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「気づいたときには、もう好きだった」
晴れた夏の午後、りことげんたは公園の大きな木の下で一緒にかくれんぼをしている。
りこは笑いながら、げんたを探していて、げんたは木の陰からそっとりこを見守っている。
「げんた、どこにいるのー?」
「ここだよ、りこ!」
二人ははしゃぎながら駆け回り、まるで何も変わらない日々がずっと続くように感じていた。
カーンとチャイムが鳴り、夏休み前の最後の授業が終わる。
りこは隣の席のげんたにノートをそっと渡しながら、「あ、ありがとう」と笑顔で言う。
げんたは少し照れくさそうに「いつも助かってるよ」と返す。
二人は幼なじみの安心感から、恋だとまだ気づかずにいる。
放課後、教室を出て校庭の木陰でふたり並んで歩く。
りこは少し小声で、「げんたって、いつもみんなの中心だよね。すごいなぁ」
げんたは照れくさそうに笑いながら、「そんなことないよ。でも、りこがいるから頑張れるんだ」
りこは顔が赤くなって、「え…そ、そうなんだ?」と目をそらす。
げんたは真剣なまなざしで、「本気だよ。いつもありがとう」
二人は学校の帰り道、公園のベンチに座っている。
りこがふと、「ねぇ、げんたはさ、将来のこととか考えてる?」と聞く。
げんたは少し考えてから、「うん、でも正直、何がしたいかまだはっきりしてない。でも、りことならどこにだって行けそうな気がする」と目を見て言う。
りこは胸がドキドキして、「げんた…」と言いかけて、照れて言葉を飲み込む。
げんたはそんなりこの様子に気づき、「変なこと言った?」と笑う。
りこは顔を上げて、「ううん、何でもない」と小さく笑う。
りことげんたはクラスの文化祭の準備で、一緒に装飾をしている。
りこが「ここ、もう少し明るくしたほうがいいかな?」と不安そうに言うと、げんたは「りこが決めたら絶対いい感じになるよ」と優しく励ます。
その言葉にりこはふっと笑顔になって、「ありがとう、げんた」
作業の合間に、げんたがふいに「ねぇ、りこって、俺のことどう思ってる?」と真剣な表情で尋ねる。
りこは驚いて一瞬黙るが、目を見て「…大切な人」とだけ答える。
げんたはほっとしたように笑い、「俺もだよ」とささやく。
夜空の星を見上げながら、りこがぽつりと「げんたって、昔から変わらないよね」と言う。
げんたは照れくさそうに笑いながら、「そうかな?りこもずっと優しいし」
りこは少し間をあけて、「…時々、なんで私はげんたのこと、こんなに気になるんだろうって思うんだ」
げんたは真剣なまなざしで、「俺も、りこのこと考えちゃう時がある」
二人の間に少しだけ静かな時間が流れて、まだ言葉にはできないけど確かに何かが変わっていることを感じる。
文化祭が終わって数日後。
げんたは忙しくなって、部活の練習や友達との約束が増えていく。
一方、りこは何となくげんたに連絡しても返事が遅くなったり、話す時間が減っていくことに不安を感じている。
ある日の放課後、りこが「ねぇ、げんた、最近ちょっと冷たい?」と聞くと、げんたは「そんなことないよ、忙しいだけだ」とだけ答える。
でも、心のどこかで距離ができていることを二人とも感じている。
りこはいつものように帰り道でげんたを待っていたが、げんたは別のグループの友達と一緒に先に帰っていた。
その翌日。
りこが、「最近いつも他の子たちと一緒にいるね」と、少し拗ねたように言う。
げんたは驚いた顔で、「え?別に普通にみんなと喋ってるだけじゃん」
りこは下を向いたまま、「私といる時は、もっと楽しそうだったのに…」
その言葉に、げんたも少し苛立って、「そんな言い方すんなよ。全部合わせてられないよ」
しばらく沈黙が流れ、りこは「…そっか、ごめん」とだけ言って、その場を離れてしまう。
文化祭からしばらくして、距離ができたままの日々。
ある日、りこはげんたが他の女子とふざけて笑ってるところを見て、胸がざわつく。
その日の放課後、ついに堪えきれず、りこが静かに言う。
りこ「…ああやって、誰にでも優しくするんだね。私だけじゃないんだ」
げんた「なんだよそれ。勝手に決めつけないでくれよ」
りこ「じゃあ、私の気持ちは? ずっと一緒にいたのに…最近のげんた、全然見えない」
げんた「俺だって、りこのことばっかり考えてたわけじゃない!プレッシャー感じてたよ…ずっと“特別”って思われてるのが怖くて、何も言えなかった!」
りこ(泣きそうな顔で)「…だったら、最初から優しくしないでよ」
静寂。
教室に夕焼けが差し込むなか、二人は言葉をなくして立ち尽くす。
それ以来、りことげんたは話さなくなった。
同じ教室にいても、視線は合わず、話すこともない。
周りの友達は気づいているけど、気軽には何も言えない空気。
休み時間。
りこはノートを見ながらも、ページが全然進まない。
げんたは教室の後ろで友達に囲まれて笑っているが、その目はどこか虚ろ。
──放課後。
一人で帰るりこ。いつも一緒だった道を、今日はイヤホンをして歩く。
げんたも別の方向から歩いていて、ふと角でばったり出会う。
一瞬、目が合う。
でも何も言えずに、すれ違っていく。
りこ(心の声)
「バカだな、私。こんなことで…」
げんた(心の声)
「言えばよかった、素直に。本当はずっと…気になってたのに」
すれ違う背中が、夕日に照らされて遠ざかっていく。
数日後、雨の放課後。
りこは静かな図書室で本を読んでいた。
そこに偶然、雨宿りにやってきたげんた。
お互いに気まずく視線がぶつかる。
げんた「…あ、ごめん。誰もいないと思って」
りこ「…別に、いいよ」
しばらく沈黙。
雨音だけが静かに響く中、げんたがぽつりと。
げんた「りこ、あの日…本当はちゃんと話したかった」
りこ(少し驚いたように)「私も…でも、怖くて。言ったら、何か壊れそうで」
げんた(目をそらしながら)「壊したくなかった。けど…ずっと黙ってる方が、よっぽど壊れてたんだなって思った」
沈黙のあと、二人はほんの少しだけ、お互いの気持ちに近づいたような、そんな目をする。
雨の日以来、りこは図書室に来るようになった。
ある日、蓮がりこに話しかける。
蓮「最近、よく来てるね」
りこ「うん。静かなところ、落ち着くから…」
蓮「無理してない? なんか、元気なさそうに見えたから」
りこ(ちょっと驚いて)「…見えてた?」
蓮「わかるよ。俺も、似たような気持ちになったことあるから」
優しく微笑む蓮。
その穏やかさに、りこはふっと肩の力を抜く。
──それを偶然、教室の窓から見ていたげんた。
げんた(心の声)
「…誰だよ、あいつ。
りこが…笑ってる。あんな風に、俺じゃない誰かと」
図書室でのりこと蓮の姿を見たあと、げんたは一人で教室の窓際に座っている。
友達が「おーい、げんたー!帰ろーぜ!」と声をかけるが、「…ごめん、ちょっと先行ってて」と断る。
教室に残ったげんたは、りこの机をふと見る。
その上には、最近読んでいた本と、図書委員のバッジ。
心の中がざわついて、抑えきれない思いが浮かぶ。
げんた(心の声)
「何してんだよ、俺…
ちょっと距離ができたくらいで、りこが誰かと話してただけで、こんなにモヤモヤするなんて。
…あいつ、ちゃんと笑ってた。
俺より…あいつの方が、今のりこには合ってるのかもしれない」
拳をぎゅっと握るげんた。
でも──口には出さない。
げんた(心の声)
「バカみたいだな。
今さら気づいても、もう遅いのかもしれない」
りこは今日も図書室で静かに本を読んでいる。
そこに自然な感じで蓮が座ってくる。
蓮「これ、好きだったよね? 新刊入ってたよ」
りこ「あ、ほんとだ…ありがとう、蓮くん」
本の話から、日常の小さなことまで、少しずつ話す内容が増えていく。
どこか安心できる蓮の存在に、りこも少しずつ心を開いていく。
帰り道。
蓮と一緒に校門を出るりこの姿を、遠くから見つめるげんた。
げんたの隣にいた友達が言う。
友達「おい、あれ…りこじゃね?隣、あの蓮ってやつじゃん。最近よく一緒いるな」
げんた「…別に。関係ないし」
でも、拳はポケットの中で強く握られている。
──その夜。
家に帰ったげんたはスマホのチャットを開いて、りこの名前をタップする。
だけど、何も打たずにそっと閉じる。
げんた(心の声)
「何してんだよ…
りこは、俺が“関係ない”って言った通りの場所に行こうとしてるだけじゃん」
ある日、りこは図書館で勉強していた。
すると偶然そこに蓮が現れる。
蓮「やっぱり来てた。ここ、りこが好きそうだなって思って」
りこ「うん…落ち着く場所だから」
蓮はさりげなくりこの勉強を手伝ってくれる。
ふとした仕草や表情に、やさしさがにじむ。
休憩の時間。
図書館を出て、近くのベンチに座る二人。
蓮「りこってさ、自分の気持ちを言うの、ちょっと苦手だよね」
りこ(驚いて)「えっ…なんでそう思ったの?」
蓮「なんとなく。でも、無理に言わなくてもいいよ。俺が気づけるようになるから」
りこの頬が、ふっと赤くなる。
その瞬間──
りこはふとげんたの顔が脳裏に浮かぶ。
でも、すぐにかき消すように微笑む。
りこ「ありがとう、蓮くん。…そう言ってもらえて、嬉しい」
──その日の夜、
りこはスマホを見つめて、げんたからの連絡が来ていないことにふと気づく。
でも、それを深く考える前に、蓮から「今日はありがとう」のメッセージが届く。
りこは、少しだけ笑って「こちらこそ」と返信を打つ。
げんたは友達と映画を観た帰り道。
人通りの多い駅前で、ふと目に入ったのは──
本屋の前、並んで歩くりこと蓮の姿だった。
二人は笑って話してる。
りこは、少し照れたように蓮を見上げながら、何かを話していた。
その笑顔は、げんたの知ってる”昔のりこ”そのものだった。
でも、それが今──自分じゃない誰かの隣にある。
げんた(心の声)
「……なに、してんだよ俺。
なんで、今こんなに、胸が痛ぇんだよ」
友達が「どうした?」と声をかけるが、げんたはそのまま立ち止まり、無言で目を逸らす。
スマホの通知が鳴る。
でも、りこからじゃない。
その瞬間、
げんたはポケットの中でスマホをぎゅっと握りしめ、
小さく吐き出す。
げんた「…おっせーんだよ、俺」
げんたはベッドに寝転びながら、スマホの画面にりこの名前を表示させている。
連絡する理由なんて、今さら見つからない。
でも、声が聞きたくて、画面から目が離せない。
げんた(心の声)
「今さらなんだよな。
俺がちゃんと向き合わなかったくせに、
いざ離れていくのを見たら…こんなに苦しいとか、ズルいよな」
画面の“メッセージ入力欄”に、ゆっくりと指が動く。
「元気か?」
「最近、蓮と仲いいよな」
「…まだ、俺のこと考えたりする?」
全部、打っては消して。
指先は止まったまま、結局何も送れない。
ため息と一緒に、スマホを胸の上にポンと置く。
げんた「……バカか、俺」
その夜、寝つけずに夜更けまで天井を見上げる。
次の日。
登校してくるげんた。
りこと廊下ですれ違うが、ほんの一瞬、視線を交わしただけ。
言いたいことは山ほどある。
「元気そうだな」
「ちゃんと食ってるか?」
「俺、ほんとはまだ──」
だけど、すべてが喉でつかえて、何も言えない。
りこは、小さく微笑んで会釈する。
げんたも、それにそっと頷くだけ。
二人の距離は、縮まることなく、ただ静かに交差していく。
りこはベッドの上で、蓮から来たメッセージを見つめていた。
蓮「明日、もしよかったら放課後また図書室で会えない?」
丁寧で優しい文面。
ちゃんと想ってくれてることが伝わる。
でも──なぜか、りこの心は少しだけ重かった。
りこ(心の声)
「どうしてだろう。
蓮くんのこと、嫌いじゃないのに。
一緒にいると安心するのに…」
スマホを置いたあと、自然と目を閉じる。
そのまま、無意識に浮かんできたのは──
昔のげんたの笑顔だった。
「なありこ、これ絶対やってみようぜ!失敗しても大丈夫、俺が笑わせてやっからさ!」
ちょっとバカで、強引で、でもいつも隣にいてくれた。
“言わなくても通じる”って、そう思ってた。
でも今は──
言葉にしなきゃ、何も伝わらない。
りこ(心の声)
「げんたは…今、何考えてるのかな」
蓮と並んで、本を読んでいるりこ。
でも、目はページを追っているようで、内容はまったく頭に入ってこない。
ふと蓮が静かに言う。
蓮「最近のりこ、なんだか心ここにあらずって感じだね」
りこ(驚いて)「え…そんなこと…ないよ?」
蓮「俺、焦ってたのかも。
りこが誰かを想ってるって、どこかでわかってたのに──
その“誰か”に、俺がなれたらって思ってた」
りこは言葉を失う。
蓮「もし俺の言葉が重いなら、ごめん。
でも…ちゃんと知ってるよ。りこが、本当はまだ“誰か”を忘れてないってこと」
沈黙の中、窓から夕焼けが射しこむ。
りこは、何も言えないまま目を伏せた。
図書室のあと、りこと蓮は駅までの帰り道を歩いていた。
途中の公園で立ち止まる蓮。
風が少し強くなって、木の葉が舞う。
蓮「…ねえ、りこ」
りこ「うん?」
蓮は少し笑って、でも真剣な眼差しでりこを見つめる。
蓮「俺、りこのことが好きです」
蓮「ずっと、そばにいたい。
不安なときも、笑ってるときも、全部支えたいって思ってる。
だから──俺と、付き合ってください」
一瞬、時が止まったように静かになる。
りこは、蓮の顔を見つめ返す。
脳裏に一瞬、げんたの声と笑顔がよぎった。
でも──口から出た言葉は、違っていた。
りこ「……うん。
私でよければ、お願いします」
蓮の目が、驚きと喜びで揺れる。
蓮「……ありがとう。絶対、後悔させないから」
優しく微笑む蓮に、りこはぎこちなく笑い返す。
──でも、りこの心の奥で、
なぜか小さな「チクリ」とする痛みが消えなかった。
窓の外を見つめるげんたのスマホに、通知がひとつ。
SNSのストーリー:蓮
「大切な人ができました」
写真には、夕焼けの中で並んで歩く、りこと蓮の後ろ姿。
ハッシュタグには「#ありがとう」「#これから」とあった。
げんたは、言葉もなくスマホを伏せる。
そして、小さく、ぽつりと呟く。
げんた「……もう、遅いのか」
その横顔は、初めて見せたような、ひどく大人びた表情だった。
スマホを伏せたまま、天井を見つめているげんた。
部屋の中は静まり返って、時計の秒針だけが響いている。
でも──
胸の中は、嵐みたいにぐちゃぐちゃだった。
げんた(心の声)
「何してんだよ、俺。
見てるだけでいいなんて、そんな強くねぇし。
りこが誰かと笑ってんの、見てられねぇし。
あいつの隣が、俺じゃないってだけで……こんなに、苦しいなんて思ってなかった」
拳をぎゅっと握る。
その目には、怒りと悔しさ、そして覚悟がにじんでいた。
げんた(声に出す)
「……絶対、伝える。
ちゃんと、自分の気持ち全部。
遅くても、バカでも、
やっと、動くから──覚悟しろよ、りこ」
朝の教室。
りこは、いつも通り静かに席に座っていた。
そこへ、真っすぐな目でげんたがやってくる。
今までとは明らかに違う、その表情にりこは驚く。
げんた「りこ。
今日、放課後。
絶対、時間作って。
……話したいこと、ある」
一言一言に、真剣さがにじむ。
りこは、目を丸くして──
それでも、ゆっくりと頷いた。
りこ「……うん、わかった」
いつもの裏庭の階段。
夕陽が落ち始めて、空はオレンジ色。
先に待っていたりこの前に、げんたがやってくる。
緊張と覚悟の混じった目で、りこを見つめる。
げんた「……付き合ったんだな、蓮と」
りこ「…うん。知ってたの?」
げんた「ストーリーで見た。
……正直、死ぬほど悔しかった」
りこは少し驚いて、目をそらそうとするけど、げんたは続ける。
げんた「なんで…なんで何も言ってくれなかったんだよ」
りこ「…言えるわけないよ。
ずっと隣にいたのに、げんたは何も言ってくれなかったじゃん」
りこ「こっちはずっと、期待して…諦めて…でも、まだ期待して。
バカみたいだったよ」
げんたが、少し唇を噛みしめる。
げんた「……俺だって、怖かったんだよ。
おまえにフラれるのが、
今の関係が壊れるのが、
……自分の気持ちが本気すぎるのが」
りこの目に、じわっと涙が浮かぶ。
りこ「げんたが一言“好き”って言ってくれたら…
あたし、何回だって待てたのに」
げんた「好きだよ。
……ずっと好きだった。
でも、ちゃんと伝えられなかった俺が悪い。
だから今言う。
もう一回、俺を見てくれないか?」
りこは、何かをこらえるように目を閉じる。
沈黙が流れる。
そして──
りこ「…今の私は、蓮くんと付き合ってるの。
今さらそう言われても、すぐには…答えられない」
げんた「それでもいい。
それでも、ちゃんと伝えたかった。
俺は──お前の隣にいたい。
今度こそ、ちゃんと、りこを好きだって胸張って言いたいんだ」
りこは机にノートを広げたまま、ペンを動かせずにいた。
窓の外には星が瞬いている。
でも、心の中はまるで曇り空だった。
りこ(心の声)
「げんたの“好き”を、ずっと待ってた。
それが、やっと届いたのに──
今の私は、蓮くんを裏切ることになる」
スマホには、さっきのげんたからのメッセージ。
「焦らなくていい。ちゃんと、自分の気持ち、考えてくれたら嬉しい」
りこはゆっくり目を閉じて──
心の奥にいる、“本当に想っている人”の声を探していた。
蓮とは、変わらず一緒に帰った。
でも、心はもう落ち着いてなかった。
蓮がりこに優しく微笑んで言う。
蓮「最近…りこ、またどこか遠くを見てる気がする」
りこはハッとするが、答えられない。
蓮(静かに)
「もし、俺のところじゃない誰かのことを想ってるなら…
ちゃんと、教えてほしいな」
その言葉に、りこは耐えられず、ふっと目を伏せる。
風が吹く日曜日。
りこは一人、げんたとよく来ていた歩道橋の上に立っていた。
すれ違う人々。
変わらない街の音。
でも──
胸の奥では、なにかが静かに動き出していた。
りこ(心の声)
「誰かに優しくされて、それに甘えることと。
誰かを本当に、心から想うことは──違うんだって。
やっと、ちゃんと気づいたのかもしれない」
スマホを手に取り、震える指で、メッセージを打つ。
「げんた、少しだけ…会えないかな?」
夕暮れの中、木漏れ日が差す並木道。
蓮は待ち合わせの時間に、少し早めに来ていた。
そこに、ゆっくり歩いてきたりこ。
表情は静かだけど、どこか決意がにじんでいる。
蓮「りこ。今日、どうしたの?」
りこ「話したいことがあって……ちゃんと、蓮くんに」
蓮の笑顔が、少しだけこわばる。
りこ「蓮くんは、優しくて、まっすぐで、
私なんかにはもったいないくらいの人だって、何度も思った。
一緒にいると安心できて、楽しくて……
でも、それと“好き”って気持ちは、やっぱり、違ったんだと思う」
蓮の目が、ゆっくりと揺れる。
蓮「……そっか」
りこ「私、げんたのことが、ずっと心のどこかにあった。
たぶん──最初から、忘れられてなかったんだと思う」
沈黙。
蓮(小さく笑って)
「うん、知ってたよ。
りこが本当に誰を見てるのか、最初から気づいてた。
でも、それでも少しでも近づけたら…って、
俺なりに、必死だったんだ」
りこ「ごめんね、傷つけてしまって…」
蓮(首を振って)
「いいよ。好きになってよかった。
りこは、優しくてずるくて、ちゃんと真っ直ぐな人だから」
少し涙ぐんだ顔で、蓮は笑う。
蓮「……行っておいで。
その人のところへ」
りこは、ぎゅっと唇をかみしめて、深く頭を下げる。
りこ「ありがとう、蓮くん。ほんとに、ありがとう」
りこは走る。
心が決まった今、もう迷わない。
“好き”って気持ちは、
「安心」じゃなくて「覚悟」だって、やっと知ったから。
スマホを握りしめて──
げんたの名前をタップする。
あの日と同じ場所。
少し冷たい風が吹いている。
歩道橋の上で、げんたは一人、空を見上げていた。
制服のまま、肩をすぼめて。
何かを信じるように、ただ待っていた。
そこに──足音。
りこ「……ごめん、待たせた」
振り返るげんた。
りこが、ほんの少し涙を浮かべて立っている。
げんた「……来てくれると思ってなかった」
りこ「私、ちゃんと…蓮くんと話してきた。
それで、やっと気づいたの。
誰のことを考えると苦しくて、
誰の言葉で泣いて、
誰の隣で、ちゃんと笑えてたのか──」
ゆっくり近づいていく二人の距離。
そしてりこは、震えながら、でもはっきり言う。
りこ「私……げんたのことが、好き。
ずっと、好きだった。
誰よりも、大事で、大切で──
……でも、気づくのが遅くて、ごめん」
一瞬、風が吹いて、沈黙が流れる。
げんたは、目を伏せる。
でも次の瞬間──
一歩前に出て、りこの手を取る。
げんた「もう一回、言って」
りこ「え…?」
げんた「その言葉。ちゃんと聞きたかった。ずっと、ずっと」
りこは、目を合わせる。
涙がこぼれそうになりながら、もう一度、微笑んで。
りこ「好きだよ。
ずっと、げんたのことが、好きだった──」
その瞬間、げんたはりこをぐっと引き寄せて抱きしめる。
げんた「……やっと、聞けた」
街のざわめき。
沈む夕陽。
二人だけの世界。
こんなに遠回りして、こんなに痛かったけど。
やっと、伝えられた。
やっと、心が重なった。
校庭には花が咲き始めて、制服姿の生徒たちの笑い声が響いてる。
りこは、少しだけ髪を伸ばしていた。
制服のリボンを整えながら、教室の窓から外を見つめている。
クラスメイト「りこー!写真撮ろう〜!」
りこ(微笑んで)「うん、すぐ行く!」
そのあと、少しだけ躊躇してからスマホを取り出す。
りこ:「終わったよ。今どこ?」
げんたが、桜の木の下で待っていた。
制服のネクタイをゆるめて、ちょっとそわそわしてる。
そこに、りこが走ってくる。
りこ「げんた!」
げんた「おつかれ。……ちゃんと泣かなかった?」
りこ「ちょっと泣いたよ、先生の話が長すぎて」
二人で笑う。
げんたは、ポケットから小さな手紙を出す。
げんた「これ、卒業祝いってことで。別に大したもんじゃねぇけど」
りこ「なにこれ、手紙? 今読むの?」
げんた(照れながら)「今じゃなくてもいいけど…たぶん、笑うと思う」
りこは嬉しそうに受け取って、胸にしまう。
りこ「じゃあ、あとで読む。絶対」
二人は並んで歩き出す。
夕方の光に包まれて、肩がほんの少しだけ、くっついていた。
二人が並んで立っている。
桜が舞って、風が少しだけ強く吹く。
でも、その手と手は──
もう、離れていなかった。