いじめ要素有
死ネタ
カラ一
「辛いのはお前だけじゃない!」「皆辛いよ?」「弱いね」「気持ち悪い…」「自己中」「死ね」「いつ死ぬの?」………………………
「俺はお前を信じてるぞ!!」
ああもう、うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!!!
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拝啓、大好きな家族へ
私松野一松は本日をもちまして生きる事を辞めさせて頂きます。
誠に身勝手な話である事重々承知しておりますが、もう限界です故どうかお許し下さい。
今までの感謝は忘れません。
余り長くなるのも癪なのでこれにて遺書を終わらせて頂きます。
さようなら
一松
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最愛の弟を亡くしてから早一ヶ月。
人という生き物は余りにもショックを受けると感情が無くなる事を知った。
両親は魂が抜かれたように呆け、未だに遺品整理が出来ない儘である。
遺された俺達五人は意外にも荒ぶる事無く両親の代わりに葬式の詳細を決めるなど両親をしっかり支えられていた。
両親がああなので葬式やら火葬やらが少し落ち着いた今、一松の遺品整理をしようと5人で2階へ集まっている。
おそ松はいつも通り。
チョロ松は神妙な面持ちで。
十四松は眉を下げて。
トド松は少し目を潤わせて。
俺は一松の私物が入っていた棚を開けて棚の引き出し毎丁寧に取り出した。
一松はチョロ松の様にキッチリ整頓するタイプでも無いし十四松やおそ松のようにぐちゃぐちゃにするタイプでもないしトド松のように一つ一つ区切りを付けるタイプでもない。
さしずめ俺と一松は似ていた。
しかし入っている物は全く似ていないのだから、やはり六つ子とはいえそれぞれ他人なのだと実感する。
そんな事を考えながら一松の引き出しの中の物を一つ一つ取り出していく。
猫缶、猫じゃらし、猫の本、猫模様の文房具。
猫だらけの持ち物に皆が一松らしいと笑い合う中、俺はふと手帳を見付けた。
ペラペラを中を拝見すれば皆も何だ何だと集まり、5人で小さな手帳を読むという異様な光景へと進化した。
どうやら日記のようだ。
驚く事に高校生の頃から綴られているようで、色々な事が書かれていた。
○○先生に怒られただの、○○達とカラオケに行っただの、正に高校生活を謳歌しているような内容から、雲行きが怪しくなったのは丁度2年生の二学期からだった。
内容が可笑しくなる前の最後の日記にはこう綴られていた。
「○月△日、今日は身に覚えの無いことで酷く先生に叱られた。それにクラスの皆もコソコソと悪口を言っていて、居心地が悪かった。友達だって俺を避けていた。どうして?俺やってないよ?」
この日記を発端に、一松に対する酷い仕打ちが書き綴られ始めた。
暫く同じような内容が続いた頃、突然日記では無くなった。
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もうやだ。死にたい。助けて。何で僕がこんな目に遭うの?全員殺してやる。許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない。僕を虐めた奴も、見て見ぬふりした奴も、何も知らない癖に励ましてきた奴も。絶対、許さない。
僕も、こんな僕自身を許さない。絶対に。
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一松の悲痛な叫びが連なる。
そういえば丁度この位の頃、一松が俺に神妙な面持ちで相談してきた事があった。
一松が説明もせず「辛い、死にたい」と云うものだからなにか辛いことがあったのだろうと思ったが、どうせ大した事では無いだろうと心此処に在らずで励ましていた。
「大丈夫だ!辛いのはお前だけじゃない!俺はお前を信じてるぞ!」
その時眠たげに閉じられた目に涙をいっぱいに溜める一松を見て、俺の励ましで楽になったのだと勘違いしてしまった。
きっと…いや、確実に俺はその時以上に一松を追い詰めていたのだろう。
なんて酷い兄だ。兄の資格すら無いかもしれない。
皆兄弟も酷く悔やんでいる。
お願いだから、戻って来てくれ。今度はちゃんとお前の話を聞くから、お前の心の支えになるから!!
瞬間
酷い眠気が俺達を襲い、俺達はその場に倒れ込んだ。
次に目を覚ましたのはもう夕飯の時間だった。
階下から俺達を呼ぶ声に眼を擦りながら向かおうとする。
目覚めたのは俺が最後らしい。
ゾロゾロと皆で向かう中、耳元でクスクスと笑う低い声に驚き勢いよく振り返る。
そこには誰も居ない。
どうやら俺以外の誰にも聞こえなかったようで皆がどうしたと怪訝な顔をしている。
「あ、あぁ…いや、何も無いさ!さぁ、ディナーへ急ごう。」
冷や汗をかきながら皆を階下へ急がせ、もう一度振り返った。
そこには生前の姿の儘最愛の弟が居た。一つ可笑しな事があるとすれば、弟が浮いていた事だった。
「?!いっいちm「しー。静かにして。」…」
一松は口元に人差し指を宛てがいながら、俺の背中を押して居間へ向かわせた。
夕食を食べている間も兄弟、特に十四松の頭を撫でたりトド松の頬を突いたりしていた。
2人は何者かに触られた事について驚きはしたが直ぐにいつも通りに戻っていた。
俺は気が気でなかった。
きっと俺に復讐をしに来たのだろう。
どうすれば、どうすればいいのだろうか。
一松はどうやってここへ来たのだろう。
チラチラと一松を見詰めるが、その度に冷ややかで、慈しみを含んだ様な瞳に射止められ、直ぐに逸らしてしまう。
食事が終わり、皆が日課の銭湯へ行こうと用意をし出す。
カラ松はいつもより緩やかな動きでゆっくり食器を食洗機へ入れる。
その間も一松は背後でふわりふわりと宙を泳いでいる。
グダグダしているカラ松に皆が先に行くと声を掛ける。
4人の喧騒が聞こえなくなった頃、着替えの準備をしているカラ松に一松が口を開いた。
「俺さ、お前の事好きだったんだよ」
手が止まる。
今、今一松はなんと言った?
何が好きだった?誰が、誰を?
突然のカミングアウトに思考が渦巻き、手が震えだす。
そんな俺に気付きもせず一松は淡々と話していく。
「好きになったきっかけは高一の文化祭。一年にも拘わらずその努力と才能で主人公を勝ち取ってしっかり最後まで演じた姿に惚れたの。」
恥ずかしいやら、戸惑いやらで何も考えられずいる。
「それで高二の中盤頃、俺は虐められ始めた。知ってるよね?日記、見てたもんね。」
耐えられず視線を下に向ける。
そんな俺の顎を力強く掴みあげ、一松は酷く鋭い目付きで俺を睨み付けた。
が、すぐさま手を離して悲しげな顔をした。
「まぁ別にお前だけのせいで死んだ訳じゃないけどね…詳しい事情を話さなかった俺も悪かったし…これだけ伝えたかった。もう、良いや。これで話終わりね。」
全てを諦めたような顔で俯く一松を思い切り抱き締める。
しかし一松には触れられず、そのままの勢いで床へ倒れ込んでしまった。
そんな俺を見て少し微笑んだ一松の顔がとても綺麗で、儚くて。
「お、俺、ずっとお前に謝りたくてっ…、それで、俺もお前の事好きだって…言いたくて…」
堪らず溢れ出てくる涙を拭いもせず一松に思いを吐き出す。
一松は目を見開いてワナワナと震えている。
「…い、ずるい、ずるいずるいずるい!!今になってそんな、そんな事って無いじゃん…両想いだったんなら早く言ってよぉ…」
膝から崩れ落ちて顔を覆い号泣する一松。
抱き締めたくて、指先で肩先をなぞる。
そこには確かな感触があって、俺は暫し驚いた後、一松を力強く抱き締めた。
「ごめん、ごめん一松、本当にごめん…愛してる。愛してるんだ…本当は伝えたかった…」
一松は泣きじゃくりながら何度も頷いた。
俺も涙をボロボロ零しながらいつまでも一松を抱き締めていた。
暫くして、一松が顔を赤くしてもういい、と言った。
「もういい、もういいよ。正直まだ怒ってるけど、嬉しかった。…待ってるから、何十年後くらいに逢いに来てよね…」
そう言って一松は俺の前髪をかきあげて柔らかくて冷たい唇を押し付けた。
俺は目を瞑っていたが、次に目を開いた時には一松は消えていた。
丁度4人が帰宅し、俺は家の風呂に入る事にした。
いつものジーパンを脱ごうとした時、ポケットから何かがひらりと床へ落ちた。
疑問に思い拾い上げると、そこには一松の文字が羅列していた。
丸っこくて可愛らしい一松だけの文字。
「だいっきらいだばーか。」
一松らしいと微笑みを浮かべる。
裏にも何か書いてあるのか、文字が透けていた。
裏返す
「うそ、すきだよ。」
じわりと瞳に滲む涙を乱暴に拭い、俺は丁寧に折って財布へ入れた。
「俺も大好きだぞ。待っていてくれ。」
ボソリと呟いて一松を思い浮かべながら笑った。
コメント
2件
一松辛かったね😭