は、永遠に琴子の手を両手で握りしめ、大声で笑いながらブンブン振り回す
北斗に抱き着かれたショックで固まっていた、琴子がなんとか正気を取り戻し、力ずくで北斗の手を振りほどいた
「ば・・・ばかばかしい・・・もう・・・こんな所一秒たりともいたくないわっ」
琴子が小さく咳ばらいする、北斗に抱き着かれぐしゃぐしゃにされたせいで、一分の隙もなかった琴子の髪の毛がほつれて乱れ、片一方のイヤリングは外れ、スーツの襟元はよれている
パニックになりながらも、アリスはいい気味だと少し愉快になった、今まで一度たりとてあの母親に無邪気に抱き着き、何万もするヘアメイクを、ぐしゃぐしゃにした人物がいただろうか
ああ・・・北斗さんが誇らしい
「奥様・・・今のは記録しますか?」
琴子の隣にいた弁護士が焦りながら尋ねる
「そ・・・そんなの記録などしなくてもいいわ!!」
ヒソッ「とにかく一旦ここは作戦を考え直した方が・・・」
弁護士からそう耳打ちされ、こんな所もう一秒たりともいたくないとばかりに、琴子が慌てて去って行こうとする
玄関口にいるお福の前で、出て行こうとする琴子がピタリと立ち止まった
「・・・福・・・・ 」
「お・・・奥様・・・」
福は下を向き琴子の顔が見れない
「ずいぶんと姑息な真似をしてくれたわね、アリスの居場所を知っておきながら、黙っていたなんて、長年仕えていた使用人に欺かれるなんて、これ以上の屈辱もないわ」
「も・・・申し訳ありません、お・・奥様・・・・ 」
すると横にいた直哉がずいっと一歩前に出て、お福にこれ以上何か言おうものなら、俺が相手になるとばかりに琴子を睨む
20センチは身長差がある、この無礼な若者をどうしてくれようと、目から光線が出るぐらいしばらく直哉を睨んだが、琴子はリムジンに乗って去って行った
琴子が退散していくのを、複雑な気持ちで見ているアリスを、また北斗が背後からギュっと抱きしめ肩に顎をのせる
グスッ・・・・
「今日は人生で一番幸せな日だ・・・・」
そして両手をアリスのお腹にしっかり当てる
「ここにいるんだな・・・・・ 」
..:。:.::.*゜:.
アリスはまた心の中で叫んだ
どっ・・・どうしよう~~~~~(泣)
::.*゜:.
アリスを産んでくれて、本当にありがとう・・・・・
..:。:.::.*゜:.
伊藤琴子はリムジンの後部座席で、先ほど成宮北斗に言われたことをずっと考えていた
後部座席のシガレットケースから、メンソールの細い煙草を取り出し火を点けて、少しだけ窓のパワーウィンドウを下げて換気する
自分が煙草を吸うときは、よほどのストレスが溜まっている時だ
細い煙草の三分の一まで一気に吸って煙を吐く
成宮北斗の言葉が頭から離れない
アリスの実の父親でさえ・・・・あんな感謝の言葉を、自分に向けたことがあっただろうか
「二度・・・子を流したわ・・・・」
琴子は呟いた
二度も流したのよ・・・・
そして琴子は二人の形にならなかったけど、天国に行った子供に思いを馳せた
あの掛けがいのない、二人の天使が生きていたら・・・アリスの上には二人の息子か娘がいて
アリスと自分の人生がどう違っていたか、ことあるごとに思わずにはいられない
だが・・・二人は生きていない
二度も流産を経験して、もう子宝には諦めていた・・・
そして奇跡的にアリスが産まれた・・・・
しかし二度の流産を経験した妻が、産んだのは結局は女だった
その頃には夫の心が自分から離れて行くのを感じながら、琴子は妻としてではなく、夫と祖父の宝石ビジネスのパートナーとして、ビジネスキャリアにそれまでの二倍の情熱を傾けた
ITOMOTOジュエリーを、世界に名だたる宝石商にするために
そう・・・夫には愛人がいた
琴子が雇った調査員の報告では、夫が自ら他社から引き抜いた自分の秘書に、マンションを買い与え、週の半分はそこで過ごしていた
琴子はその愛人に男の子供が出来るのを恐れた
それでも琴子は「不安障害」で、心療内科の薬を飲みながらも、さらに精力的にITOMOTOジュエリーの、海外販売部の幹部として外国の王族とも関係を築き、その頃には夫に簡単に捨てられないぐらいの、社会的地位を獲得していた
しかしある時期から夫は毎日自宅に帰って来るようになった
愛人との関係が終わったのだ
そして膀胱がんと前立腺肥大という、厄介な病気を引っ提げて、夫は夫婦関係を修復しようとし
琴子は重い病状の夫の介護を、引き受けることになった
琴子が夫を介護した五年間はきつかった
人工の膀胱を取り付けた夫は、考えうる限りでもっとも扱いにくい病人に変貌し、琴子は毎日怒鳴られ、いくら尽くしても報われない日々を過ごした
人生ではずれくじを引いた気分だったが、琴子は夫を介護しながらも、ITOMOTOジュエリーの幹部として、出席する催しものや利益向上のための仕事は、きちんとこなすという離れ業をやってのけてみせた
そして夫が亡くなってからは
今度はアリスと二人で伊藤家を、お払い箱として放り出されるのではと恐れ、舅の顔色を伺いながらまた精力的に、ITOMOTOジュエリーの幹部として働き尽くした
その期間・・・アリスが多少の母子の疎外感を覚えていることは気付いていたが
跡取りを産めない女が生き延びるためには、そうするしかなかった
もちろん母親としてアリスが、良い男性と出会い子供を作ることを願っている
もしかしたら、成宮北斗はそんなに悪い男ではないのかもしれない
実を言えば・・・さっきからアリスの子供の事を、自分自身の出産と同じように楽しみにしているのに気付き
信じられないことに驚きと共に、愚かしいとも感じていた
まだ産まれてもいないのに・・・
だが・・・自分に孫が出来たのも事実だ
もう夫亡き今・・・最大の恐れであった義父も認知症が進み、自分の顔さえ認識できていない
ハァ~・・とため息を吐き、自分の人生を思い直す、今わたくしは何のために世間と戦っているのだろう
今週末も夜桜会を催さないといけない、やってもやっても終わらない、催しものやパーティの数々
荷が重い・・・・
アリスが主催者になってくれればどんなに楽か・・・
いっそのことコロナを理由に、なくしてしまえればいいのに・・・
もうITOMOTOジュエリーの繁栄も、連日連夜行われるパーティーもうんざりだった
毎日毎晩・・・着飾り・・・意味のない無駄な相手との会話・・・
シャンデリアの明かりが老眼にしみる、あちこちで交わされるシャンパンの乾杯の音
精力的にこなすには、もう年を取り過ぎた
俺には両親がいません、俺達の子には溺愛してくれるおばあちゃまが必要だ
..:。:.::.*゜:.
成宮北斗の言葉が脳裏によぎる
ふと孫を腕に抱えている自分の姿を想像した
可愛らしい孫を腕に抱え、そっと揺らし、ひたと抱きしめる・・・
生きているうちに・・・・
死ぬ前に孫の姿が見たい、この伊藤家の血を受け継ぐものをこの目で見たい
その時ハッとした
自分は二度子を流した・・・・
もしかしたらアリスにもそのDNAは、受け継がれているかもしれない・・・アリスが傷つく姿は見たくない
そう考えると琴子は胸が張り裂ける思いだった
よく考えたらあの子はとても薄着だった、ちゃんと靴下を履いていただろうか・・・
今のこの時期妊娠している身体に、下半身を冷やすのは良くない
「成宮北斗・・・・・ 」
あの男は本気でアリスに子供が、出来たことを喜んでいた
琴子はまた独り言をつぶやいた
「・・・変わった男・・・」
..:。:.::.*゜:.
帰りのリムジンで鬼龍院は、屈辱の苦い思いをしていた
どうして伊藤アリスが、あの成宮北斗と一緒にいるのかまったくもって謎だ
純粋に運命のいたずらというヤツだろうか
今だに鬼龍院は成宮北斗にアリスを、会わせたことを後悔していた
日本でも上流階級の特に選ばれた人達の中でも、選りすぐりの伊藤家の連中は
祖父はさておき、母親は注目されるパーティーには、必ず顔を出すいわゆるセレブで娘は頭が弱く母親の言いなりで、結婚すれば自分の都合よく操れるものだと思っていたのに
鬼龍院は今までの自分の計画を、ことごとく潰してくれている、成宮北斗を殺したいぐらい憎んでいた
しかも自分が偽物のアラブ産のサラブレットを、転売している悪事を暴かれてしまった
このまま奴らを野放しにしていては、自分のこの身が危ない
何としてでも成宮北斗を今のうちに、潰してしまわなければ
やはり計画通り、まずはあの牧場を自分のモノにして、成宮北斗が淡路島に住めなくしてやる
今まで水面下でその計画は進めて来た
計画を上手く遂行するためには、あの牧場がある淡路の政界の実力者達へ、コンタクトを取らなければ
彼らと出会える機会は、鬼龍院がいつも行く埠頭のSM館風俗店(楊貴妃館)のオーナー(マダム鶴子)に頼めば、そのチャンスはいくらでもあるだろう
彼女達は、いつも大金を落とす自分に頭があがらない
何なら自分があの牧場を締めている小さな町の、町会議員になってもいい、むしろその方が手っ取り早い
鬼龍院の頭の中ではその計画が着々と練りあがっている
少し爪を弾く程度の労力で大儲けが出来ていたのに、まさかあの成宮兄弟に邪魔されるとは思ってもなかった
実際西日本一の競走馬の牧場だと言われていても、成宮牧場は誰一人、たいした人間はいないと思っていたのに
あの成宮北斗は少しばかり利口だったようだ、完全に騙せていたと思っていたのに
弟もちょっとばかり整った顔立ちに、凡庸な人柄を認められただけの、ヤツだと思っていた、あいつらを欺くのは楽しくて仕方がなかったのに
あの成宮牧場を自分のモノにして、あそこを拠点にして新しい調教師達を雇い、もっと詐欺行為を拡大して行けば、もっと自分に金が入る
とりあえず第一段階としては、あの牧場を自分の手の中に抑め、そこからは莫大な財産を築くことになるだろう
そしてアリスを自分のものにし、自分好みに変えてやる楽しみも新たにできた
そして計画には第二段階と第三段階がある、それが終われば現在のあの島は今までの日本の領土とは、まったく変わったものになっているだろう
ニヤリと笑うと鬼龍院はリムジンのクーラーボックスから、スコッチウィスキーを注ぎ一気に煽った
車窓からの三日月はぞっとするほど美しかった