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克巳さんとは会議が終わってから、話をちょっとだけして終わってしまった。
『克巳さん、これからのことを二階堂と話してくるから、先に帰ってていいよ。お疲れ……』
「稜?」
『何? 相田さん』
「慣れないことをしたから、疲れているんじゃないかと思って……」
言いながら、俺に右手を差し出しかけたのに、慌てて戻す姿を見て、触れて欲しいという言葉を飲み込むのが、どんなに辛かったか。
事務所の若い女のコと喋ってる暇があるなら、俺だけを見ていて欲しかったなんていうワガママも一緒に、心の中で渦巻いてしまって――
(きっと今、酷い顔をしているのかもしれないな)
だから疲れているんじゃないかって、克巳さんに指摘されちゃったんだ。得意のポーカーフェイスが崩れるって、どんだけメンタルが弱っているんだろう。
一旦、両目を閉じて深呼吸を数回。落ち着いたところを見計らって目を開き、克巳さんを見上げた。
「まあね、ちょっとだけ疲れているかも。でも今から疲れていたら、最後まで持たなくなっても困るし、話が終わったらすぐ帰ることにするよ。じゃあね」
にっこりと微笑み、踵を返して二階堂のところに向かう。一刻も早く、克巳さんの視界から消えなきゃ。これ以上、心配かけさせたくない。
俺のことを一番愛している人に、要らない嫉妬をした醜い心を、見せたくはないと思った。