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6.世界は俺を連れ戻す
「じゃあ練習行ってくるけど、お前は流石に家におれよ。ぜってー出んな。」
「分かってるよ、いってらっしゃい。」
氷織と烏が出ていき玄関の扉がしまったのを目で確認するとその場に座り込む。
「…凪、大丈夫かな。」
どちらにせよ2人には長くは迷惑かけられない。
2人にも選手としての人生がある。
俺も凪も一時的な休暇は取ってあるもW杯までに間に合うかも分からない。
ダメだ。頭が回らない。
何もかもが上手くいく気配が見えない。
「…はぁ。」
誰も居なくなった部屋の真ん中に立ち尽くしてそっとため息をつく。
玄関からここまでのたった数歩歩く事でさえ難しいなんて。
自分で選んだ洗濯を後悔するなんて。
自分が惨めで仕方がなかった。
「続いてのニュースです。現在世界中でニュースとなっている御影コーポレーションの一人息子でありサッカー日本代表として名高い御影玲王先週が3日ほど前から行方不明となっていることについてです。現在も捜索を……」
ここまで有名だとやっぱり世界は俺を置いて行ってはくれない。
分かってはいたもののやっぱり動きづらい。
凪に会いたいのに今更会えない。
まただ、また俺は後悔してる。
何度も夢見たあの日が俺の後悔の原因になっていた。
あの日約束なんてしなかったら。
あの日無理を行ってでも迎えに行っていたら。
あの日、いやもっと前から凪を俺のものになんてしなければ。
遅すぎることを今更。
でもこれ以外に方法が見つからないのはなぜだろうか。
寂しさは、世界は、俺が好きすぎる。
「…凪、玲王はまだ見つからない。連絡もつかないし目撃情報も出てない。ニュースでは毎日言われてるのに。」
病室の窓から差し込んだ光は眠る凪に浴びせられている。
長いまつ毛にふわふわとした白い髪。
スポーツ選手としては白くて細い手足。
でも筋肉がしっかりとあり男らしい。
玲王が見つけた宝物。
その宝物は今もなお海底に眠っている。
「…なにやってんだよ、玲王。」
何もできない自分に腹が立った。
動きもしない凪がいつか消えてしまうことが怖くて動けない、そんな言い訳をしている。
鏡に映る俺はエゴイストなんかじゃない。
ただの弱い軟弱者だ。
「…ほんま馬鹿やな。」