なんて考えてたらあっという間に3日経ってしまった。どうしよう。今日までなのに……
なかなか外に出るタイミングがないんだよな。桃ちゃんのおかげで。出ようと思っても止められて戻されちゃうんだもん。
よし、今だっ
うわぁっ
「こーら、出ようとしないの。すぐ戻ってくるから。な?」
「いい子で待ってろよ」
また抱っこされちゃった。ううぅ、ガードが強い……
なんてことが何回あったことか。でも、今日は絶対出てやるぞ!そうしないと困るからね。
「っし、行くか」
来た!最後のチャンス!しかも少し遅めの時間だから完璧!
「赤、今から会いに行くからな……」
……え?今なんて?俺に会いに行くって?……それは都合悪いや。
でもそんなこと言ってる場合じゃないよね。考えるのは後にしよ。絶対に出てやるんだからな。
「行ってきま__。っておいっ!」
「待てっ!りい!」
やった!成功した! 桃ちゃんには申し訳ないけど……
でも仕方ないよね?これは桃ちゃんのためでもあるもんね。俺に会いに行くんだよね、桃ちゃん。それまでに病院に着かなくちゃ。桃ちゃんがこの時間に行ったってことは俺の身体が峠を迎えるってことだろうし。それを見守るためだと思うから。何としてでもそれまでに戻らないと。
「くそっ」
なんで逃げたんだ?しかもこんなタイミングで。せめて別の日に逃げてくれよ。ていうかまず逃げるな。探したり届出出すのだるいんだからよ。
でも正直、今はそんなことよりも大事なことがある。一刻も早く病院に着きたい。そばにいてやりたい。何ができるって訳では無いけど少しくらいいい方向に転ぶんじゃないか。なんて淡い期待を胸に、タクシーに乗り込んだ。
「臨海総合病院までお願いします」
この言葉を言うのは何回目だろう。いい加減慣れてきたものだ。最初は現実を突きつけられるようで言えなかったと言うのに。
「……慣れってこえーな」
はぁ、はぁ。
こっちで合ってるよね。だって引き寄せられるんだもん。あ、あれだ、あの建物。
……!桃ちゃん!急がないと!
えーっと、俺はどこだ?……桃ちゃんに着いていくしかない感じ?……仕方ない。
……ゴクリ。大丈夫、だよね?
桃ちゃんにはバレずにここまで来れたから良かった。早くしないといけないけど桃ちゃんが居るからどうしようもない……。
ガタッ ガラガラガラ
桃ちゃん、出ていった。飲み物買いに行ったのかな?今しかない!
「は?」
なんで、リイがここに居るんだよ。しかも赤の上に乗ってやがる。
「おい!リイ降りろ!」
全く持って聞こえていないらしい。くそっ。リイは赤の心臓のある辺りをずっと見つめている。ビクともしない。なぁ、そこには何があるんだ?教えてくれよ。それが赤の大事なものなんだろ?俺だって知る権利あるだろ?
「…え!?」
どういうことだよ。お前らはなんで繋がってんだよ。なぁ!
バタッ
「おい!リイ!」
急に倒れてどうしたんだ!?
とりあえずどいてもらわないと。膝の上にリイを乗っけてみれば規則正しい小さな心臓の音が聞こえてきて。寝ただけかよ。心配させんなよな。
ピクッ
「ん、んぅ……」
!嘘だろ…おい…
「赤!赤!頼む起きてくれ!」
でもさっきのはまぐれかのようにビクともしなくて。
「頼む……」
「……も、もちゃ?」
「赤!」
「……よく、ねたぁ…お、はよぉ」
おっ前は何がよく寝ただよ。どんだけ心配したと思ってんだ。
「よかった……起きてくれて……」
でもそんなことを口に出す余裕なんてなくて。出てきたのはそんな言葉と涙だけだった。
「桃ちゃんって、優しいんだね」
「は?」
「再確認できたよ」
なんのことだ?文脈が全く掴めん。
「…リイじゃん」
「…リイ、寝てる?」
……おい、ちょっと待て。なんでリイのこと知ってるんだ。こいつを飼い始めたのは赤が入院してからだぞ。
「な、んで…」
「え?なにが?」
「なんでリイのこと知ってんだ?」
……俺こんなに気持ちよさそうに寝てるんだ。でもきっと辛いんだろうな。そうやって隠すからこんなことになるんだよ。
俺は俺の身体の上に乗っかって心臓のあるところを一心に見つめていた。
ねぇ。まだここに居たいんじゃない?だってたくさんの人が待っててくれてるんだから。
アンチなんてこの活動をしてる限り絶対になくならない。でもアンチの何倍もの応援があって、リスナーさんが居るでしょ。人はどうしても悪い方にばかり目がいっちゃうけど、そんなのは何も生まない。ただ不快な思いするだけだよ。ねぇ、リスナーさんの声、メンバーやスタッフさんの声聞こえてなかったよね。あの瞬間は。世界が黒く染ったみたいに何も聞こえない、見えない、そんな世界だったもんね。でも、今はすごく聞こえるし、見えるんだよ。戻ってきて欲しいって言う声。俺のことを心配してるメンバーの顔。
そして、何より毎日俺に会いに行ってた大切な人の声と顔。俺のことをきっと誰よりも理解してくれている大切な人。そんな、人生で1度逢えるかどうかも分からない奇跡のような人を悲しませたままでいいの?
『戻ってきて、俺のとこに』
『次は絶対にこんなことにならないから』
そうだね、戻らなきゃ。俺も戻りたいから。
『俺、これから絶対楽しんでみせるよ』
うん、そうしよ。きっとみんなそれを望んでるから。もちろん俺もね。
おかえり。俺。
そして、ただいま。
ん、んぅ……
……よく寝たなぁ。不思議な体験したな。俺が猫になって桃ちゃんに飼われるっていう。なんかすごい幸せだったんだよね。
「…!……か!た…お……れ!」
あれ?この声って…。
「頼む……」
ああ、起きないと。心配させちゃう。
「……も、もちゃ?」
うわっ、声めっちゃ掠れてるじゃん。
「赤!」
「……よ、くねたぁ…あ、おはよう」
起きた時の挨拶は大切ですからね。
ってあれ?なんか怒ってるのか泣いてるのかわかんない顔してる。
「よかった……起きてくれて……」
そっか、俺長い間眠ってたもんね。でもね、その間に桃ちゃんのこともっと好きになったんだよ。本当に優しくて暖かくて落ち着くんだ。桃ちゃんの隣は。
「桃ちゃんって、優しいんだね」
「は?」
まぁ、なんの脈絡もないからそうなるよね。すっごい間抜けな顔してるもん。なかなか見ることできない顔だよ。
でも、絶対に言わないからね。
「再確認できたよ」
なんて、言ったけどほんとは初めっから知ってたんだろうな。
あ、桃ちゃんの膝の上に居るのって……
「…リイじゃん」
「リイ、寝てる?」
まぁそうだよね。ここまで俺のことを運んでくれたんだもん。疲れたよね。
おつかれさま。
「な、んで…」
「ん?なにが?」
何がなんでなんだろ。俺、変なことした?
「なんでリイのこと知ってたんだ?」
あ、やべ。やっちゃった。もう、覚醒したばっかで脳が回ってないから。
「…ま、いっか」
え、いいの?
「なんかリイと赤が繋がってたっぽいことはわかったし」
「え!?」
え?嘘、なんで?
「な、なんで?」
「飲み物買おうと思って部屋を出たけど財布忘れてたことに気付いて戻ってきたんよ。そしたらリイがお前の心臓があるところを一心に見つめてたから」
「しかもその後青い光?みたいなのが赤とリイの心臓から出て繋がってるし」
「それが切れたと思ったらリイはぶっ倒れるし」
……そんなことになってたの。ていうか居たの!?気付かなかったんだけど。
「まぁそんなの見てたらさっきのも納得いくわな」
あ、はははは。
「それよりも大事なことがあんだよ」
う、わかってるから。
「急に飛び降りたりしてごめんね」
ごめんね、ほんとに。俺どうかしてたよ。
「なんで飛び降りたんだ、ってまぁ分かるから聞かないどくけどさ」
ほんと、最高の理解者だね。でも、だからこそ伝えないとね。
「俺、さ。突然アンチが増えたときほんとに怖かったんだ。周りなんて見えなくなって。全部が悪口に聞こえて。」
「励ましの声も応援してくれてる声も好きだよって言ってくれてる声も全部。キモイ。話すな。なんで居るんだよ。活動やめろ。なんて言葉に見えたんだ」
「そんなの怖くなるに決まってるよね。世界が黒く染まっていくんだ。何も見えないし聞こえない。出口も見当たらない。それで生きてる意味を見失っちゃって」
「どうしてここに居るんだろう。居る意味はあるのかな。みたいなことを考えるようになっちゃって」
「そんな時に思っちゃったんだ。今、死んじゃったら開放されるのかなって」
「ほんとにごめんね。飛び降りなんて考えて実行して。今じゃ後悔してるよ」
「眠ってた長い間、もっと有効に使いたかった。歌みた録って、みんなでゲームして、楽しく話して。桃ちゃんと1秒でも多く一緒に居ればよかったなって」
「でも、これはたまたま死ななかったから思えることなんだ。あの時死んでたらきっと後悔してた。だからもう絶対に未来を見失うようなことがあってもやらない。みんなに相談して対応していく」
これは桃ちゃんには鎖になるだろう。でも不思議と大丈夫だと思える。だから伝えるね。
「だからさ、絶対に俺のこと手放さないでね」
コメント
1件