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「ん……ふ……んんッ……」
くちゅくちゅと卑猥な音が聞こえる。
昨日は唇を押し付けるだけの乱暴なキスだったが、今日は開いた口から濡れた二人の赤い舌が見え隠れしている。
(……止めなきゃ……!)
化学室準備室に駆けこもうとした青木の肩を、誰かが引き戻した。
「……(おい)」
「……(お前!)」
「……(しっ)!」
いつのまに背後にいた赤羽が唇に人差し指を当てる。
赤羽は青木のICチップが入っている首を撫でると、拳を開いて爆発のジェスチャーをした。
(そうか。他の死刑囚の邪魔をしたらルール違反なんだった……!)
成す術もなく青木は化学準備室の二人に目を戻した。
「……んッ……!」
ガラス戸に押し付けられ、背の高い緑川に成すがままに顎を上げている白鳥は、緑川の愛撫に耐えているようにも、感じているようにも見える。
白く細い手は、緑川の厚い胸板を押し返しているようにも、握っているようにも見える。
「………あ……ッ」
開いた口から艶っぽい声が漏れ、緑川の筋肉の盛り上がった太腿が、白鳥の両脚の間に割り込み、彼の股間を擦る。
その刺激によろけた白鳥が、緑川の腕に凭れかかった。
「――いい加減に答えろよ。正直に言うまで続けるぞ」
白鳥の顎を掴んだ緑川が、彼を見下ろす。
「お前、俺のこと嫌いって本当か?」
「――だから!」
白鳥が潤んだ悔しそうな目で緑川を睨み上げる。
「だから、そんなこと、一言も言ってないでしょう!」
「それじゃ答えになってねえって言ってんだよ」
緑川が白鳥の細い腰を引き寄せる。
「俺のことどう思ってる。好きか?嫌いか?」
「………ッ……!」
緑川の足が再び動き出し、白鳥の股間を刺激する。
「――なんでこんなことされるのかわからないか?」
緑川が耳元で囁くと、白鳥は自分の口を押えながらコクコクと頷いた。
「……俺がお前を好きだからだよ」
「……!!」
白鳥の目が見開かれる。
(……くっそ。アイツ、俺より先に……!)
青木は奥歯を噛み殺した。
「お前の答えは――?」
緑川が切れ長の目で、白鳥の大きな目を覗きこむ。
「俺は……」
白鳥は真っ赤な顔で緑川から目を逸らした。
「青木が、好きです……!」
「――――」
思わぬところで名前を呼ばれ、青木は呆然と立ちつくした。
(白鳥……)
彼が――。
あんなにキラキラしている純粋な彼が、本当に自分を好いてくれているのに、
自分ときたら何なんだろう。
勝ち残るために、
生き残るために、
彼の好意を利用して、偽りの愛情を注いだりして――。
この実験が終わったら自分は、
白鳥の望むとおりに生きよう。
もし白鳥が自分と一緒にいたいと言えばそうするし、
自分を欲してくれるならいくらでも与えよう。
彼のために生きていくと誓う。
もし実験に勝てたなら――!
「俺は――」
緑川はスーッと息を吸うと、静かに言い放った。
「俺とお前の話をしてるんだよ……!」
「………」
白鳥は再び緑川を見つめた。
「俺のことは好きか?嫌いか?もし嫌いならこの場で諦めてやる。一生近づかない」
緑川はまっすぐに視線を落としながら言い放った。
(こいつって……マジでどっちなんだ?)
青木は首を捻った。
(もし死刑囚だとして、もし実験のために動いてるとして、こんなセリフをまっすぐにぶつけられるか?)
「白鳥。どうなんだよ」
青木は両手の指を組んだ。
(頼む。白鳥……!嫌いだって言ってくれ!俺に近づくなって言ってくれ……!頼む……!)
しかし青木の願いもむなしく白鳥は、
「……嫌いじゃ……ない……」
緑川を見つめ返した。
「――――嫌なら殴れ」
緑川は白鳥の白シャツに手を掛けた。
「あ……や……!」
白鳥がさすがに緑川を押し返すが、彼は構わずシャツのボタンを外していく。
「ちょ……こんなところで……!」
「ホームルーム終わるまでは誰も来ねえよ」
緑川は低くそう囁くと、興奮を散らすように深く息を吐いた。
「だからって……あッ……!」
白鳥の唇と同じ桜色の胸の突起が、外気に触れたことでぷくりと勃ち上がる。
「はあ……」
緑川がまじまじとそれを見ながら大きくため息をついた。
「白鳥――お前、これは反則だろ」
「反則って……?アッ!」
緑川がその突起の一つに唇をつける。
チュッ吸引音がして、さらにいやらしい愛撫の音が響き渡る。
「あ……ああッ……!」
白鳥の足が開き、もう一つの緑川の手が、白鳥の股間を包んで
擦り上げる。
「だ……ダメって!先輩……!!」
「いやなら殴れって言ったろ……?」
緑川が白鳥の胸元から睨み上げる。
「………ッ」
白鳥は自分の口を両手で塞ぎ彼から目を逸らすようにそっぽを向いてしまう。
「――続けるぜ?」
緑川がまた突起を吸う。
今度は激しく、強く。
「……んんッ……!ふ……うッ……!」
白鳥の腰がガクガクと震え、緑川に弄られている股間が少しずつ形を帯びていく。
(――何だこれ……)
青木の膝がブルブルと震える。
(俺は今、何を見せられているんだ……!)
背の高い黒髪クールなイケメン。
華奢な金髪美少年。
刺激的なセリフ、
艶っぽい音。
興奮を抑えられない強引な攻めと、
戸惑いながらも感じてしまう受け。
今まで何十何百と読んできたBL漫画のシチュエーションが、目の前で実践されている。
緑川のもう一つの手が、白鳥のベルトにかかった。
「先輩……ッ!」
そのとき、
キーンコーンカーンコーン。
予鈴が鳴った。
「………いいかげんにしてください!」
白鳥が緑川を突き放す。
(………ナイスタイミング!)
青木は拳を握った。
危機一髪。
本当にギリギリだった。
(いやこれ、ギリギリアウトじゃね……?)
「白鳥」
立ち去ろうとする白鳥に、緑川は低い声で言った。
「改めてちゃんと話がしたい。今夜8時に部屋に行くから待ってろ」
(……なッ!)
青木は目を見開いた。
(ダメだ……!白鳥!断ってくれ……!)
しかし――。
「わかりました」
白鳥は小さな声で答えた。
「……俺も、このまま流されるのは嫌なので」
(――馬っっっ鹿野郎……!!)
青木は白鳥を睨んだ。
(お前、口だけ立派な流され侍じゃねえか!!そのままメス堕ちするだろうが!)
「……(おい)」
赤羽が青木の腕を引く。
「……(行くぞ!)」
白鳥と緑川がこちらに向かって歩いてくる。
青木と赤羽は足音が立たないように廊下を駆け抜けた。
(やばいやばいやばいやばい……!)
赤羽の全速力について行くのが辛くて肺は燃えるように熱いのに、
(どうする……俺!どうする……俺……!!)
背中は冷水を浴びたかのようにひんやりと冷たかった。