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「……」
お、男の子が隣にいる!歩いてる!
緊張して仕方ない。だって、今まで恋人こそいれど、なんかこれじゃない感ですぐ別れたし、専門学校時代、婚活?的なのに行って、男の人とデートしたこともあったけど、その人のこと好きになれないって言うか…..。多分、私恋愛向いてないんだよな。そんな私の隣に!!
「なぁ、あんた、見たところ俺とそう歳変わんねぇけど、最近引っ越してきたの?」
気を遣ってくださった〜!!
「はい。今日引っ越して来たところで。年齢は20です。シン…さん?は、おいくつなんですか?」
「俺?21。ふーん。引っ越して来たんだ。…..まぁ、新生活楽しめよ」
「ありがとうございます。シンさんみたいな人がご近所さんだから、とっても楽しめそうです」
「、そ、うかよ。俺のことシンでいいよ。あんたなんて呼んだらいいの」
へっ?!
「ゆ….ゆう、と、呼んでください….」
「ゆうね。家、あそこ?」
あ、あわわわ….名前を呼ばれてしまった…。この時間がずっと続けばいいだなんて思ったけど、やっぱり心臓もたないからこれくらいがちょうどいいかもしれない!
「はい。2階なんです」
「ふーん…..持ってくよ」
「え、いいんですか?….も、申し訳ないです、」
「いやいや、階段何往復もしないといけないの大変だろ」
「ありがとうございます…..」
シンくん…は、私よりも随分と背が高いから、目を見つめようとすると上目遣いになる。….しまった!私前の彼氏に上目遣いしたら、” なんで睨むの “ って言われたことがあったんだ!はい嫌われた!失敗した….。
「…..っははっ、なんだよ、あんた」
え?ん?どうして笑ってるんだ?何か面白いことを言ったのか私は?
「いや、はは、なんでもねぇ」
カンカン、とアパートの階段を登って鍵を開ける。
「すみません、こんなところまで。助かりました」
「それなら良かった。じゃあ、気をつけろよ」
シンくんはヒラヒラと左手を振って帰って行った。気をつけろ?何に?こんなに一度に買い物するな、自分の力量を理解しろってことかな?…..ご最もです。
私は買った物を順番に家の中に入れた。キッチンが入ってすぐで助かったし、坂本商店から家が近くて良かった。….シンくんにも、出会えたし。シンくんは優しいしかっこいいから、きっと彼女がいる。仮に居なかったとしても超人気者だろう。近所のお姉様方にきゃあきゃあ言われるに違いない。だから、私は余計な期待はしない。けど。心で思っている分にはいいじゃないか。
やっと食材を仕舞い終わって、パタンと扉を閉めた。鍵….はいいや。面倒だし。鍵閉めると開けなきゃいけないんだよね。当たり前か、とツッコミを入れながら、まずは昼食作りに取り掛かった。
お米は1合炊いて、必要であれば追加すればいい。お米があれば生きていけるし。いざご飯を作ろうと思うと、味噌汁が欲しいなとか、ふりかけが欲しいな、とか思うのはなんなんだろう。
お米が炊ける間、何をしようか。なんだか胸がいっぱいでおかずを食べる気にもなれないから、ケチャップご飯にでもしよう。
あ、そうだ。今日の買い物を家計簿につけて、と。初めての一人暮らし。何をしたらいいか分からないけど、とりあえず、母がやっていたことを真似してみよう。
それからニュースをつけて….
” 昨日 東京都〇〇の××ビルが倒壊しました。近隣の住民へは避難を呼びかけ、今は撤去作業にあたっています “
うへぇ。大変だなぁ。あ、そうそう。もう少し余裕が出てきたら、動画配信サービスもこのテレビにつけたいんだった。ミステリー映画とかアクション映画とか観たら最高だろうなぁ。抹茶ラテ片手にカーテンを締め切って、1人だけの充実空間!これぞ一人暮らしの醍醐味ってもんじゃない?
あ、そうだ。
これからしてみたいことをリスト化しておこう。まとめ買いした時楽だもんね〜。
そんなこんなで、ニュースを垂れ流しながら机に向かう時間があっという間に過ぎて行った。
よし!こんなもんだろう!と、顔を上げた時にはニュースの内容とお姉さんがすっかり変わっていて。
” 夕方のこの時間からは、東京駅前にできたスイーツ店を紹介します!”
テレビには、キラキラとしたスイーツが画面いっぱいに並んでいた。桜に抹茶。いちご。春から夏を感じさせるお菓子がたくさん。ケーキか。しばらく食べてないなぁ。そもそも、甘いものをすごく食べたい!って性格じゃないのもあるかもしれないけど。仕事の帰りにでもちょっと立ち寄ってみるのもありだな。
だって一人暮らしだし。親が心配するとか考えなくていいし。それに、今までインドアだったけど、それは家に物があって充実してたからで、なんもない部屋でいるより、外で歩いた方が健康的だよね。座るとよく目立つ自分の下っ腹や太ももの贅肉を摘む。
次の日。仕事のあと、昨日ニュースで言ってたスイーツ店を覗いて見た。
お客さんたちはスイーツ同様キラキラして
いて、オシャレなお姉さんに、あとはカップル。子連れ。こんな所に子連れで来られるなんて、リッチだなぁ。私は一通り見て、値段にギョッとして地下鉄に戻った。今めちゃくちゃ食べたい訳でもないから、また今度。気が向いた時に…..。
帰宅ラッシュに入った時間帯なので、電車の中は混んでいた。駅から最寄り駅まで短いとはいえ、ぎゅうぎゅうなだな。皆さんお疲れ様です…..。
最寄り駅に着いても駅の中をぐるぐる探索していたら、紺色の空にぽっかりお月様が登っていた。遅くなってしまったが、一人暮らしなので問題ない!あとは帰って寝るだけだし。
と思いながら角を曲がると、すごい勢いのチャリ?原付?バイク?が私の目の前を突っ切って行った。あれ、速度大丈夫なんだろうか。こんな家の近くで、警察のお世話になる人いないと信じたいんだけど。….意外と治安が悪いのか?そういえば、乗ってた人、なんか一瞬だけお大事に見覚えが…..。もう一度姿を見ようとした時には、原付だかバイクだかはいなくなっていた。
「君。ちょいとごめんよ」
私に声をかけてきたのは、2人組の警察。イケメンでは無いけど、40代くらいの男性。
「どうしましたか?」
「うん。あのね、君今仕事帰り?」
「そうですけど…?」
街頭と、家の明かりがポツポツしかないところで声かけられるなんて怖いな。事件かな。ひったくりとかいそうだもんね、この辺。….いや。完全に偏見だし、坂本商店付近の人たちはそんな事しないかもしれない。
警察の人はお互いに顔を見合って私を見た。え?私、何かしちゃいけないことしました?
警察の人たちは私を挟むようにして並んだ。そして、私の口に布を当てて…..。
あ、これ、漫画で見た事ある!息吸っちゃいけないやつ!ど、どうしよ….息止めたからって、えっと、えっと….気絶したフリしておこう!
私は高校演劇で培った技で、足から順番に力を抜いて行った。腕の下に手を入れられて、足も持たれて、身体が宙に浮く。これは….誘拐だ!!確実に誘拐される!拉致られる!!
どうしよう、誰か、えぇっと、えぇっと、
車の鍵を開ける音がピッと聞こえる。目を閉じていてもわかる。これは良くない!車に乗せられたら、帰って来られないじゃないか!
バンッと戸が閉められて、足つま先にドアが当たる。後部座席に横にさせられたんだ。でも、向こうは運転席と助手席に座らなきゃいけないはず。逃げるなら、今しかない!
何故か拘束されていなかった手足で、足側の戸を開ける。グワンと車が動いて、身体が揺れる。怖いけど、車は走り出しが1番遅い!
コンクリ目掛けて飛び出して、慌てて走ろうとする。冷静になってみれば、出るのは頭があった、運転席の後ろの方が良かったかもしれない。だって、こうやって助手席の奴に捕まってしまうんだから。
「どこ行こうってんだ?!」
この人たち、絶対警察じゃない!
右の足首を掴まれて、助けを呼ぼうにも声が出なかった。
たすけて だれか
抵抗もできない。もう、すぐに運転席の奴も降りてきてしまう。どうしよう、どうしよう、
バンッ!!
と聞こえて、フッと影が落ちた。見上げると、車の屋根の上から黄色い髪をなびかせた人が飛び降りて来る。人は、私の右の足首を掴んでた奴の上に着地して、
「ぐぇっ?!」
と悲鳴が聞こえた。
「立てるか?」
手を差し伸べてくれたのは、昨日もお世話になった、
「シン、くん、?」
「おう。怪我は?」
まるで白馬の王子様だ。….いや、正確には白馬じゃなくて車だったし、飛び降りて来たけど。
「ない、です….大丈夫、ありがとう….」
「なら良かった」
シンくんの頼もしい左手に手を重ねて、立ち上がろうとすると、
「!、」
左足首に鈍い痛みが走る。多分、さっき飛び降りた時無茶な角度をしたんだろう。そういえば、私の足にひねり癖があったのを忘れていた….。
「どっか痛むか?やっぱ怪我してたんじゃねぇか」
仕方ねぇなぁ、と、シンくんは私の右手を離すと、左手を私の腰の下に滑らせて、右手を太ももの下へ滑らせた。そして、ひょっと身体が軽くなって、シンくんとの距離が、
「ち…..かい、です….」
「歩けねぇんだろ?」
私の背は、屋根が地味に凹んだ車の高さくらいで、ここここれはいわゆる、お姫様抱っこというあれでは?!
緊張で息が止まり、身体全身に緊張が走る。シンくんに呼吸音が聞こえてしまいそうだ。
「….あんたさぁ、気をつけろって俺言ったよな?」
「…….」
私の悪い癖なんですが….こういう時、石みたいに固まってしまうんですよね….。シンくんを大人しく見上げることしか出来ない私に、シンくんは歩き出して続けた。
「良かったな。坂本商店からそんな離れてなくてよ」
「……..」
え、あれ?私助けてって言いましたっけ?こんな夜で、よく見つけられたね….
「そりゃ、見つけるだろ。あんたの声がしたら」
「……こ、え?」
「あー……」
シンくんは、罰が悪そうに目を逸らす。
「なんでも」
それからシンくんと目が合わないまま、アパートの階段前まで運んでもらってしまった。あ。私、そうだ、本で読んだことがある。
「……肩に、手、回してもいいですか….」
「え?あー…….うん…..」
体重が全部腕に行くよりいいはずだ。だって我45kgぞ?!重いぞ?!
シンくんの肩に手を回すと、さらに距離が縮まって、なお呼吸ができなくなる。階段を登るだけなのに、何故かすごくすごく長い時間に思えた。
「鍵ある?」
「あ、いえ、大丈夫、もう、歩ける、」
「そ」
片手が壁に着くよう、シンくんはそっと私を下ろしてくれた。…..けど、まだ足首に力が入らない。これは困った。今夜はシップを貼ろうか….。
「あー、鍵、貸して」
「え、」
シンくんは戸惑う私から鍵を奪うと、ガチャっとドアノブをひとひねり。
「ほら」
「あ、ありがとうございます….」
左足を庇いながら入ると、シンくんは少しホッとしたような顔を見せた。
「じゃ」
「あ、ま、待って!あの、なにか持ってって、」
慌てて靴を脱ごうとすると、
「いーいー。休めよ。鍵、挿しとくから」
「で、でもお茶かなにか、1本でも、」
「あー…..坂本商店で渡して。お大事に」
ぶっきらぼうにドアを閉めたシンくん。背中にお月様を背負って、すごくかっこよかった。と思ったら、もう1回ドアが開いて。
「鍵閉めて寝ろよ!」
また出て行ってしまった。呆気に取られていた私の顔は、さぞ火照っていたことだろう。