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ブランコを離れて今度はお店の中へ。
店内はどこの席も完全個室なようだった。
照明は小さくてレトロな豆電球。あまり強い光はないので全体的に落ち着いた雰囲気。
「ご予約は…。」
「西條で、2名で取っています。」
「西條様ですね、ではお席までご案内させてもらいます。」
とことこと、少し長めの廊下を進んでいく。
床がフローリングだからか、歩く音がよく聞こえた。
どの席も完全個室で、襖で区切られている。
廊下の突き当たりを右に曲って一番奥の座敷に案内された。
部屋の窓からは、きれいな浜辺と海が見えた。
浜辺はライトアップされていたので、より海が見えた。
「店内そちらのタッチパネルでのご注文になっております。もし何かございましたら、そちらのタッチパネルでお呼びください。それではごゆっくり。」
店員さんはすらすらとそういって襖を閉めた。
「もう二人だから、マスクもサングラスも外していいよ。」
そう言われて一緒に外す。
視界がぱっと明るくなって、息がしやすくなった。
思っていたよりも店内は明るかった。
向かい合って座っていたはずが、気づいた頃にはべったりひっついて手を握られる。
「久しぶりだね、外食。何が食べたい?」
そう言って、タブレットを目の前に置いてくれた。
「やっぱり海も近いし海鮮丼かなぁ…てんぷらもおいしそうだよね…。」
まじまじとタブレットの画面を見る。
二人で悩んでいると、隣の席のカップル客の声が聞こえてくる。
お酒が入っているせいか、声が大きくなっているようだった。
襖でそれなりに声は通りにくくなっているはずなのだが、よく聞こえてくる。
『鈴ちゃんとまた会いたい!』
『酔ったらすぐその話なんだから。鈴ちゃんもきっとどこかで元気にしてるよ。』
『確かにぃ、さいくんが側にいるんだろうけどぉ、会いたい!』
あまり気にせずメニューを見て、たまに画面から目をはずして…。
「…?」
ふっと横顔を盗み見ると、見たことのない顔をしていた。
『テレビの中の鈴ちゃんとさいくんで我慢してください。』
『いやよー、また南お姉ちゃん、ってよばれたいもん。』
『でも二人とも俳優業もモデル業もやめちゃったじゃん。』
『そうなんだよねぇ…はぁーあ。寂しいから、隣の席のカップルに声かけに行こう?』
『みーちゃん本当に酒癖悪いよ?毎回そーやって知らない人と飲みだすんだから。』
久しぶりのデートは順調そのものだった。
ドライブして、夜の潮風に当たって、カップル限定席で美味しいご飯を…。
『鈴ちゃんとまた会いたい!』
しかし脆くも完璧は崩れ去った。
その一言ですべてを察した。
声の主は人気モデルであり、彼氏の方は人気アイドルだ。
ここでばったり出会ってしまえば困ること間違いない。
『隣の席のカップルに声かけに行こう?』
(終わったのか…?終わったのか…?)
『みーちゃん本当に酒癖悪いよ? 』
(ナイスストップだ。)
ほっと胸を撫で下ろす。と、物言いたげな目で見つめられていた。
こんなに目がちゃんと合ったのは久しぶりだ。
ましてや、僕が合わせられる側なのは何年ぶりだろう。
感慨深い。
瞳がほんの少し揺らめいている。
「ど、どうした?」
ゆっくりと、まばたきが数回繰り返される。
何か、思い出したのだろうか。
「大、丈夫、?」
帰ってきたのはそんな、小さな一言だった。
心配されていただけだった。
「大丈夫だよ。ありがとう。」
自分が思っている以上に、焦っているのが外に出ていたみたいだ。
その時だった。
『んじゃ、失礼しまーす!!』
『あ、まってみーちゃん!!』
反射的に彼女を腕の中に隠すようにして抱きついた。
さっと背中側の襖が開いた。
『こんばん……えぇ!?さいくん!?』
抵抗虚しくすぐにバレた。
なんとか彼女が混乱状態に陥ることを避けなければいけない。
どうすれば…。