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「あっ!お姉ちゃん!!!」


「ロイル!?」



20分ほど歩いたところでロイル君とローナさんは感動の再会を果たした。ちなみにローナさんも探し回っていたようで、町のあちこちを動き回る彼女のもとへロイル君を連れたままたどり着くのはとても難しかった。


ようやくローナさんが彼女たちの家と思われるところで留まってくれたことによってこの再会を果たすことが出来たのだ。本当に人探しはすれ違いに気をつけろっていうのを身に染みて感じたよ。



「…本当に心配したんだから」


「お姉ちゃん、ごめんなさい!!!」



ようやくお姉ちゃんと再会できたことでほっとしたのかロイル君はローナさんに抱きしめられながら泣き出してしまった。ロイル君を抱きしめているローナさんのその姿からは以前見た時とはまた違う印象を感じた。



「…あなた、確かこの前の作戦でいた…」


「はい、Eランク冒険者のユウトです。あの時はお世話になりました」


「いえ、あの時も…そして今回もこちらが助けてもらいましたね。ありがとうございます」



彼女はロイル君を抱きしめながら俺に対して会釈をする。

それを見たロイル君も僕の方へと向き直ってお姉ちゃんと同じくお辞儀をした。



「あの…夕飯まだでしたら、うちで食べていきませんか?」


「えっ、そ、それは申し訳ないですよ」


「…お礼もしたいですし、ぜひどうですか?」


「お兄ちゃんも一緒に食べようよ!」



ローナさんの善意に加えてロイル君の無邪気な笑顔を見せられたら断れないじゃないか…

というわけで、俺はローナさん宅の夕食にご一緒することとなった。






=====================






「…もう少しで出来ますので座って待っていてください」


「分かりました」



そういうとローナさんは奥のキッチンへと消えていった。

俺はとりあえずロイル君や他の3人の兄妹たちと一緒に食卓の空いた席へと座る。


この家族はローナさん含めて女の子3人と男の子2人、そして母親の6人家族みたいだ。ローナさんがキッチンで夕飯の支度をしている間、他の兄妹たちはとても賑やかにしている。


一人っ子で父を早くに亡くしている俺にとって、こういう家族の賑やかさというのは新鮮だ。



「ごほっ、ごほっ。あら…お客さん、かしら」


「お母さん!!」



賑やかな食卓に隣の部屋からやせ細った一人の女性が顔を見せた。

この人がロイル君の言っていた病気のお母さんなのか。



「初めまして。ローナさんにご招待していただきました、冒険者のユウトと申します」


「あら、これはご丁寧に。初めまして、母のロアーネです」



痛々しいほどやせ細っているが、ローナさんにとても良く似て童顔で可愛らしい感じなのは分かる。とても物静かな感じで文学美少女っていう雰囲気がしている。



「あっ、お母さん!寝てないと…」


「ローナ、あなたに任せっきりだから…ごほっ、私も…ごほっ、ごほっ」


「お母さん、大丈夫?!」



ロアーネさんは話の途中で咳込んでしまい、壁にもたれかかってしまった。

ローナさんは母親を急いで母親のそばへと駆け寄って体を支える。


俺も一緒にロアーネさんの体を支えて二人でベッドへと運ぶ。

ゆっくりと寝かせると落ち着いたロアーネさんが申し訳なさそうな顔でこちらを見つめる。



「お客さんにこんなことさせてしまって、ごめんなさいね」


「いえいえ、お気になさらずに。ゆっくりしてください」



そういうとロアーネさんはゆっくりと目を閉じていった。

ゆっくりと安定した呼吸をしているのでとりあえずは安心だろう。



「…ユウトさん、ありがとうございます」


「いえいえ、全然大丈夫ですよ」



ローナさんは膝をついてロアーネさんのことを見つめている。



「…実はお母さん、昔から体は強い方ではなかったんですけど3年前に体調を崩してからはずっとこんな感じなんです。冒険者だった父も私が小さい頃に依頼先で命を落としてしまっているので、私が家族のみんなを支えないといけないんですよ」


「でも先日ゴブリン戦で超越種が出てきて、死にかけて…本当に怖かったんです。何より家族を残して死んでしまうことが何より怖かったんです…」



そうしてローナさんはこちらへと向き直って俺の目をじっと見つめてくる。



「…ギルドの報告では精霊が倒してくれたということになっていますけど、本当はあなたですよね?何となく何ですが、そんな気がするんです」


「あの時…私たちは、あなたに命を救われました。本当にありがとうございます」



そう告げるとローナさんは頭を下げる。

ここまで言われると「いや僕じゃないですよ~」なんて誤魔化すことが失礼に思えてしまう。



「いえ、そんな…」



俺は何と返せばいいか分からず言葉に詰まってしまった。

誤魔化すのも出来ず、ましてや謙遜も何だかこの場では違う気がして結局何も出てこなかった。



俺の中途半端な返答のせいかは分からないが、しばらく二人の間に沈黙の時が流れていた。その時にふとロアーネさんの様子が気になり鑑定で状態を確認してみることにした。するとロアーネさんのステータスには『状態:免疫力低下』と表示されている。もしかして体が弱いのはこれが原因なのでは…?



「…すみません、長々と喋ってしまって。今すぐ夕食用意してきますね」



そういうとローナさんは立ち上がってキッチンへと向かおうとする。



「…ローナさん」


「…はい?」



俺は部屋から出ていこうとするローナさんを呼び止めてこう告げる。



「お母さんの状態、良くなるかもしれません」


「えっ、それってどういう…?」



俺はローナさんにロアーネさんの状態とそれを治すことが出来るかもしれない魔法を使えることを告げる。


先ほどステータスを確認した後に免疫力低下という状態異常も魔法で治療可能なのかと全知辞書に尋ねてみたのだ。その返答は出来るとのこと。


それを聞いてローナさんは初めは驚いていたが、話を聞き終わるとすぐに答えを出した。



「…ぜひお母さんが元気になるなら、お願いします。お金ならいくらでも…」


「お金はいいですよ。その代わり、美味しい夕飯をお願いできますか?」


「そ、そんなことでいいんですか…?」


「もちろんですよ!僕としては一食分の食費が浮いて、かつ楽しい時間が過ごせるんですから」



こんな家族のために必死に頑張っている人からお金を貰うのは何だか気が引けるんだよな。それにまあ…、目の前の健気で可愛い女の子を笑顔にしたいという…そんな下心も多少はある、かな?


しかしローナさんにとって無償で施しを受けるというのは僕に対して後ろめたさが多少なりとも残ってしまうかもしれない。だからこそ適当な理由をつけて置くことにした。それに加えて、彼女には重要なお願いもある。



「それと、僕が超越種を倒したっていうことは内緒にしてもらえると助かります。ギルドからの発表が真実だと、そう言うようにしてください」


「…分かりました。約束はちゃんと守ります」



確認も取れたところでロアーネさんのいるベッドへと向かう。

そしてロアーネさんに対して俺は最近覚えたばかりの聖属性の中級魔法『リカバリ』を発動させる。


あのゴブリン戦での教訓を活かして、あの後すぐにこの魔法を覚えていたのだ。やはり覚えていて正解だったな。


魔法をかけ終わるとすぐにロアーネさんのステータスを見て、ステータス画面からは免疫力低下という文字は消え去っていることを確認した。治療は成功である。



「これでもう大丈夫です。次第に体も良くなっていくと思いますよ」


「ありがとうございます…!本当に何とお礼を言っていいか…」


「大丈夫ですよ。美味しい夕飯と秘密を守って頂ければそれで十分ですから」


「…はい!では今日の夕食はいつもより腕によりをかけて作りますね」


「楽しみにしてます!」



ローナさんは目に浮かぶ涙を拭い、張り切ってキッチンへと戻っていく。俺もロアーネさんが大丈夫そうなことを再確認して部屋を後にする。





その後、ローナさんが振舞ってくれた料理は本当にどれも名店に負けないくらい非常に美味しかった。本当に美味しかったのでどんどん手が止まらず、お腹が少し苦しくなるほど食べ過ぎてしまった。


彼女の兄妹たちもいつもより豪勢な夕飯を見て驚き、とても喜んで食べていた。



みんなでワイワイと賑やかな中食べる夕食は美味しいご飯をさらに美味しくさせて、今日の夕飯は転生してきてから1,2を争うほどの思い出に残るものとなった。



やはり誰かと一緒に食べる食事というのは良いものだな。

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