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第四話:猿との友情
ジャングルの夜は、星一つないほどに暗かった。
木々のざわめきは風ではなく、怒りや不安に満ちたクラスティーの心そのものだった。
「なあ、メル…オレたち、ダイヤモンドの欠片、また全部奪われちまったな…」
クラスティーが、焚き火の前で落ち込んだ様子で言った。
赤いダイヤモンドの欠片は三つ。苦労して集めたのに、あのライバル関係の冒険家、ボス・ヴァン・カーヴに再び奪われてしまったのだ。
「でも、奴らがまだ知らないことがある」
サイドショー・メルが地図を広げながら目を光らせる。
「このジャングルの奥に、第四の欠片があるっていう情報を、あいつらは知らない」
クラスティーの目が輝く。「マジか!? よし、行くぞ!オレたちのショーのためにも!」
翌朝、二人はジャングルを突き進み、急流を越え、つり橋を渡り、奇妙な植物がうごめく密林の奥へと踏み込んだ。
数時間後──
「見ろ、あそこ!」
クラスティーが叫んだ先、陽光が差す古代遺跡のような空間の中央に、赤く輝く欠片が浮かんでいた。
「間違いない、赤いダイヤモンドの四つ目だ!」
だが、彼らが一歩踏み出した瞬間──
パッ!
欠片を小さな手がつかみ、木の上へ跳ね上がった。
「サルだ!?」「ダイヤ盗まれたーー!!」
クラスティーが頭を抱える。「オレのショーがぁぁぁ……!」
サルはそのまま森の奥へ消えていった。
クラスティーとメルはサルを追って、急な坂を駆け上り、泥の中を転げながら、汗だくで進んだ。
「どこ行ったんだ、あの野郎…!」
すると、木々の合間から小さな声が聞こえてきた。
「キャキャキャ…!」
クラスティーとメルが隠れて様子をうかがうと、先ほどのサル──どこか寂しそうな目をした、小さな若いサルが──他のサルたちに囲まれていた。
だが様子が変だ。仲良くしているのではない。
その小さなサルは、仲間たちから果物を奪われ、叩かれ、笑われていた。
「…いじめられてる?」クラスティーが呟く。
「あのサル、仲間はずれにされてるんだ」メルが眉をひそめる。
果物を投げつけられ、逃げるように木陰に隠れるその小さなサル。胸にしっかり、赤いダイヤモンドの欠片を抱えていた。
「まるで…昔のオレを見てるみたいだな」クラスティーがポツリとつぶやいた。
その夜、クラスティーとメルは焚き火の近くに小さな果物と木の実を並べ、そっと笛を吹いた。
「おーい、おサルさん、こっちだぞ~。怖くないから出ておいで~…」
数時間たったころ、木陰からひょこっと顔を出した小さなサル。そっと近づき、果物を一つつまんで口にした。
「うまいだろ?そいつは特別にジャングルマスタードを塗ったんだ」クラスティーが笑うと、サルは目を丸くしてさらに食べ始めた。
少しずつ距離が縮まり、ついにクラスティーの肩に乗るまでになった。
「名前つけようぜ、こいつに」
「また番組のマスコットにする気か…?」メルがあきれた顔をする。
「決めた!“ピーナッツ”だ!」
サルは「キッキッ」と嬉しそうに鳴いた。
次の日、クラスティーたちはピーナッツと一緒に、いじめっ子サルたちの群れの元へと向かった。
そして、果物の木を見つけては、彼らにも分け与えた。
「オレたちは敵じゃない!」
「仲間はずれにされたサルが、どれだけ心細いかわかるか!」
初めは警戒していたサルたちも、次第にクラスティーとメルの優しさに心を開き始めた。
ついに──ピーナッツは仲間たちの輪に戻っていった。
その夜、ピーナッツはクラスティーに近づき、胸に抱えていた赤いダイヤモンドの欠片をそっと差し出した。
「お前…くれるのか?」
「キャッ」
クラスティーは目を潤ませながら受け取った。
帰り道、メルがぽつりと言う。
「また一個だけ戻ってきたな」
「それでも…大事な一個だ。友情ってやつは、ダイヤよりも強いんだよ」
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