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7.鈍感なヒーローへ送る声
「…凪、凛も玲王もみんな居なくなった。…お前も…消えたりすんの…?」
俺の吐き捨てた問いかけに答えてくれる人はいなかった。
「…凛…。」
玲王が行方不明になった日、俺は当時交際していた凛に別れを告げた。
凛に冷めたとか嫌いになったとか、そんな単純な理由だったらよかった。
玲王と凪が壊れていくのを目の前にいつか俺たちもこうなる日があるかもしれない。
そんな未確定な未来に怯えた自分の弱さが原因だった。
“俺はどかにもいかねぇ。お前が思ってるほど弱くはねぇし、運だった余るほど持ってる”
あの日、初めてあんなにも感情的に動揺した凛を見たと思う。
忘れられなかった。
俺の弱さが凛を壊してしまったこと。
(…脈が弱まってる、か。このまま目が覚めずに…なんてこともあるんだよな。)
心の中で不吉なことを想像しているとズボンのポケットに入れていたスマホが振動した。
慌てて手に取り出して着信画面を見る。
そこには元パートナーの黒名の名前があった。
「黒名、どーかしたか?」
「凪のニュースみたんだ。玲王のことも。」
「それで俺に?…残念だけど期待できるような話は持ってないんだ。 」
電話越しに軽く謝ると黒名は「いや」と話を続けた。
「玲王の居場所が分かった。」
予想もしてなかった言葉にスマホが落ちそうになった。
「まじかよ…どこだ。どこにいる??」
「…言わない。」
黒名はそれっきり口を開かなかった。
仕方なく電話を切るも心の中で疑問ばかりが浮かんできた。
(どうしてわざわざ電話してきたのに教えてくれない…??言わないってなんだよ…)
黒名の言葉に確証がある訳じゃない。
だけど黒名はこんな時にそんな嘘つく奴じゃない。
意地悪したくて恨みがあって「言わない」なんか言ってきたんじゃない。
そんな事は充分に分かっていた。
「…なんだよ、それ。俺は何すれば…ッ」
「黒名くん、やっぱり潔くんに連絡したんだね。教えないの?居場所。」
目の前に置かれたマグカップに氷織はゆっくりとお湯を注ぐ。
その様子を眺めながら俺は話した。
「潔なら自分の手で見つけられる。あくまで俺は背中を押しただけ。それに玲王はそんな簡単に帰りたくない事情があるんだろ。」
そう言って目線を斜め前に座っている玲王に向けた。
「…あぁ。…分かってるんだよ、こんなこと間違ってる。でも…向き合うのは怖い。想像もできないほどに恐ろしい。」
玲王と目が合わない。
疲れ切った顔で口だけを動かしている。
「…大丈夫。今君にできる事は潔くんを信用すること。向き合おうとするから怖いんだ。タイミングは少なくとも今じゃないと思うよ。」
氷織は玲王の肩にそっと手を乗せた。
これは俺と氷織からの潔への挑戦状だ。