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クリスマスの夜。ふとなんとなしに空の境界をもう一度だけ、といっても最初の出だしだけ読み返してみた。
やはり、この独特な出だしが好きだなぁと思いながらスマホの画面への目を移してお気に入りにしてある「」…剣式さんのボイスを聞いてみた。
式さんの控えめで、大きな抑揚のない落ち着いた声のトーンで発せられる言葉はどれもストンと耳に落ちていく。
「貴方のためなら、どんな間違いも犯してしまいそう」
何度聴いてもゾクリとする言葉だ。ゲームの中の事ながら、そこまでに深く危うく真っ直ぐに言い放つ。もし現実に剣式さんがいたら、きっと”藤丸立香”ではない私では溺れていってしまう。
たおやかで、芯の通った綺麗な人。刀をそのまま人にしたような存在は、どこまでも私を魅力して離さない。声を聞くだけでも、すっと切り込みを入れられるみたいに深く染み渡る。
雪のように儚く美しい。限りなくif、いや、不可能だろうけど願わずにいられない。
もし会えるなら、雪が振る夜に──
意識が暗転した後に”あぁこれは夢だ”と強く感じた。今までにも明晰夢のようなものは見たことはあるけれど、今見ている夢のように現実と変わりない鮮明すぎる意識は、少し怖い。
「こうして出会うのは初めてね。マスター」
溺れる。溺れて、溶けて、消える。
あぁ、なんで。私に、あなたが。
「この聖なる夜に、貴女に会いに来たの。自分で言うのは少し変かもしれないけれど、素敵なクリスマスプレゼントでしょう?」
とっても大好きな作品の、とっても大好きな人が、自分に会いに来てくれるなんて。奇跡なんて言葉では言い表せられない。これが私の夢でも、私自身が私に言ったものでも良い。嘘幻でも、こんなに嬉しいことは無いのだから。
「ふふっ。喜んで貰えて嬉しいわ。私、ずっとこれからマスターの傍を離れないから、よろしくお願いするわね」
心臓を薄く、表皮をかすり取られたような謎の恐怖感と、それにじっとりと粘り着く喜びが体の内を満たす。式さんに会えてヒートアップを起こし過ぎた感情はそれに気付かず、ただ眩む意識の中でひたすら目の前の式さんを忘れないように見詰めるばかりだった。
眠気を帯びた視界が開く。手に触れたままのスマホから察するに、ゲームを開いたままにして寝落ちしてしまったらしい。スマホを触ったついでに今の時間を確認してみたら、もう深夜2時だった。
開きっぱなしの寝室のカーテンから射し込む月の光が、今日は何故だか浮世離れして幻想的に見えた。
特に理由は無いけれど、なんとなしに利き手を伸ばした。実体がないはずの月明かりに触れてみたいと。普段はそんなメルヘンチックなことを考えもしないのに。
「こんばんは。マスター。夢の中でも可愛かったけれど、現実の方がとても可愛らしいわね」
きらきらと薄く輝いて見えた光は式さんの体が浮かび上がって、伸ばした手は式さんの手で握られていた。そして、私の目線に合わせて式さんは屈んで、私を抱き締める。
「ねぇ、マスター。貴女の名前を教えてくださる?貴女をちゃんと名前で呼んで、触れ合いたいから」
式さんの言うがままに、私の思うがままに。私は私の名前を式さんにゆっくりと伝えた。伝えたら、式さんは嬉しそうに名前を何度か言って、私をもう一度優しく抱きしめてから、唇を触れるだけの接吻をした。